第10話 もしかしてちょっと、やりすぎちまったかァ?

 俺は今でこそ戦えるが、初めはそうじゃなかった。

 ロック家では兄二人にいびられていたし、木剣の訓練で何度も骨を折られた。


 そのたびに身体は震えていたし、当然痛かった。でも……それ以上に悔しかった。


 心が弱かった。勝てる勝てないじゃない、怖くて動かなかった。


 前世の記憶が戻ってからも、その精神はすぐに変わらなかった。

 けれども、使用人たちが文句を言われている姿を見て、ハッとなった。


 俺が弱くては何も変わらないと。


 それからは身体を鍛え始めた。魔法も毎日、こっそり遅くまで訓練した。

 苦しくて悔しくて、なんで俺はこんなにも弱いんだと悪態を吐きながら。


 それでようやく使いこなせるようになったのが【砂】だ。


 今でも剣は怖い。魔物にも恐怖を感じる。


 けどな。


 守りたいものが守れない――それが、一番嫌いなんだよ。



「す、すげえええええええええええ」

「な、なんでこんな子供がシルバーなんだ!?」

「魔法も全部防ぐなんて……それにあれは、上級魔法のエフェクトだったぞ!?」


 魔力の矢だけでなく、続けて魔力砲が飛んできた。

 凄まじい威力の複数属性。


 だがそんな基本四大元素ごときで、俺の神託級に敵うと思ってんのか?


「――ユフィア、無理するなよ」

「大丈夫です。サンドさんのおかげで私は消費も少なくてすんでいますから」


 冒険者部隊の先頭、俺とユフィアは横並びで立っていた。

 すべての脅威を防ぎ、後ろでは冒険者たちが感嘆の声を上げている。


 

 ……まったく。



 (気持ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい)


 え、なにこれ。俺たちかっこよくない?


 凄くないこれ? 一見子供、いや15歳の子供だが、「ふっ」みたいな感じで攻撃を防ぐなんて足ガクガクものじゃない?


 た、たまらん。

 砂の承認欲求がたまらんぐらいグングン増えている。


 めちゃくちゃニヤけそう。

 振り返ってみんなの羨望のまなざしを肌で感じたい。

 どう? ねえどう? 俺の砂どう? すごいっしょ? ヤバいっしょ? って感じでドヤ顔したい。


「サンドさん、お顔がヒクヒクしています。もしかして魔力の使いすぎではないですか?」

「……違うな。これは武者震いだ。俺は、顔にでる性質なんだよ」

「凄い。私なんて身体が震えてます。……本当にサンドさんは、カッコイイです」

「そんなに褒めても、砂しか出ないぜ」


 (気持ちい。ユフィアめ、憂い奴だ。なんて絶妙に俺の心をくすぐってくれるんだ。でも嘘だ。ごめん。ただちょっと嬉しいだけなんだ。ああ、砂大好き。砂ちゃん好き。砂砂砂、砂魔法で良かったああ)


「サンドさん、来ます!」

「おう!」


 それから何度か攻撃を防いでいたら、追撃がピタリと止んだ。

 無駄だとわかったのだろう。とはいえ、ここからが本番に違いない。


 遠距離攻撃が通じなければどうするか? もちろん、近距離戦だ。


 魔法の弱点はいくつもある。単純な魔力切れはもちろん、敵味方が入り乱れると同士討ちの危険性が増す。

 強い奴はほとんどが魔法戦士だ。

 剣を片手、もしくは杖を鈍器として戦う。

 もちろん、隙があればジェダイのフォースみたいに突然魔法を放つ。映画を見ていて、もっとフォース使ってよ! の疑問が解決された。多分、隙ができるからだ。多分な。


 後ろに下がってもいいが、これだけの人数だと陣形にばらつきがでる。

 迎え撃つ方がいいだろう。


「やるじゃないかシルバー」

「嫌だねえ。こうやって俺たちは新人に追い抜かされちまう」

「私たちも頑張らなきゃね」


 横に並んできたのは、俺が手練れだと感じていた冒険者だった。

 最近は嫌な奴らが目についていたが、こうやって肩を並べてくれる先輩はありがたい。


「お、俺たちもだ!」

「やるぞ!」


 後ろでも声が上がる。兵士たちは馬車を守っている。

 みんなやるべきことをやっているのだ。

 なら俺が、守ってやる。


 やがて前方から大勢の敵が駆けてきた。どこかの兵士だろうが、服がバラバラだ。


 多分これはあえてだ。身分を隠しているなら、逆にどこかの国だと思って気を遣う必要はない。


 俺は、自分でも知らなかったことがある。


 苦労を乗り越えて強くなった今、新たな感情だ。


 ――敵を蹂躙するのは、存外に楽しい。


 地面に手をかざして魔力を流し込む

 やがて地面が海のようにうねると、衝撃はを飛ばした。

 それがぶち当たると、大勢の敵を吹き飛ばした。もちろん避けたやつもいるが。


「馬車を狙え!!!!」


 敵の一人が叫び、狙いも確信した。

 後は、こいつらを叩き潰せばいいだけだ。


「ユフィア、死ぬなよ」

「もちろんです!」


 最初に俺たちの隣に並んだ冒険者は、やはりかなりの手練れだった。

 凄まじい動きで敵を倒していく。その容赦のなさは流石というべきだ。


 ユフィアは戦いながらも味方を守る為、水防御で仲間を助けていた。

 実に彼女らしい、被害を最小限に抑える方法だ。


 俺は砂を使って多くを相手にしていた。

 どいつもこいつも羽虫以下。


 もっとレベルがあがれば、こいつらをまとめて砂でやれたな。


「な、なんだこの砂女子ゴーレム!? クソ、攻撃しても死なねえじゃねえか!」

「うわああああああああ」

「ひ、ひいい」


 砂女子は不死身の戦士だ。

 斬る、守るしかまだできないが、特筆すべきは痛みがないということ。

 魔力が断ち切られるまで、俺が敵と認識した相手に突撃し続ける。


 ハッ、まるで王様になった気分だ。


「クソ、武器が!」

「俺もだ!」


 気づいた事がある。それは、戦っていると武器が壊れたり落ちてしまったりすることだ。

 そうなると戦えなくなってしまう。


 ――だが、俺がいれば問題ない。


 戦いながら、横目で冒険者の一人一人の手元に砂をかき集めていく。

 それらがすべて砂の剣や鈍器に変わる。


 耐久性が高く、壊れても復活できる即席の武器だ。


 冒険者たちは突然のことに驚きつつも対応し、そのままふたたび敵を倒し続けた。


 やがて敵は劣勢となり、逃亡しようとする。


 だが――。


「――逃がすわけねえだろ?」


 砂はこういう使い方もできるんだぜ。


 地面からせり上がっていくと、砂が大勢を囲んだ。

 そのまま縮めると、砂の縄になっていく。


 これで試合終了。全て捕縛した。


 振り返ると、大勢の冒険者が声を上げていた。


「す、すごすぎるだろ……」

「……伝説を見たかもな。この砂武器、全部作ってくれたんだろ?」

「はあはあ……こりゃ、一生ものの話だわ」


 な、なんか、驚かれ怯えられている!?


「サンドさん、凄いです! お水飲みますか?」

「絶対今じゃない」



 ユフィアの天然を宥めつつ、倒れていた敵の首の紋章に気づく。


 極悪非道として有名な国の部隊だ。

 なるほど、こいつらが絡んでいたのか。


 大方、エウリを誘拐し、金目的だったのだろう。


 全てが終わり、ここからは政治的な話になってくるはず。

 どうやら魔法鳥で連絡をしていたらしく、すぐに兵士の増援もやってきた。


 初めからいてくれればよかったが、そうもいかないのだろう。


 ここで任務は終了となった。冒険者たちが帰っていく。

 何人かは俺に礼をいっていた。それから、うちのパーティにこないか? と誘われたりもした。

 嬉しかったが、誰かについていくよりは自分で行動したい。


「サンドさん、街に戻らないんですか?」

「依頼は終了したが、まだ危険がいないとは限らないからな。港の船着き場まですぐだ。ユフィアは戻っていてくれ――」

「私も付き合いますよ! 当たり前です!」

「……ありがとな」


 俺たちと数人の冒険者はわざわざ残って、少しの目的地まで護衛した。

 これで本当に終わりだ。


 帰り際、馬車から出てきたエルリが、走って俺たちに礼を言いに来た。

 まったく、律儀な子だな。


「本当にありがとうございました。私はただ馬車で守られていただけで、申し訳ございません」

「無事でよかったですよ。ただ、これからはもっと手練れを用意したほうがいいかもしれませんね」

「……もうこれから、誰かにご迷惑を掛けたくはありません。私は、これから強くなりたいと思います」

「強く? 鍛えるってことですか?」


 首を傾げていると、エウリが真っ直ぐに答える。


「いえ、私は王家でありながら、心が弱くて、誰にも何も言えなかったんです。それで……いつも損な役回りをしていました。ですが、あなた達の姿を見ていたら、私も頑張らないといけないと思いました。年齢もそう変わらないあなた達に、勇気づけられたのです。本当にありがとうございました」


 彼女はここで死ぬはずだった。だがそうならなかった。

 気弱だとも書かれていたが、今後は変わっていくだろう。


 何と最後、我が国に来てくれたらお礼をすると言われてしまった。


 ……おとぎ話みたいだな。でも、よかった。


「さて、帰ろうかユフィア。今日はくたくただ、すぐに寝よう」

「はい!」

「しかし、喉が渇いたな。どこか飲み物――」

「ならばご用意します!」


 忘れていた。言ってしまった。


 港ということもあって、周囲には大勢の人がいる。

 マズイ、何をするのか知らないが、いや何となくわかってはいるが、こんな所ではダメだ!?


 制止する暇もなく、ユフィアはスカートをまくしあげて、どすこいよろしくシコを踏み始める。

 そしてどこからか取り出した竹筒を股の間に置く。


 時すでに遅し。

 彼女は、魔法を詠唱した――。


「――聖水」


 しかし彼女は、ハートマークみたいに両手で円を作り、下に向かって手からちろちろと水を出した。

 まさかのSUMOUスタイルで。


「はい。召し上がれ!」

「あ、ありがとう。うん……美味しいな」

「このポーズが一番美味しくできるって気づいたんですよ! でも、はしたないのでいつも隠れてました」


 なるほどそういうことだったのか。

 なんかいろんな変な妄想をしてしまっていた。いやむしろ、それでもいいかもと考えていた。

 ダメダメだ。こんな男が砂の王様になれるはずがない。俺は健全な男、サンドマンだ。


「ありがとな。でもマーライオンも嫌いじゃないよ」

「えへへ、よくわかりませんがありがとうございます! それにサンドさん、凄く格好よかったです。砂の国、頑張って作りましょうね!」


 ああ、やっぱり【フリファン】は面白いな。

 いや……ユフィアといるからか。


 SUMOUスタイルも含めて。



 名前:サンド

 レベル:10→ New 15

 体力:B

 魔力:B

 気力:A

 スキル:【砂】

 操作可能砂量:15㌧

 装備品:白シャツ、茶色いズボン、シルバー冒険者タグ、ブラックソックス

 スキル:砂想像おままごと 砂女子ゴーレム砂球ガシャポン 砂拳サンドパンチ 砂嵐ザラザラアタック

 Nwe! 砂壁サンドカーテン 

 ステータス:承認欲求、砂、熱盛中!

 称号:聖水大好き砂人間サンドマン


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