肉の街(2)
モンスターを調教。
いうのは簡単だけど、この巨大な肉塊をどう調教したもんか……。
「とにかく近づく方法を考えないとな」
肉の泡に近づくと鼓動でノックアウトされる。
こいつを調教するなら、安全に近寄らないといけない。
「ノワ、こいつを調教したいんだが、何かうまい方法がないか?」
<うまうまー?>
「そうだ。このドクンドクンっていうので近づけないんだ。消す方法はないか?」
<どくどく! けす!>
俺の言葉を聞いたノワは、体をふるふるさせて何か考えてる様子だ。
すると突然、ノワはぽいんと跳ねたかと思うと、肉の泡に向かってしまった。
「おぉい!? 危ないぞ!!」
オレはあわてたが、ノワは気にとめようともしない。
そのまま肉の前で止まったノワは。体を膨らませたり縮ませてたりを繰り返す。
最初はシンクロしてた鼓動が少しづつズレ始め……まったくの反対になった。
するとどうしたことだろう。ノワのいる方から鼓動の音が消えた。
「まさかノワ、鼓動を、振動を中和してるのか……?」
そうか! スライムのノワは体内に新しく器官を作り出せる。それで体の中に心臓みたいな器官を作り、鼓動と正反対の音の波をつくったに違いない。
これは高級なヘッドホンなんかにある、ノイズキャンセルの要領だ。
ノイズキャンセルには、外部の騒音をデジタル処理で中和するものがある。
これは正式にはANC、「アクティブノイズキャンセリング」という。
どういう仕組みかというと、ヘッドホンに搭載されたマイクが外部の音を拾い、内部のデジタル回路がその音の逆位相の波形を生成。この逆位相の波形が外部の音波と重なることで、お互いを打ち消し合い、騒音を中和するというものだ。
まさかそこまでのことができるなんて。
この世界のスライム、本当に有能すぎんか?
「っと……驚いてる場合じゃないな。こいつに調教を試してみよう」
オレはノワの後ろから肉の泡に近づいて、手を伸ばす。
できるかどうかわからないけど、とりあえずやってみないことにはな。
「えーと……でも肉の調教ってどうするんだろ?」
ほんとにどうすればいいんだろ。
うーん、とりあえず
「いい肉だね……君に会えることを祈ってたんだ」
いや、いい肉て。何言っとんねん。
これは肉に対してのほめ言葉として正しいのか?
「ずっと君のようなペットが欲しかったんだ……一緒に旅をしない?」
自分でも何を言ってるのかさっぱりわからない。
だが、自分の喉から勝手に口説き文句が出てくる。
これも神にもらったチート能力なんだろうか。
「さぁ、ついてきて!!!」
(いや、待て待て待て!! 何いってんのぉぉぉぉぉ?!!)
冷静に考えたらめちゃくちゃなこと言ってる!?
ホントについてきたらどうすんのよ!!!
<ズゴゴゴゴゴ!!!>
「へ……?」
オレとノワが立っている大地がうなり、ゆれている。
ま、まさか……?
<ズゴゴゴゴゴ!!!>
「ひぃぃぃぃぃッ?!」
肉の泡が激しくうごめき始めた。
そして山脈のような肉の泡が脈打ち――俺を追ってきている!
「ちょ、マジか?!」
どうやらテイムは成功したらしい。
しかし、オレはテイムできてもその後のことは考えてなかった。
浅い考えは深い後悔となってオレを襲う。
なんてことをしてしまったんだろう。
「ノワ、こっちに来い!」
< くとぅ! >
オレはノワを抱きかかえ、この場を離れることにした。
しかし肉の泡も後ろをついてくる。
まるでもの◯け姫の最後の方みたいだ。
肉が泡を伸ばし、ドロドロと雷のような音を立てて迫ってくる!
「その大きさじゃ無理だ!!! せめてもっと小さくなってくれ!!!」
オレは懇願するように叫び、黒土と石ころだらけの丘を走った。
丘の上に上がり、振り返る。逃げ切れたか?
「――!?」
街の方を見ると、奇妙なことが起きていた。
あれだけ膨れ上がり、広がっていた肉の根が心臓の方に引っ張られているのだ。
見ると、肉におおわれた時計塔の上の心臓が激しくうごめいている。
そして次の瞬間、心臓が大きく膨れ上がった思うと、ボンと破裂した。
「肉が……自爆した? 死んだのか?! ……?」
時計塔の上で爆発した心臓から、何かが飛び出た。
そしてそれは、ミサイルのように何かこっちに向かって飛んできている。
「ひぃ!」
その何かは、赤い軌跡を引きながらオレの目の前に着弾した。
爆音とともに土煙が上がり、甘い香りが周囲に漂った。
「つ、
目の前にあったものは、そうとしか表現できない。
夏休みの自由研究で見た、朝顔のツボミのような形をしている。
それが槍のように地面に突き刺さっているのだ。
オレはノワを抱えたまま、おそるおそるツボミに近づいてみた。
「……動いてる!」
肉のツボミがくぱっと開く。
するとその中には――
「うそぉん……」
見ようによっては花弁にも見える、肉のドレスを着た少女がいた。
……ウソでしょ?
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※作者コメント※
あかん(あかん)ヒロイン枠というより、厄ネタにしかみえない…。
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