第2話 魔女のお茶会

  「どこまで歩けばいいんだ?」


 ぼやきながらも死の魔女は歩くのをやめない。歩きたい訳でも目的もある訳でもないが高所からの落下は地面だろうが岩石だろうが頭から突き刺さって犬神家になっただけだし、猛獣に襲われようとしたら猛獣の方が子猫のような声をあげて逃げていったので、とりあえず、歩いているだけだ。


 「あんのゴミやろう、頼んでもねぇのに不死身だか魔女だかにしやがって。いい迷惑だ。」


 「全くです!あんな女神の皮を被った最低なお澄まし顔は今すぐに肥溜めにでも突っ込んで獣どもにでも犯させて仕舞えば良いのです。」


 「……誰だテメェ…馴れ馴れしくするな。俺は死にテェんだ。」


 「まぁまぁ、そんな悲しいことを仰らずに。私はあなたとお友達になりたいだけなんですよ。」


「……そう思うなら、まず自己紹介くらいするのが常ってもんだろ?」


 「アッハははは!これはこれは大変失礼いたしました!私の名前はオロ!好きなことは最高に楽しい娯楽やエンタメを演じることや鑑賞すること!あなたのお名前は?」


 突然現れたジリジリとノイズの混じったような聞き取りづらい声で喋る赤と緑のコントラストがうるさい燕尾服を着た赤髪のにやけヅラは、死の魔女が最上級の嫌悪を表しているにもかかわらず、ホイホイ話しかけてきた。


 「俺に名前なんかねえよ、そしててめーみたいな明らかに怪しい知らない人にはついていっちゃいけないってお母さんから教えられてきたから、テメェと友達になる気も無い、さっさと失せろ。」


 「まぁそう言うな嬢ちゃん(?)、コイツもあんたと同じ魔女といえばわかりやすいか?少しくらい話を聞いても損にはならねえと思うぜ。」


 「あぁん、トイ!あなたの事をすっかり忘れていましたよ!私のために分かりやすい説明をありがとうございます!」


 「だから俺はトイじゃ…………はぁ、まあ今はいい、こいつは腐ったトマト野郎のオロ、狂気の魔女らしいぜ。そして俺はこのゴミクズやろうにこき使われる可哀想な元人間のスレイってんだ。」


 「何を言うんですかトイ?あなたのことをこんなに大事に思ってる人はこの私以外に居ませんよ!」


 「さっきまで忘れてただろうが!」


 「それでは名無しの魔女さん?是非お話しましょう。」


 スレイを無視して話すオロがパチンと指を鳴らすと悪趣味な椅子と机、湯気の経つティーポットとティーカップ二つ、犬の飲み水入れが一つ机の上に現れた。


 「それで、貴方は何が目的で魔女になったんですか?」


 「そんなものねぇよ、誰が好き好んでこんな人外になるか。」


 「あっははは!なんともったいない。そんなに素晴らしい魔力を持っているのになんの目的もないなんて!」


 スレイが犬用の水入れからピチャピチャと紅茶?を飲むのを横目にオロは話し始めた。スレイは多分唇がなくて、歯が剥き出し、そして手には鋭く長い爪が生えていて、毛むくじゃらのため、ティーカップは使えないのだろう。


 「無駄な前置きが短縮できて大変喜ばしい。是非とも私の質問に答えて下さい!」


 そういった時。周りの空間がノイズに包まれた。地面が枯れ、空が赤く染まる。


 「貴方はこの世界の人間は須く救われるチャンスをあるべきだと思いますか?」


 その魔女が放つ言葉一つ一つが正気を失わせ、魂を恐怖させる。スレイはとうにどこかに隠れていた。


 「どうしましたか死の魔女さん?紅茶も冷めてしまいます。さぁ、暖かいうちに飲んでどうぞ落ち着いてください。」


 「…………………」


 死の魔女は俯いた姿勢のまま、オロに一瞥をした。狂気の魔女の首が不気味に回転し、片手を挙げようとする。


 「そんなものどうでもいい。」


 「………はい?」


 「人間が救われるとか善とか悪とか滅ぼされるべきだとか心底どうでもいい。勝手に争えばいいし、繁栄なり絶滅なりなんでも勝手にすればいい。俺は自分がそれほど高尚だと思ってもないし、人間のそんなとこまで世話までしてやる気も毛頭ない。ただ……」


死の魔女の周りが真っ黒に変色する。


 「俺のこのゴールを邪魔する奴は何であろうとこの力で叩き潰してやる。」


 変色した空間が真っ赤な空をも飲み込んで……



気づけば元の景色に戻っていた。


 オロのキョトンとした顔がグニャんと歪んだ。


 「ジーーーーーーーーーーーーー!」


 頭の割れそうな不快なノイズ音がオロが爆笑する映像と共に目の前に流れた。


 「なんて素敵な方でしょう!是非とも私たちお友達に!記念に是非名前を送らせてください!そうですなぁ……全てに美しい最後を送る美しい魔女と言うことで、エンベルド終わりの音でいかがでしょう!」


「けっ、腐ったネーミングセンスだな。分かりやすくベルでいいだろう。」


 「なんでもいい、呼びやすくなるなら大歓迎だ。だけどな……」


 ベルは自分のティーカップを傾けて中身をオロの前に捨てた。


 「友達っていうくらいならマシな紅茶くらい出すんだな。」


 ティーカップからは汚いドロと虫の死骸がこぼれ落ちた。


 「おっほほほ!貴方に仕掛けたちょっとした戯れです。ではまたお会いしましょう。エンベルド!」


 オロとトイはジジッと空間が歪むと消えていた。ベルがいつのまにか握っていた手紙には踊るオロの絵が近くの街への地図を書いていた。

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転生して2度目の人生なんて望んでもいないのだが!!〜死にたがりの魔女は今日も死場所を探しています。〜 ノーメン @kzkzidononaka4978

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