地吹雪の馬

kuzi-chan

地吹雪の馬

僕は。

山で…馬と暮らして10年になります。


仕事では下の集落に車で行くのですが。

毎朝…馬に。

「行ってくるよっ?るすばん…たのんだよ?」と言って手をふると。

馬は。頭を上下させて…寂しそうな目をします。

馬の目は人の目と変わらない。

だから…わかるんです。

10年も一緒にいると…わかるんです。

(すぐ帰ってきてよ?)って言ってるのが。


僕と馬は。

ご飯の時も寝る時も一緒です。山にいる時は一日中はなれません。本当です。

ギターをひいて聴かせたり。

鬼ごっこをして遊んだり。

沢の水場で体を洗ったり。

僕と馬は不思議と異論がありません。ケンカもありません。本当です。


僕が仕事中…馬には。

ストレスが無いように自由にさせています。

ワラをしいて寝るところ以外は。安全サクのある…広い校庭に放しておきます。


ここは。

以前は町の小学校の(山の分校)で…今は廃校です。

そこを…ただ同然で借りて暮らしています。

ありがたいです。とても感謝しています。


春は野山に芽が息吹き。

夏は青と緑で華やかに。

秋は澄んだ空気に心を洗われ。


冬………怖いんですっ。


大量の雪が…ドッサリ降るんです‼︎

ミシミシと積もる音が深夜に聞こえると……。

南国育ちの僕は。異常に多い積雪に…戸惑うばかりです‼︎


でも…一人じゃない‼︎

馬よ。

お前がいてくれる‼︎

真っ白な世界で目印も無く。どこがどうなのか…僕にはサッパリわからない。

そんな雪の中の移動でも絶対に進路を迷わない…馬よっ‼︎

お前は…頼もしい‼︎

馬よ。

おいしい干し草。たくさんたくさん…あるからねっ?

腹いっぱい…食べてくれよっ。なっ?


11年目の真冬が来ました。

つらいつらい極寒の冬が来ました。

馬………出ていった‼︎

地吹雪の。まだ薄暗い明け方に…出ていった‼︎


僕は見たのです。


ゴーゴーと…薄暗い灰色の地吹雪の中を。

立て髪とシッポを…びゅんびゅん飛ばされながら。

長いまつ毛に雪が積もり…寒くないか?

巻き上がる地吹雪に…息は苦しくないか?

これが(さだめ)と決意の情も…見えて?


馬は。

荒れる地吹雪の中を…力強く。

深く埋もれる四本の足を…ギュッギュッと。

これほど野生を見せたのは初めての…ああ…馬よ‼︎

お前は美しい‼︎

ああ…馬よ。前へ前へ…出てゆく馬よっ‼︎


そして。

その黒い馬体が地吹雪で。薄く…かすれると。

僕の友…愛しき馬は。

少し振り向き穏やかな目で…僕に…言ったのです。


(ありがとう……)

(たのしかったよ………)と。僕には。そう…聞こえたのです。

そして…馬は。

ゴーゴーとうなる…明け方の地吹雪の中に消えていったのでした……。


僕は。


長く続いた地吹雪がやみ…陽がさすと。

山をおりて女性と暮らした。


<おわり>

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