【第一章】幼少期編
まだ何者でもなかった頃
第1話 シャーロット・ウィナイトは転生者
「シャーロットちゃ~ん♡」
大の大人がデレデレと顔を緩ませて覗き込んでくるのを、シャーロット・ウィナイト(0歳)は微妙な面持ちで見つめていた。
もうすぐ1歳になろうという
シャーロットの金髪碧眼は
「かわいいでちゅね~♡」
(表情筋が引きつるのはくしゃみが出そうなだけくしゃみが出そうなだけ……)
そう念じていたら本当にくしゃみが出てしまった。
それにしても赤ん坊の体というのは不便なものだ。転生者だろうが回帰者だろうがアドパンテージなんかないらしい。
(くそぅ、またあのハイハイトレーニングをしなくちゃいけないのか。)
「あらあらあなたったら。」
その声は……!
シャーロット・ウィナイトの母親、ミア・ウィナイト子爵夫人(20歳)。ああ、今日も麗しいことで……
ダークブラウンの髪に深い泉のごとき青い瞳。優しい声音と表情はまさに聖母と形容すべし。
まさに幸せの極みだ。
シャーロット・ウィナイトの人生において一番幸せだったのは幼少期なんじゃないだろうか。何も案ずることはない、無償で無上の愛を浴び続ける日々。
実際、〝シャーロット〟の一度目の人生でも幼少期が一番幸せだった。
失礼、さっきから転生とか一度目の人生とかわざわざ名前に〝〟をつけられたりしてるそいつは誰かっていう話。
ずばり言おう。〝シャーロット・ウィナイト〟は転生者である。
現代日本のフツーーの女子高生が、ある日不慮の事故に遭い、気づいたら小説の中の世界に転生していた、と。ここまではありがちな話だが、このシャーロットの場合は少し毛色が違う。
今どきの転生モノは悪役令嬢に転生するのがオーソドックスである。バッドエンドを避けるべくもがいているうちに思いがけず慕われていく、とかね。
だがシャーロットは悪役令嬢でもなければスライムでもなく、はたまた本好きでも無双する魔術師でもない。
王道異世界恋愛小説のヒロインである。
……と話しているうちに、
「むぎゅっ?!」
シャーロットの口が柔らかく温かいものに押し付けられた。どことは言わないが……まあ、言うなればお母様による〝栄養補給〟とでも言っておこう。
(くっ……! 赤ん坊だといっても全部覚えてるんだからな! あまり恥ずかしいことは……おいしい。)
話を戻そう。
【序章もどき】のエピローグとプロローグは読んでくれただろうか。大まかな話はあの通りだ。
要するに、律儀に原作を守ってきたシャーロットは疲れてしまった。それを口にしたら、なんと振り出しに戻る。悪く言えばめんどくさい人生のやり直し、よく言えば新しい人生を開拓するチャンス、感慨もなく言えば〝回帰〟である。
状況はわかっていただけただろうか。
ところで先ほどからメタ発言を垂れ流しているお前は誰かって? ふふふ。
三人称で書くか一人称で書くか悩んだ作者の成れの果てだ!
……胸を張るところではないな。まあ全てを知ってる創造神だとでも思ってくれ。
それに次回からは物語の邪魔にならないようもう少し大人しくするつもりだから。
「おしめ変えますよ~」
「あ、待て。私にやらせてくれ」
「でもあなた下手くそじゃない」
「何事も経験だろう?」
「才能がないのよ」
(……。)
二度目とは言えご苦労なことである。
今世でシャーロットが幸せになることは決まっている。創造神が言うのだから間違いないし、読者も分かりきっていることだろう。
ではどうやって幸せを掴みとっていくのか。その道のりはなかなか厳しい。ヒロイン特有の子ども時代の悲劇、愛されすぎるが故の苦悩、そして何より、ヒロインが悪役令嬢を目指すというとんでもないハードミッション。
まあ、気長に見守っていただければ幸いである。
「うわぁ~~~ん!!」
「あっ、どうした、大丈夫か!?」
「もうっ、やっぱりあなたに任せるんじゃなかったわ!」
「がびーん」
「ふざけないで!」
先が思いやられる……。
~フロレアン王国の華~〝いい子〟に疲れたヒロインは、最強最悪の悪女を目指す。 藤堂こゆ @Koyu_tomato
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