少し変わってる君が好き

ごろごろ

読み切り

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 彼女は昔からこうだ。


「ねぇ?いま私の事見てたでしょ?」


 見てたよ。でも、皆の前で高らかに言えるかよ。


「見てないって」


「あっそ。こっち見んな、ばーか」


 周りがクスクス笑う所までがワンセットだろ?


 なんだろう、俺のこの満更まんざらでも無い感じ。


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 彼女の名前は赤井 蒼あかい あお


 まだ俺も彼女もオムツをしていた頃からのご近所さんだ。幼馴染ってやつ。


 ちなみに結婚の約束はしていない。


 保育園から小学校まで一緒で、中学は別々だったが、高校でまた同じ学校になった所だ。


「また一緒に学校通うか?」


 凄くサバサバしてる。嬉しいから勿論OK。


「おっ!良いよ!何時に行く?」


「行かねーよ、ばーか」


 意味は分からなかったけど、何故か嬉しかった。


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 彼女は昔から、新しい環境になってもすぐに周りと親しくなる。


「【あかいあお】って変わった名前だね!」

「ほんとね!赤か青かどっちだよってな!」

 が彼女の持つ鉄板の初めましてだ。変らない。


 俺の名前は山下 高貴やました こうきだから、良くも悪くも名前ネタは特に無い。


 でも最近は俺の事をハトって呼ぶ友達も居る。


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 俺の見た目がポジティブ思考で中の下だとしたら、彼女は恐らく中の中だ。なのに可愛い。


 目が大きい訳じゃなく、鼻だって高くないし、口だって笑う時に歯茎が出る。なのに可愛い。


 俺は歯茎は出ないけど、目の横がシワシワになる。


 そんな彼女は昔から俺をイジる。


 一年ぶりに、と言っても一年前はコンビニで出くわして「お?おお!蒼じゃん」からの


「あっ。なんで居んだよ、ばか」


「馬鹿って言うな馬鹿。またね」


「ほなばいばいぴー」


 って話しただけだけどさ。お互い別々の友達と一緒だったしね。


 で、高校で同じクラスになっても変わらずいじるから、俺のことが好きなのかと思って告白したら普通にフラレた。


「なんで?」って聞いたら、


「普通に無理だから」って言われた。


 普通ってなんだろうね。正直泣いた。


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 こないだの休みの前の日にサッカー部の奴らからカラオケに誘われてた蒼。


 正直気になってたら「ごめ!高貴と約束あるから」って言って断るもんだから驚いた。


 机に突っ伏して寝たフリしてたけど、ガッツリ聞き耳立ててたから俺。


 で、その日の夜になって通知が鳴るから見てみたら、「面倒な誘い断るのに名前使ったから」って。


 俺と蒼のトーク履歴だけど――


 俺▶「友達追加ありがと!」


 蒼▶巻き爪マキさんの〈ヨロシク〉スタンプ。


 俺▶「何かあればいつでも連絡入れて」


 蒼▶初めから入ってる警官が敬礼してるスタンプ。


 ――しか無かったから、初めて蒼から文章が来たよ。かなり嬉しい。


 俺▶「あー、全然良いよ!」


 蒼▶初めから入ってる警官が敬礼してるスタンプ。


 俺▶「俺は暇だからいつでも誘いOKだよ」


 蒼▶巻き爪マキさんの〈それな〉スタンプ。


 それなって何だろう。誘っても良いって事かな。


 でも面倒な誘いを断る為に俺の名前を使ったのに俺の誘いが面倒だったら本末転倒で……ややこし!


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 この前は学食に付いてた二枚の食パンの耳だけを千切って「高貴!食って良いぞ!」なんて俺のトレイに置いていくし。


「えー?山下くんってパンの耳好きなの?」


「小さい時いつもハト用のパンの耳食べてたよ」


「まじ?ウケる」


 変な話掘り起こすなよ。小さい頃なんだからしょうがないだろ。また笑われるだろ。


 流石に「おま!ふざけんなよ!」って言ってやったよね。食べたけど。


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 この前の文化祭の時、どういう意図だったのかな?


 うちの高校の取って付けた様な桜の木伝説。


 ちょうど音楽室の外にある桜の木の下で告白したら両想いになれるっていうやつ。


 十歳離れた従兄弟も同じ高校なのに、そんな話知らないって言ってたから、割と最近取って付けた伝説だと思う。


 お互い手を上げただけのすれ違い間際に


「高貴、二時に噂の桜の木の所来て」


 って、心臓が飛び出かけた。

 フラレたのに呼ばれる事ある?行くけど。

 これ、本当に来たら俺から告白した方が良いかな?


 俺は気が早って二時前に着いてたら、蒼も一時四十九分に来たね。本当に驚いた。脇汗やばすぎ。


「あ、あの!先に俺から言うわ!俺――ッ」


 水風船。顔面にぱちぃんね。


「ぎゃはははは!てってれー!ドッキリでした!」


 凄い笑ってる。歯茎。


「お前、まじで……まじで!お前!」


 俺の語彙力どこいった?


「いひひぃ!いひひぃー!」


 笑い方の癖。

 けどこれ、強制的に言っちゃえば伝説は俺のモノじゃない?


「あのさ!俺、やっぱり蒼の事がす――ッ」


 水風船。顔面にぱちぃんね。二個持ってたんだ。


「もう一個あったのかよ……冷たっ」


「外した時用」


 抜かり無いね。コントロール抜群だし。

 もしかしてそのトートバッグの中身、全部水風船?


「風邪引いたらどうすんだよ」


「お見舞いに行ってあげる!ぎゃひひぃひひ!」


 走って逃げてった。笑い方の癖。


 そして俺、ちょっと嬉しいの何なの。Мなの?


 結局告白出来なかったし。失敗済みなんだけど。


 桜の木伝説、水風船の場合はどういう効果があるのかな。


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 やっぱり彼女は昔から変わらない。


「高貴?」


「何?」


「何でもないこっち見んなばーか」


 小学生の男の子なの?


 どうしてこんなに気になるの?可愛く見えるの?

 フラレる前より好きになってるのは何故なの?


 赤井 蒼あかい あお、赤いのに青いの何なの。


 桜の木伝説は後二年狙えるんだから、覚悟しとけ。


 To be continued

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少し変わってる君が好き ごろごろ @gorogorodesu

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