いないきみをみていない、今

詠井晴佳

いないきみをみていない、今


 あなたにはわたしが見えるの? カーテンの不自然な隙間、あ、洗濯物


 踏みつぶされる花みたいだ 境内の隅で咲いてた体育座り


 盆提灯 見とれる子供が葡萄飴片手にきみをすり抜けて、夏


 見えるの? と口開け固まる シャッターが切られてそれが季節になった


 人に話したら噓になっちゃいそうで 空気をひとつ吞み込んでみる


 校舎三階から見下ろすグラウンド 透明な肌に反射しない陽


 合唱で誰も見てないAndante きみの寂しさに気付くゆっくり


 両腕がハサミの怪物が昔いたんだって! 慈しむような目で


 しないよね、成仏とかさ。する必要ないよ、映画とかタダで観れるし


 学校に行きたくないんだ 行く権利ないきみは微笑んで、夏雲


 今日もいつか思い出になる/遠いサイレン/わたしのこと、忘れないでね


 感触はないけど手繋ぐ 意味じゃない二人の足を波がさらって


 夢から醒めてもなんだか夢の中みたいですこし怖「大丈夫だよ」


 風吹いて飛んだ綿毛は陽炎の彼方 きみの顔、ジグソーパズル


 きみのこと考えない日が二日あり 滴るアイスは手首を伝い


 「久しぶり、まだ覚えてる?」茶化そうとして上手に笑えなかったこと


 二人歩く そもそもきみは何だっけ? 振り返り、停止、ヒグラシ鳴って


 ぜんぶぜんぶ幸せだったな、声がした 街路樹が人のかたちに見えた


 検索履歴は「ネクタイ 結び方」 盆提灯のひかりが揺れる


 いないきみをみていない、今 コンビニの過剰な明かりが誰かをさがす

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