失えば好きになる

学生作家志望

隣からいなくなる、それだけで。

「それほんと?wwwやばすぎでしょw」



「それなwwwwあっ、てか聞いた?健一けんいちくん彼女出来たらしいよ。1個下の後輩。」



「え…あ、そうなん?」



放課後、夕陽のオレンジが入り込む教室で、私たちはちょっとした雑談をしていた。今日は何も予定がないから、親友である藤崎ちひろと、暇つぶしの時間を過ごしていたのだが、そんな時に私は、度肝を抜かれるようなことを突然言われた。



「健一が?あいつ…そんな感じなかったのに。」



「ゆき…なんでそんな驚いてんの?そりゃあ、あるでしょ健一くんなら。あんなイケメンなんだよ?」



まあ確かに、考えてみればそうだ。バスケ部のエースで、勉強だってそこそこ出来るし、髪形は流行りのやつ。


いや、でも…あんなやつ。どうして?


ピロンッ



「ゆき、通知きてるよ。」



「あ、気付かなかった。」



ただの考え事に無駄な集中力を使ってしまい、その通知音に先に気付いたのは、ちひろだった。


慌ててスマホを見ると、母からの連絡が1件。



「あ……今日夜ご飯早いらしい。ごめんちひろ、私帰んなきゃ。」



「ああ、うん、おっけー。また明日ねー」



「ほーい。」



 ◆

なんで今、こんな時に限ってご飯が早いんだよ。


チャックの開きかけたバックを肩にかけ、私は急いで下駄箱から自分の靴を出して足に履いた。



ピロン



「ん?もうなんなの?」



スマホを見ると、また母からの連絡が1件来ていた。通知を長押ししてメッセージを見ると、「急がなくてもいいからね、気をつけて。」と、表示された。



「あああああもうっ!どっち!!」



せっかく急いでたのに、これじゃあ意味ないじゃん。



もういいや、超ゆっくり帰ってやろっ。



ストレス発散に、道にある石を蹴ろうと思ったが、足に引っかかる石はどこにもなかった。



ピロン



「は?しつこ、、」



スマホを開き、今度は通知を横にスワイプして削除をしようとした。だが、よく見るとそれは母からの連絡では無かった。



「健一の、ストーリーじゃん。」



スワイプしようとした指を寸前で止めて、私はその通知をタップした。



「なにこれ…?」



画面いっぱいに表示されたのは、健一と、さっき聞いた彼女らしき女の子の、ツーショットだった。



「どうして…こいつが、」



 ◆


「は?ざけんなし!!今度は勝つもん!」



「はははっwお前なんかに負けねえよ!」



「うっざ!」




「スリーポイントシュートっ!」



「ああああっ!うざ!すぐそうやってシュート…私、身長小さいんだからずるい!」



「手加減なんてしないよーw」



「うっざ!」




「せーのっ!」


パシャッ



「加工は俺に任せてくれ、ゆき。」



「嫌な予感しかしないんですけど…」



「できた!」



「は!?私だけ加工薄すぎだろ!もっとしろっ!」



「わかったわかったwじゃあこれならどう?」



「私だけ濃すぎて時空歪んでるって!」



「ははははっww」



「うっざ!」



 ◆


毎日一緒に遊んで、でもあいつうざくて、毎日遊ばれて…いつも負けて、



なんでよ、なんなの?なんで、こんなに私…1人で辛くなってるの?



また負けた、また負けた。その繰り返し。たまには健一より先に行きたかった。


でも、やっぱりまた負けた。



「ゆきってやっぱ、最高に面白いよなw」



「遊ぶな!」



なんで、大嫌いって自分から何回も言ったのに、健一が隣にいないと好きになっちゃうのかな。



先に行きたいんじゃない、健一の側でもっと遊びたかったのかな、私。



健一が…好きなのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

失えば好きになる 学生作家志望 @kokoa555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ