転生して2度目の人生なんて望んでもいないのだが!!〜死にたがりの魔女は今日も死場所を探しています。〜

ノーメン

第1話 殺伐と滅びゆく世界に魔女の誕生日を!!

 気がついたら郊外を歩いていた。何故こんな寂しいところを1人でわざわざ歩いているなんて、自分はそんなに物好きな人間なのだろうか。

 それでも歩みをやめず、遠くに見える超巨大なドームのようなものに包まれた煌びやかな街から離れていく自分は何者なのか全く分からない。最後に見た覚えのある記憶は暗い部屋に、見ただけで体の中を虫が這い回るような感覚に襲われるほどの大量の錠剤。

 きっと、この錠剤で自殺したのだろう。それはわかる。そして今は、ボロ切れを羽織って寂しい郊外を歩いている。何故だ。ここはあの世か?それとも転生か転移か悪い冗談か、はたまたとうとう脳にまで薬が回ってキチがってしまったのだろうか?

 とにかくまだ生きているのだろう。素足が雨に濡れた地面を踏む度に、泥の不快感と激痛が走る。


 「……いい加減死んでくれよ……これ以上生きていたくない!!何も見たくない!!知りたくも感じたくもないんだ!!さっさと死んでくれ!!」

 

 大声で叫ぼうともこだますら聞こえない。全て雨音がクスクスと笑うように吸い込んで行った。


 「………クソが……笑ってんじゃねえ……」


ボソリと呟いきながらも歩みをやめない。本当に生ける屍のように、しかし確かに心臓を鼓動させながら望む死から逃れるように歩く。

 しかし、望みは突然に叶えられる。疲れ倒れ込んだ先に、錆びつき、折れ、刃物というのもお粗末な剣だったと思われる金属が落ちている。金属は死にかけながらも、尖ったた先端で1人でも道連れにしてやろうとしているように見えた。


 「……流石に首切りゃ死ぬだろう。」


 迷いなく金属を拾い、首に当てがった。

 心地よい冷たさが感じられる。


 迷いなく金属に首を横断させる。


 「ギッ……あぁぁあぁ!!」


 刃物が首を通り抜け、肉を千切る感覚が全身を襲う。血と赤錆の味を全身で味わう。これが最後の感覚と感情と思うとこんなものでも中々感慨深いものがある。


 首からは真っ赤な噴水が噴き出る。



………………………………………………………………………………………………………………



はずだった。いくら待っても噴水は始まらず、痛みも感じない。死ぬ前の走馬灯にしては長すぎる。気づけば雨すら空中で眠ったように動かなくなった。


 は?ふざけんな、せっかく死んだのにこの瞬間を死に続けて生き続けるなんて溜まったものではない。


 その時、不意に背後から誰かが方に手を置き、耳元で甘い声で囁いた。


 「……せいぜい死から遠ざかって行くといい……」


「ふざけるな!俺は……」


肩の手を振り払い、勢いよく振り向いた時にはそこには誰もいなかった。


 「そんなに悲しむことは無い、この君の物語の終点には君の望むものが確実に用意されている事を約束しよう。それまでお望みはお預けさ。君は今この瞬間から死の魔女だ。今日が君の誕生日、お祝いに第二の命をあげよう。喜んでくれると嬉しいな。」


 「黙れ!!」


 その声と同時に体が真っ白に輝き、自分の周りの雨が弾け飛んだ、後には元の雨音だけが響く。

 体を見るとボロボロだった手足は驚く白く美しくなっている。髪は腰程にまで伸び、ボロ切れは真っ黒なフード付きローブに変わっていた。首を撫でてみる、


……細くスベスベだ。


 慌ててしゃがみ込み足元にできたら水たまりを覗き込む。首には五芒星が連なったような不思議な刺青がばっくり割れた傷の代わりに我が物顔で鎮座していた。


 雨が自分を嫌うように避けて地面に吸い込まれていくのを見た死の魔女は自分が最早人間ではなくなったことを自覚した。


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「愛の魔女様、宜しいでしょうか?」

 

 「なぁにレロン?今日はどんな素敵な話なの?」


 魔女呼ばれた奴はベッドに死にかけた魚のように倒れ込んでいる全裸の老若男女の1人の頭を撫でながら答えた。


「今日は五組の夫婦から出産申請が来ております。後ほど魔力のお与えをお願い申し上げます。」


「うぅん!今日も私の国は愛に溢れているわ!素敵なことよね、レロン!」

 

 「はい、愛の魔女様の国に住む民は世界一の幸福な民です。」


 「後で行くわね!」

 

 そういうと、魔女はまたベッドに倒れ込み、扉を閉めさせた。


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「うぅーん?おかしいですねえ。一気にここまで息苦しくなるなんて、私の他に魔女がまた現れたようですが1人現れたくらいでここまで息苦しくなるなんてことはないのですか………どう思いますか?トイ??」


 「何回も言わせんじゃねえ、俺の名前はトイじゃねぇと何度言えばその手前の目より小さな脳みそで理解できんだ?」


 「…まぁあいいでしょう!新しい魔女の1人や2人、面白くなければ……………サッサとすり潰して使える魔力を戻さないとねぇぇぇぇえええええええ!」


 その魔女の口が耳まで裂け、目が真っ赤に染まった時、魔女とトイはノイズに包まれ、周囲の木々に不自然なダメージを残して消えた。


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「金属の魔女様、大変です!国宝であるヒヒイロガネの輝きが弱まりました!」


 「あぁん?知らねえよそんなことは!てめえらが適当なことに俺様の大事な魔力使うからヒヒイロガネが鯖始めたんじゃねえか?!このボンクラどもが!奴隷を1人連れてこい!刻んでヒヒイロガネに振りかけてやる!」


 名前も覚えられていない従者は慌てて奴隷庫へと走った。


---------------------


 「無限の魔女様、ご報告が…」


「分かっています。新たな魔女が生まれたのでしょう。見つけ次第、絶対に手出しせずに私に報告させなさい。私は他の魔女にハナシボウリョクをつけに行ってきます。それまで任せますよ。」


 従者が顔を上げた時には大量のホースに繋がれていた魔女は消え、従者は会議のために走った。


 

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