Sick × Suck

タカナシ トーヤ

第1話 Number

トモダチ




ってなんだろう。





大学入学後、3日目のホームルーム。

私は先生に配られた1枚の紙を見て手を止めていた。




調査票 項目⑧

—クラスで仲の良い友達の連絡先—




がやがやと賑わうクラスメイトの声が、やけに遠くに聞こえるように感じた。




その欄だけが、チャイムが鳴っても空白のままだった。





3人掛けの長椅子に座る両隣の女子は、それぞれ横の女子と楽しそうに話して帰り支度をしている。



私はまだ、誰の連絡先も知らない。



別に空欄で出せばいいだけだ。

たかが担任が見るためだけの資料。



だけど、その時の私には、なんだかそれがすごく惨めな事のように感じられて、その欄を埋めずにはいられなかった。





「ごめん、ここに名前書かせてもらいたいんだけど、連絡先教えてもらっていい?」



意を決し、初日に席が近くて少しだけ会話した夏菜かなに話しかけた。

ショートヘアでボーイッシュな夏菜は、私にとって仲良くなりたい相手だった。



クラスメイトと会話していた夏菜は、友達でもない私からの依頼に少し驚いたような顔をしながらも、連絡先を教えてくれた。




植原 夏菜

080-XXXX-XXXX





夏菜が書いてくれた11桁の番号

それは私には窓からうっすらと差す希望の光のように思えた。



それと同時に、夏菜との会話を中断された笑華えみかの冷たい蔑むような目線が、自分は夏菜の友達ではないという現実を嫌というほど突きつけてきた。


…いや、笑華は別にそんなつもりはなかったかもしれない。


でも、たった1分にも満たないその短い時間、私には笑華のその視線が、身体中を突き刺すとげのように痛くて、全身をむしばむ毒のように恐ろしくて、耐えられなかった。


だから私は、自分のではなく、笑華のにしたんだ。



—知ってるよ。

友達じゃないってことくらい。


知ってるよ。

迷惑なことくらい。


この紙を提出しなきゃなんないから、悪いけど、聞くしかないんだよね—




そうやって、私は自分を守って、正当化する。




—もう輪ができてるからさ


別に友達なんかいなくたっていいし—




何も行動しないで、友達なんかできるわけないのに。




続々とクラスメイトが出ていく教室の片隅で、一番最後まで残った私は調査票に印鑑を押し、教壇まで持っていった。







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Sick × Suck タカナシ トーヤ @takanashi108

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