第10話 落鳴のゼウス
ポセイドンに接近しながら俺たちは二手に別れる。俺とアテナ、ラミアーとペルのグループだ。
「アテナ! 俺はお前をサポートする! ラミアーはペルをサポートしろ!」
「「「了解!」」」
二方向から雷によってポセイドンを攻撃する。左右に分かれた部隊が両側から攻撃を開始した。
「アテナ! 雷でやつを攻撃するんだ!」
「わかってるわ! おじさんは雑魚どもから私を守ってね!」
「任せておけ!」
まだ小型怪獣たちは全滅したわけではない。多くは倒したが、まだ一部が残っている。そいつらを迎撃するのが俺やラミアーの仕事。ポセイドンに雷を浴びせるのがアテナやペルの仕事だ。
ここ数十年、怪獣の相手は俺が一人でやってきた。それは俺一人でなんとかなっていたからだし、怪獣の出現が年に一度や二度だったからだ。それがここ数年で怪獣の出現が極端に増えた。
こうして部隊を組んで戦っているのは、これから出現頻度が増えていく怪獣に対して戦える人員を増やす必要があるからだ。今の俺たちの技術では高機動で撹乱しながら雷を叩き込むのが持ったも有効だ。そのために魔法使いによる部隊を増やしていかなければならない。
最初はどうなることかと思っていた。現代の魔法学園の生徒たちを対怪獣部隊として育成して通用するのか。不安がなかったと言えば嘘になる。だが、今は大丈夫だと思える。生徒たちは怪獣が相手でも戦える。
何度も大型怪獣の周囲で雷が落ち、何度でも雷が青い体表を襲う。
「攻撃の手を緩めるな! ポセイドンが再び動き出す前に圧しきってしまえ!」
「わかってるわ! 分かってるけど!」
そこで、何か妙だと気づいた。攻撃の手応えがない……いや、違う。攻撃は効いているが、それでは足りないのだ。火力が足りてない!
ポセイドンは焼かれた体をすぐに回復させていく。この怪獣は再生能力を持っている。
計算を間違えた。生徒たち二人がかりなら大怪獣も倒せると考えてしまった。だが現実の問題は彼女たちに優しくはなかった。このままではポセイドンを倒しきれない。
すでに見失ってしまったが、今もこの嵐の中、俺たちを離れて撮影しているはずだ。
俺は考える。ここまで生徒たちは充分に頑張った。一ヶ月でここまで戦えるようになったのは大変なことだ。だが、彼女たちに出来るのはここまで。
幾度もの雷がポセイドンを焼き続ける。自然を利用する魔法魔法だって使えば魔力を消費する。アテナはすでに疲れ始めている。向こうのペルたちも同様だろう。そんな度重なる攻撃でも目標を殺しきるには足らない。
生徒たちは疲労している。ポセイドンは回復を続け、すでに攻撃のクールタイムは過ぎている。そのことを表すかのように、巨大な口が開き、中から青い光が漏れ始めていた。
数秒後にはポセイドンの口から大量の水が放出され、辺りに致命的な爆発が引き起こされる。そうすれば生徒たちを待つのは確実な死だ。
もはや考える猶予はなかった。俺は一気に上昇し、アテナから離れる。同時に飛雷針から飛び降り、そのまま飛雷針を掴んで角度を調整。
一瞬後、目映い光が夜の世界を照らす。ほぼ同時に凄まじい轟音が鳴り響き、光の柱がポセイドンを包み込んだ。
数秒後、そこにあった巨大な影はゆっくりと崩れていく。力を失った大量の水が崩れ行く巨体から漏れ出ていく。
生徒たちは、すぐには何が起こったのか理解できていないようだった。俺はアテナの元に戻り、彼女の様子を確認した。
「アテナ! 大丈夫か!?」
「……!?」
大丈夫じゃないな。目と耳をやられている。なんとか飛雷針に捕まっている状態だ。
「すぐに治癒魔法をかけてやる。じっとしてろよ」
その後、アテナを治癒し、残りの生徒たちも治癒して回った。彼女たちからは文句が飛んでくる。
「あんなすごい雷を打つんなら先に教えなさいよ!」
「そうですわ! 何が起こったか分からなかったんですからね!?」
「目と耳を同時に潰されるなんて新鮮な体験だよー。もうこりごりだけどねー」
俺が落鳴のゼウスと呼ばれる由来。海上から都へ鳴り響く轟音。怪獣はもれなく命を落とす。まあ、消耗は激しいが、生徒たちの命には帰られない。
やがて嵐は去り、夜空には数えきれない程の星が輝いていた。
俺は生徒たちに言う。
「帰ろうか」
生徒たちから反対の意見はなかった。
へろへろの生徒たちと共にブルーハーバーの砂浜に戻ってくると、そこには学園長の姿があった。帰りはノロノロと戻ってきたので、空は明るくなり始めている。
「おぬしたち。よくやったの!」
学園長は満面の笑みを浮かべていた。どうやら、彼女の座は無事に守られたらしい。エルフ族の立場も、一緒に守られた。
「おぬしたちの活躍は見ておったぞ。難癖をつけてくる者もいたが、そこはナルキスがうまく話してくれたのじゃ」
「あいつが……」
気にくわない男だが、今度会ったときに飯のひとつでも奢ってやっても良いかもしれない。などと考えていると。
「お母様!」
アテナが学園長に飛びついた。学園長は小柄ながら、長身のアテナを受け止めると「しょうがない甘えん坊じゃのう」と微笑んだ。
学園長は俺を見る。
「さて、怪獣退治の英雄には褒美を与えなくてはの。お腹が空いているのではないか?」
俺は頷き、答える。
「はい。生徒たちもお腹を空かせています」
「では、朝食の席へと参ろうかの。ほら、アテナ。いつまでも抱きついておるでない」
「はい、お母様。行きましょう」
俺たちは昇り始めた太陽を背に歩きだす。
今の生徒たちは皆、誇りを胸に抱いていた。
落鳴のゼウス あげあげぱん @ageage2023
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