第4話
澄んだ空気の中、草木が疎らに生え、空は水色に少し橙色が混ざっている。春の湊の夕暮れ前、私は実家へ帰るために、市の中心駅のホームで電車を待っていた。
中心駅ということもあり、同じく待っている人もいるが、見るからに全員不良なので、関わらないようにする。
ずっと立っているのも疲れるし、あの駅と違ってベンチも沢山あるので、スーツケースを抑えながら、腰掛ける。
目の前には、ガラス張りの建物と、申し訳程度の植物。私は、その風景には気も留めず、ここに着く前の出来事を思い出していた。
帰りの新幹線、たまたま友人と鉢合わせ、帰路を共にすることにした。数十分すると、私は目的地につき友人に見送られながら先に降りる。
昔、こんな妄想をしたことがある。
私には大切な人がいて、お盆、帰省のとき、同じ列車で帰る。談笑と沈黙と景色を楽しみながら、長い道中を過ごす。そのうち、その人は先に降り、私がそれを見送る。一人になった私は楽しめていたはずの沈黙に何かが抜けたような思いを抱く。その人のことを考え、私は孤独な帰り道を耐え凌ぐ。
そんな、未来にあってほしい空想を。
現実との乖離にため息をつきながら、何気なく空を見てみると、さっき見たときより赤く染まっていた。そして、次の瞬間、
「美しい……」
そんな素朴な感情を声に出してしまうほどの光景が広がっていた。空は、完全な橙色となり、太陽は赤く輝いて、草木を一気に引き立てる。沈黙の中」、幻想がこの空間を支配する。
『田舎には夕日が一番似合う』そんなもとから私の中に存在していたような感覚が私を埋め尽くす。もしここがあの駅だったら、この美しさに私は涙したであろう。それくらい、感情を揺さぶる風景を私は見ることができた。もっとも、最上の美をこの目にいれることはできないのだが。
映画のワンシーンのような情景に陶酔してるうちに、私は先程の妄想を更に広げる。
──あの人のいない寂しさに耐え、私はこの駅につく。そして、この光景をあの人に見せたいと思いながら、電車を待つ。
願望だらけの妄想を繰り広げているうちに、アナウンスが鳴り、電車が日の指す方へと迫ってくる。赤く染まった車体と哀愁漂う轟音は、この世界を一時の幻想で彩る。
やがて、電車は止まり、先客が入る。私は少し間を開けて、吸収される。そして、席に着いた私は、窓から神秘を覗く。」
それを共有したいあの人を心に写しながら。
(終)
プラットホーム 八橋鷲 @yatsuhashiwashi
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