第十三話 国家公務員
「これは間違いなくチケット屋だ。溶け具合からして三日前には食われている」
「プレイヤーが死ねば姿が消えるはずだ。ログアウトしていないと言う事か?」
「リアルではどうなってるんだ…」
「まさか、これってアンノウン事件なんじゃ!?」
「はい、みなさんお静かに。以降この事件に関しましては我々が担当となります。えーと…第一発見者の方とお連れ様以外は離れてくれますか」
「あ?誰だよアンタ」
二つの死体のそばに集まった野次馬達。誰かが呼んで来てくれたであろう街の警備隊NPCと、グレーのスーツに身を包んだ男性がやってくる。
……ゲームの中でスーツ?何で??
「ボクはリアルでは警察官です。申し訳ありませんが、皆さんここはお任せいだけますか。…リアルでの法律はゲーム内でも有効です。警察には刑事事件における捜査権・逮捕権が認められており、この場は一般の方に公開不可とします。あなた達はご退場下さい」
観衆に向かって話しかけるスーツ姿の男はヒョロリと背が高く、俗に言うおしゃれパーマな黒髪…細い目の中は黒だ。俺とお揃いの様相だった。
大股で歩いてきた彼はやけに足が長い…そして黒縁メガネの奥に光る目は鋭い眼光を宿していた。
「はぁ?証拠がねぇだろ。そもそもロクなスキルを持っていないハズのコイツが、キメラなんか倒せるわけがねぇ。怪しいのはこっちだろ」
「そうだ!コイツ…いつの間にかレア装備着込みやがって。チートソフト使ってんじゃないのか?」
「彼はボク達側の人間ですよ。チートではありません。では、改めて…ボクは警察庁の…公安といえばわかりますか?名は明かせませんが、警察手帳ならあります。僕の持ち物はリアルのトレースですし、これはゲーム内に存在するデータはありませんよね。ご覧ください」
「「……」」
「如何でしょう?ご納得いただけましたか?さて、先ほどから
お住まいの埼玉、千葉県の県警に協力を仰ぎましょうか?身元は割れています。あまりしつこいと捜査妨害で引っ張りますよ。ご退場下さい。」
とばっちりでチートを疑われた俺の素性、冒険者ギルドで絡んできた人たちの素性も知ってるんだから公的機関、警察の人で間違いなさそうだ。
痺れ矢を放ったのはアイツらだったんだな。……ヤレヤレ。
二人は慌てて逃げ出し、人影の黒山に紛れていった。
「あなたが第一発見者で助かりましたよ、
公安警察だと名乗った男は躊躇いなく地面にあぐらをかいて座り、俺の目の前に手を差し出してくる。
反射で手を握ろうとして、引っ込めた。俺はくっさい液体まみれのままだ。
「俺、クッサいのでやめた方がいいです」
「あぁ…キメラの血をかぶりましたか…ではお掃除いたしましょう」
スーツの上着から万年筆を取り出して蓋を外し、彼はクルクルと魔法のステッキみたいにそれを振り上げる。
ペン先から青い光がホワホワと漂い、俺の体に絡みついてカピカピ乾燥し出したキメラの血を吸い取っていく。
す、すごいぞ…お掃除スキル?
「ありがとうございます…臭くてどうしようかと思ってました…」
「いえいえ。…さて、ボクの自己紹介を。警察庁の公安部で働いております。サイバー特別捜査
あのー…警察庁って、警視庁の上だぞ。公安って偉い人の集まりなのでは?と言うか警察庁の人って管理職だって聞いたことあるんだけど…。
ニコッと微笑んだ一条さんは、ほっぺにエクボが浮かぶ。さっきのプレイヤー達にむけていた笑顔とは違う、だいぶ砕けた印象の微笑み。
俺的にはただの地方公務員が、国家公務員のお偉いさんに微笑みかけられていると言う微妙な状況なんですが。人懐こそうな身内向けの笑顔を向けられても困ってしまうぞ。
「は、初めまして…。局って事は、隊員さんじゃなくて上の人ですよね?なぜゲーム内に…」
一条さんは『おや』と呟き満面の笑みになる。
「ゲームに入る前のご説明をきちんと覚えていらっしゃる。なかなか優秀ですね。ボクは一応アンノウンケースの捜査責任者です。今回あなたがここに潜入されてから、リアルでは大量に殺害された方が見つかりました。そのため、ボクが直接参りました」
「あ、そ、そうなんですか?」
「えぇ、ちなみに地方公務員でご協力頂いたメンバーで残っているのは
「あー…死んじゃったんですか」
「はい。情けないことに警察官でも同じ事が起きています。アカウントを作り直しても無駄なので人員を選定し直し、ログインしました。そしてこの事件を嗅ぎつけました」
「はぁ…あ、あの…」
「其方の方は…NPCさんですか?…街の外に出られるんですね」
「はい、えーと…アリシア、この人はリアルの世界では警備隊みたいな人で…俺よりずっと偉い人なんだけど…どう説明したらいいんだろう」
俺の横にしゃがんだままのアリシアは困ったような笑顔を浮かべている。
対して警察の一条さんは『スンッ』とした表情に変わった。…公安の人って、こんなに分かりやすい物なのだろうか。
「NPCの間でもリアルの事件は話題になっているよ。私たちは君たちに情報を渡せる設定ではないが…何かが起きているだろう事はわかる」
「えっ?そうなのか?何で?」
「ソロ…私たちは、NPCなんだよ」
「……………………」
悲しげな表情で囁くアリシア。
いつも凛としていたその声は、掠れて少し聞き取りづらいほど小さかった。
電脳探偵─SOLO─ 只深 @tadami
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