肉の街(1)

★★★


「……だめか。逃げ道は完全に塞がれてる」


<ふさふさ!>


 あれから周囲を見て回ったが、小川へ戻れそうなルートはない。

 地面を割って現れた肉の泡は迷路のようになっている。

 まるで何かの意志が、オレをとじこめようとしているようだ。


 いまのところ、安全な場所を求めてさまよい歩いている状態だ。


「このまま喰われる……ありえそうだな」


 推測するに、この肉の泡と心臓は異世界のモンスターなんだろう。


 普通、モンスターと聞いて思い浮かぶのは、ゲームやアニメ、小説とかに出てくるドラゴンやスライムといった存在だ。


 オレは勝手にそういったモンスターを異世界の存在だと思いこんでいた。


 だが待ってほしい。

 想像上の存在であっても、それらは俺たちの世界の産物だ。

 異世界にいるとは限らないんだ。

 だって、なんだから。


 本当の異世界は、想像もできないモンスターがいるものなんじゃないか?

 たとえば、町を飲み込む肉の津波とか……。


「あの神……適当なこと言いやがって!」


 神は「見慣れない生物がいる」と言っていた。うん、たしかに言っていた。

 そんで、オレが聞き返した「ドラゴンみたいなのですか?」という言葉に対して、神はドラゴンがいるとは明言しなかった。それはこういう意味だったんだ。


 あの……説明のミスリードの仕方が、悪徳不動産屋よりタチ悪くない?

 ミスというよりは、狙ってやってるっぽいんだよなぁ……。


「っと、ここにいない神のことを考えても仕方ない。今をなんとかしないと」


 そうだ。オレの目の前にいるのは、完全に未知の存在。

 初見殺しされても、なんらおかしくない。慎重に行動しないと。


「おちつこう、まずは観察だ」


<かんささー?>


「うん。観察だよノワ。相手の動きをよく見て、法則を見つけ出すんだ」


<むずず!>


 ノワも考えてくれているのだろうか、体の一部を伸ばし、傾げている。

 微笑ましくていいのだが、ノワの知力と言語能力では限界があるだろう。

 オレが自分で何とかしないとな。


 さて……バトル系のマンガなんかでも、観察から攻略法を掴むことが多い。

 目の前でうごめいている、肉の泡の様子を観察してみよう。


 まず見た目だ。動く生肉。以上。

 動物や人間の内蔵がむき出しになっているようで、めちゃくちゃグロい。

 あまり長くみていると、正気を失いそうだ。


 肉の泡の表面には血管があり、脈動している。

 たぶん、この肉は生きている。

 そして脈動しているということは、ポンプの役目をする臓器があるはずだ。


「ま、当然あれだろうなぁ……」


 オレは時計塔にへばりついている心臓を見る。

 大きさは……多分4メートルくらいだ。周囲にある家よりも大きい。

 あれが中枢と見ていいだろう。


 いや、もしかしたら補助心臓もあるかもしれない。

 なんせ異世界のモンスターだ。心臓がひとつとは限らない。

 しかし、生きているのなら殺せるはず。


「あのモンスターをなんとかするなら、心臓を破壊する必要があるな」


 しかし、心臓の破壊は不可能に見える。

 肉の泡に近寄るだけでも、鼓動でノックアウトされるのだ。

 倒すことより、逃げることを考えたほうが現実的だ。


「しかしこいつ……何を目的にしてるんだ?」


 この肉の泡、生物としてはきわめて不自然な存在だ。

 見た目だけじゃない。コンセプト自体が不自然なのだ。


「モンスターも生物なら、一応寿命があって、子孫を残すことを目的とするるはず。でも……こいつは周囲を喰らい尽くしてる。その場で増えるだけ、身動きの出来ないコイツから生まれたとしても、共食いするしか無い」


 こいつは街とその周囲を喰らい尽くしてる。

 成長していけば、そのうち心臓がサポートできる限界の大きさに達するだろう。

 そうなればただ自滅するしか無い。


 そして子孫を残したとしても、この場所は親であるコイツが暗い尽くしている。

 最初は共食いで成長したとしても、生き延びれる可能性があるだろうか。


 ……わからないな。

 このには、なにか別の目的があるのだろうか。


 ここまで考えて、オレはあることに気づいた。

 なんで今まで気づかなかったのが不思議だ。

 そうだ、オレにはアレがあるじゃないか。


「……モンスターなら、『調教』が使えるんじゃ?」


 そうだ。モンスターなら「調教」が効く。

 こいつを何とかできるかも知れない。





※作者コメント※

九東くん、その考察からそこへ至るのは、もはや狂信者なんよ…


別作、ガラテア・コンプレックスの更新のために今週は土曜日のみの更新です

申し訳ねぇ…

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