第11話 優しい優しいサンドとユフィア

「あれが水のユフィアと砂のサンドか、かっけえな」

「手練れの敵をすげえ魔法でやっつけたらしいぜ。今この街で一番勢いのある奴らだよ」

「パーティは二人だけでやっていくのかな? うちに入ってくれねえかなあ」


 護衛任務以降、俺たちは街を歩いているだけで噂されるようになっていた。

 たまに表立って握手してくれよ! と言ってくる人もいるが、何がそんなに凄いのだろうか。


 俺はただやるべきことをやっただけだ。


 冒険者として任務を遂行し、エウリを無事に送り届けた。


 確かにちょっとばかり強かったのかもしれない。

 けれども、そんな凄いことか?


「サンドさん、凄い笑顔ですね」

「え?」

「さっき握手求められたときとか、可愛かったですよ。もうなんか、人生最高の瞬間ってくらい満面の笑みでした!」


 ちなみにユフィアはいい子だ。悪気なんて一切ないことはわかっている。

 けれども、今の俺には棘のように刺さる。


 砂があったら入りたい。


「みんなに夢を与えるのは、冒険者の仕事だろ?」


 するとユフィアはパアッと太陽のような笑顔を見せてくれた。

 なんか、ごめん。


「凄いです! 私もサンドさんを見習って夢を与え続けたいです!」

「そう気を張らなくていい。俺たちの砂の旅はこれからだからな」

「はい!」


 本当にごめん。ただ嬉しかっただけなんだ。


 いつものように朝一でギルドに入ると、たくさんの依頼書が掲示板に貼られていた。

 昼を過ぎるとなくなるので、できるだけ早起きしている。


 その場にいた数人の冒険者が、俺たちの一足一挙に注目している。


「どの依頼を受けるんだろうな。やっぱ金かな?」

「ダイヤモンド級があればやってたかもな」


 なんか凄いこと言われている。

 一応、まだレベルは低いからね!?


 そして俺は、一つの依頼書で手が止まる。


「ユフィア、今日はこれにしないか? お金は、そんなもらえないと思うが……」

「――もちろんです!」


 もちろんユフィアは、満面の笑みで答えてくれた。


  ◇

 

 街は富裕層と貧困層でエリアが分かれている。

 詳しく調べれば、もっと細分化できるだろうが。


 で、俺たちが今いる場所は――。


「これは……何とも言えないね」

「税金をかけるにも優先順位があるんだろうな。地面がボロボロだ」


 街の西門近く。ここは土地が一番安い。

 その理由は、すぐ近くに危険な森が多いからだ。


 商人たちの通行も、北から南へと利便性がある通路に限られている。

 よって貧困層が多く住む。


 噴水の水は止まっており、家もメインストリートよりもう一段階古い気がする。


 ここまで違うと、無関係であっても心が痛む。

 

 いや、これは綺麗ごとか。

 事実、俺は泣いてもないし、時間が立てば忘れるはず。


 ただ、やるべきことをやろう。


「さて、さっそく噴水に手を付けるか」

「そうですね! でも、先に許可を取ったほうが良くないですか?」

「許可? 依頼書に書いてただろ?」

「でも、突然誰かが来て何かしていたら、怖いと思います」


 依頼書には、噴水や修復してほしいと書かれていた。

 冒険者ギルドには様々な人が出入りするが、こういった専門的な分野は誰もできず、いつまでたっても残り続ける。


 かといって依頼主もドワーフのような確かな技術を持った人に頼むほど金がないのだろう。

 異世界は良くも悪くも自己責任が多い。

 国が補強してくれるのは、富裕層からとなる。


 だから個人で依頼したのだろう。


 俺は、ユフィアの言う通り近辺に許可を取ることにした。

 無意味な行為だと思っていたが、その考えはすぐに改めた。


「本当ですか? 嬉しいです。噴水がまた見られるなんて……」

「ああ、ありがとうございます」

「やったー! うれしいー!」


 噴水の隣には、水をくむ井戸もある。

 これも壊れているらしく、飲料水を使うには買うか、北門の井戸まで行くしかない。


 気づけば大勢が見学に来ていた。

 別に面白い物ではないが……。


「ユフィア、子供たちが魔法で怪我しないように注意してくれ」

「はい!」


 壊れた噴水に手を置いて、元の噴水をイメージする。

 もちろん完璧に戻すなんて不可能だ。


 けど、俺好みに変えていいのなら簡単だ。


 崩れていた噴水が、徐々に戻っていく。


 決して善意からじゃない。


 冒険者ギルドには、貢献度と呼ばれるシステムがある。

 

 人があまりやらないような仕事や、塩漬けになった(誰も手をつけない隠語)依頼を受けると、冒険者としての信頼度が上がる。


 分かりやすくいえば、クチコミのレビューみたいなもんだ。


 成績優秀ですよ、これだけ大勢の人に好かれてますよ、とアピールできる。

 そうなると直接個人依頼が増えることで見入りも増えるし、貴族を相手に商売もしやすくなるだろう。


 これも全て未来の自分の為。


 ま、その過程で大勢が喜べば御の字だがな。


「すげえ、これが【魔法】か」

「噴水が治っていく……」

「かっこいいー!」


 ものの数十秒で、噴水は綺麗になった。

 といっても細部の銅像はちょっと俺好みになっているが。


「あんな裸の女神様いたかのぅ?」

「いっぱいいるのぅ、でもかわいいのぅ」

「かわいいー!」


 少しビクっとしたが、子供が喜んでくれたのでよし!

 これは芸術だ!


「ユフィア、後は任せていいか?」

「はい!」


 次は彼女の出番だ。水は管を通ってきているが、細部の手助けが必要だ。

 しっかりと今後も流れるように、魔力を通わせて水を動かしてあげる。

 

 ゆっくり、それでいて着実に水が流れる音が聞こえはじめると、突然に爆発した。

 噴水は思い切り天にのぼって打ちあがり、雨のように降り注ぐ。


 周囲の住民からは歓声が響き、すぐに井戸も開通させた。


「ユフィア、お疲れ――」


 俺は、彼女と喜びを分かち合う為に駆け寄った。

 だが白いシャツを着ていたこと、水がかかったこと、それが問題、いや幸運だった。


 たゆんたゆんが透けており、なんだったらTKBが見えている。

 思わず頬が緩んで吸い込まれそうになるが、思いとどまった。


「お、おい透けてるぞ!?」

「え? あ、わ、わわ!?」

 

 彼女は慌てて手で隠す。住民は噴水で喜んでいて誰も気づいていない。


 俺はすぐにシャツを脱ぐと彼女に手渡した。


「えへへ、優しいですねサンドさん」

「……どうだろうな」


 俺は優しくなんかない。全部、自分の為だ。

 前世と違って、自己中心的に生きている。


 だが、彼女といれば少し優しくなれている。


 他にもそんな仲間がいると嬉しいな。


 ほかにも色々と補強して、大勢から感謝されたが、驚いた事もあった。

 それは、レベルがあがったことだ。

 使えば使よくなれるのかもしれない。これは、原作と違う。


 砂補強サンドパワーも覚えた。武器や身体を強化することができるらしい。


 するとそのとき、ユフィアが竹筒を渡してくれた。

 だが、水が入ってない。


 SUMOUスタイルで目の保養するかと思っていたら、なんと、普通に手から水を出した。

 普通にだ。大事なことなので、二回。


「な、なぜ……」

「ふふふ、私も成長しました。こうやって、ちゃんと美味しい水を手から出せるようになりましたよ。お互い、前に進んでますよね」

 

 ごくごくと水を飲み干しながら、前のほうが良かったとは言えなかった。

 ユフィア、ごめんね。俺は最低だ。

 ただやっぱり、ユフィアの聖水は美味しい。


 依頼は完了、ギルドに戻って報告書を提出した。


 宿代がかからないこともあって金も無事に溜まってきているが、金では買えない欲しいものがある。

 それは、これから先の旅での必需品だ。


「すみません、ダンジョンの許可ってもらえますか?」

「はい。ええーと、そうですね。貢献度ポイントも今のでたまりましたし、問題ないですよ!」


 ギルドのお姉さんからその言葉を聞いて、俺は微笑んだ。

 【フリファン】には、世界各地にダンジョンがある。


 お金を稼いだり、素材にはもってこいの場所だ。


 だがそれよりもおいしいのは、フロアボスを倒した時に【報酬】があるのだ。


 なんと、必ずといっていいほど良い【アイテム】が出るのだ。


 そしてほとんどの人は知らないが、ダンジョンのアイテムは固定化さている。


 【南】に向かいながら、すべてのダンジョンをクリアしてやろう。


 俺は、強欲に生きると決めたのだ。



 

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