お姫様は獰猛です

 蕾の中に横たわってた少女はパチリと目を覚ました。

 びっくりするくらいの美少女だ。


 彼女は花弁のようなドレスにを着て、くるんと巻いたピンク色の髪に、真紅の瞳を持っている。なんていうか、赤色づくしの格好だ。


 ひとまずコミュニケーションを取らねば。


 オレは敵意がないことを示すために両手を上げる。そんで、できるだけフレンドリーな表情を浮かべて彼女に挨拶してみた。


「こ、こんにちわ?」


「……?」


 少女の瞳には疑問の色がさしている。

 むむむ、言葉が通じないか?

 あ、そうか。テイムが効いたってことはモンスター。

 だから人間の言葉が通じない、とか?


<こーちわわ!>


「こ~……ちわわ!」


 彼女はノワがしゃべると、そのマネをした。

 うむ、こうしてひとつひとつ言葉を覚えてもらうか。


「よろしきを奉らんと思ひ給いしが、汝らのことばわからざりけり。いまはかくのごときことばつかひになりぬるなり。いとあやし。」


「――?!」


 キャアアアア!!!

 シャベッタァァァァ?!


 いや、でも何を言ってるか、ぜんぜん意味がわからない。


 1回聞いたかぎりだから、確かなことは言えないけど……この子の言葉、なんかめっちゃくちゃ古くない? ど、どういうことだ……???


「え、えーっと……ずいぶん古い言葉をつかってますね」


「さなり。つちの下にていと永きをいぬ。その時といふもの、川は海とけし、山は丘とけすほどなりけり。」


< なりなり! >


 少女は開いたつぼみの上で女の子座りをして「よよよ」と泣いている……フリをしている。あ、わかったぞ。さては、なかなかいい性格してるな?


「つまり君はずーっと土の下にいた。その時間の長さときたら、川が広がって海になって、山が雨で削られて丘になるくらいだった、と?」


「げにさることあり。」


< さるさる!>


「あっ、ノワ!」


 ノワがぽいんと跳ねて少女の懐に飛び込んだ。

 彼女がぷるぷると震えるノワをつんつんして興味深そうに笑った。


は〝しよごす〟をやしないたまふか。いづこにて得んともしれぬが、殊の他なり。」


「しよごす?」


「かのものの名なめり。」


「うーん、わからん……あ、君の名はなんていうの?」


「つぼみの君といわれしが、汝が名付けもけしうはあらず。」


「ふむふむ?」


 勝手に名前をつけてもいいらしい。

 そもそも「つぼみの君」っていうのも誰かにつけられた名前っぽいし。

 あんまり気にしてないのかな。


「えーっとそうだなぁ……花、ブルーメとか?」


「ブルーメ。いとうつくしき名よ。」


 どうやら気に入ったらしい。

 まぁ彼女の場合、なんて名前でも気にしなさそうだけど。


 なんていうんだろ。彼女の感覚は人間とあきらかに違う。

 超マイペースな感じがビシバシしてくる。

 まあ、ずーっと眠っていた?

 みたいだし、時間の感覚が人間とちがうんだろう。


「オレの名前は九東くとう。よろしくブルーメ」


「よしなに。」


 さて……これからどうしようかな。

 最初は街で品物の交換でもと思っていたが、バッチリ壊滅している。


 街は肉の泡に包まれて、人の気配は一切ない。

 丘から街の間はまったくの無音。

 風の音すら無い。完全な静寂につつまれている。


 さて、街は肉の泡で覆い尽くされていた。しかしブルーメがオレのテイムによって心臓から飛び出した後、その泡は大半がしぼんでしまっている。


 いまなら街の中を探索することが出来そうだ。

 うーむ。誰かひとりでも生き残ってるかなぁ……?


 街は完全に肉の泡に埋めつくされてた。

 あの様子だと絶望的だな。

 隠れていても鼓動で叩きのめされて……肉の泡に食われてそう。


 生存者がいないなら、勝手に持って帰るしかないか?

 うん、そうするしかないな。


 お買い物(100%オフ)しにいこう。


「ノワ、ブルーメ、街に行こう」


< いくくー! >


「はて? ことごとく食ひつくして、もはや何もなし。」


「いくらブルーメでも金属とか石はたべられないだろ? うちで使う道具をいくつかあそこから持って帰りたいんだ」


「うべなうべな。いかにももっとも。」


 なんて言ってるか、まったく意味はわからない。

 けど彼女は僕の言うことに納得したようだ。


 ブルーメはつぼみから立ち上がると、しゃなりしゃなりと歩き出した。


 この少女、たぶんていうか確実にネームドモンスターだろうなぁ……。


 目の前の街をあっさり壊滅させたくらいだもの。

 ひょっとしたら神話級とか?

 そのレベルのモンスターでも全くおかしくない気がする。


 こんなの特級呪物だよ!

 どうすりゃいいのさ!




ーーーーーー

※作者コメント※

九東くん、SAN0どころかマイナスいってオーバーフローしてない?

いやぁそれにしても、物語が動きそうないいキャラが来ましたね(テカテカ


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【異世界の呼び声】スローライフしようとした転生先は、宇宙的恐怖あふれる地獄でした。 ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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