私的選外〜其の参
花恋亡
ロニーは「YES」と言う
私、理亜は自他ともに認める才女である。
父の転勤でこの春この地に引っ越して来た。
春休みが明ければ、新しい小学校で四年生をスタートさせるのだ。
そして隣にいるこの阿呆は私の双子の愚妹である。
性は神田、名は理衣。
りあえへへへ〜と言いながら今日も元気に鼻くそをほじっている。
いつもズボンの裾から品性を溢しながら歩いているのだ。
今日に限ってはお揃いのスカートを履かされているから、ズボンの裾からではなくパンツの後ろ側をこんもりさせていることだろう。
しかし私は理衣には申し訳ないと思っているのだ、きっと母のお腹の中にいる時に、私が理衣の知性と品性を全て奪ってしまったに違いない。
全く持って嘆かわしいことだ。
「わー!りあみてみて!でっかい鼻くそとれた!」
なんてこと!
野球ボールくらいの鼻くそじゃないの!
物理法則を無視した現象よ。理衣の鼻の穴はもしかしたら次元構造が異なるのかもしれないわ。
汚いから捨てなさいと私が言うと理衣はオーバーハンドポジションで豪速球を投げた。
オオターニもびっくりね。
「ぬあっ!」
垣根の向こうから男性の声がしたわ、鼻くそが命中してしまったのかもしれないわ。
理衣に謝りに行くわよと言うと「おうよ!」と元気良く応えた。
垣根をガサガサと越えるとそこには、外国の方とおぼしきご老人が縁側に腰掛けて、何故か指先に付いた理衣の鼻くそを凝視している。
「なんてことだ…とんでもない鼻くそが取れた」
いや違います、妹の投げた鼻くそが物凄い速さでおじいさんの鼻くそと入れ替わったのですと説明した。
「なんだてっきり物理法則を無視した巨大な鼻くそが取れたかと思ったよ」
物理法則は無視されてるのよ、何なら貴方の鼻の穴より小さい理衣の鼻の穴からほじり出されているわ。
どうやら、ご老人は愚妹と同種のようだ。
「ねぇねぇじいちゃん名前なんてーの?」
「わたしはロニーだよ、サトー・ロニー」
「ロニー・サトーでも可」
やはり外国の方みたいね。私たちより白い肌に堀の深い顔立ち、髪の毛や無精髭は白いが金色に近い色をしている。
年齢は八十歳過ぎかしら。
「ロニー変な名前!ロニーは外国人なのー?」
こら理衣!初対面で失礼でしょ!謝りなさい。
理衣はそっかそっかと素直だわ。
「失礼なものか、私たちは友達だろ?」
とんだ距離の詰め方ね、誰にでもブラザーと言うタイプなのかしら。
「そっか友達かー!で、ロニーは外国人?」
「違うよ日本人だヨ、日本生まれだヨ」
唐突に不自然ね。そして何故否定するのかしら。
あまり触れて欲しくないのかもしれないわ。
「えーホントにホントー?」
「YES![ˈjɛs]」
ロニーはとんでもない嘘つきだわ。私にははっきりと発音記号が見えたわ。もうネイティブのそれじゃないの。
私たちはロニーに自己紹介をし、お隣さん同士仲良くして下さいと挨拶をした。
「ねー、ロニーはお仕事してないの?むしょく?」
御高齢なのよ、現役は引退されて余暇を満喫されてるのよ我が愚妹。
「いや、今もこうして仕事の最中だったのさ」
「どーゆーことー?ロニー何もしてないじゃん」
そうよ理衣の言う通り何もしてなかったわ。
「君達は空気は透明に見えるかね?」
もちろんそうだわ。理衣も「ん!ん!」と元気良く頭を振っている。
「それが私には空気中の分子が見えるのさ、特殊能力でね、その中のクリプトンとキセノンを数えて国に報告してるのさ」
「えーウソだあー」
そうよ荒唐無稽な嘘よ。
「君達は道路の端で何かを数えてる人を見掛けた事はないかい?あの人達も私と同じ仕事をしてるんだよ。カチカチとカウンターを押してるだろ?」
貴方はカウンターなんて持ってないわ。
「私はね実はスーパーコンピューターと同期してリアルタイムに情報を送ってるんだ、富嶽ってしてるかい?私の体から出るこのコードが通信機さ」
それは低周波治療器じゃなかったのね。理衣は話しが全く理解出来てない様子だわ。ぽかんと開けた口に鼻水がそのまま循環しているもの。
「そうしてほらこれ、耳のこの機械で政府の人間からの指示を聞いてるのさ」
そんな…それは補聴器じゃなかったの。確かに少し変わった形だし目立たない様に肌色なのはそれが理由だったのね。
「しかし、これは国家機密だよ。誰にも話してはいけないよ、もし誰かにバラしてしまったら大変な事になるからね」
「うっ、うん!うん!誰にも言わぁなぁい!」
うちのお隣さんはとんでもない傑物なのかも知れないわね。理衣なんてもうキラキラした瞳になっているもの。
では最後に一つだけ聞かせて頂戴。
Your lying right?(嘘をついてるでしょ?)
「…YES![ˈjɛs]」
そうこの日出会ったお隣さん。
ロニーはとんでもない嘘つきだ。
だって私にははっきりと発音記号が見えたもの。
私的選外〜其の参 花恋亡 @hanakona
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