本編『フロレアン王国の華』プロローグ

 満天の星空とそれをそっくり写し取ったような夜景を眺めて、シャーロットは溜め息をついた。

 今や全ては彼女のものだ。

 ここまで辿り着くのにどれほどの困難を乗り越えてきたことか。その全てを思い返して、今やフロレアン王家の一員となったシャーロットは困憊こんぱいの溜め息をつく。

 これで親愛なる作者にも報いることができるだろうか。

 それに何より、〝最愛の人〟セドリック……彼の腕を掴んでおけば何も怖くない。彼はシャーロットのことを心から愛してくれているし、王太子という揺るぎない地位と権力もある。これまでもこれからもきっと敵なしだろう。……その恩恵を受けるならば、その愛に報いないといけない。

「もう、憂うことは何もない……訳ないじゃん。」

 寒々とした夜風がバルコニーに立つシャーロットの金髪をそよがせる。シャーロットは震える肩を抱いて月を見上げた。美しい顔が悲哀に歪む。

 皆が愛する〝フロレアン王国の花〟シャーロット・フロレアンの目の前にはどこまでも暗い未来が広がっているのだ。

「もう疲れた……」

 清純なヒロインの型にはまって生きていくことに。

 ――シャーロットは転生者で、ここは小説の中の世界だ。小説はもうすぐ終わるけれど現実にシャーロットの人生はこれからも続く。

 一生〝いい子〟でいるなんて、考えただけで肌が粟立つ。

 あーあ、最後の最後で本音が出ちゃったな。一挙手一投足、決して原作に反しないよう細心の注意を払って17年間も過ごしてきたのに。全部水の泡かも。

 そう思ったとき。

 突如として眩い光がシャーロットを包んだ。

 あっという間もなく、煌めく夜景が真っ白に塗り潰される。

 思わずぎゅっと目をつむる。


 しばらくして恐る恐る目を開くと、そこは王城のバルコニーではなかった。

 見覚えのある染みがついた懐かしい天井。

 口をぽかんと開ける。頭が妙に重たい。

 何が起きたのか気づいたとき、自由の花シャーロットは天使のごとく微笑んだ。

 転生を経験したシャーロットは疑わない。

 彼女は赤ん坊の頃に回帰したのだ。


 つまり、人生リスタート、である。


〈『フロレアン王国の華』始まりはじまり~♪〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る