泣き虫な影使いと手影絵の虎
藤泉都理
泣き虫な影使いと手影絵の虎
「あ、はは。また、朝を迎えた。迎えてしまった。か」
まるで烈日である。
爽快な気持ちにさせるはずの朝日を浴びた身体は、いや、身体も魂も心さえも、すべてが焼かれては塵と化して消滅しそうだ。
影使いはやおら後方に倒れながら、そう思った。
本日十日目。
月光で己が創り出した手影絵の虎の調伏に失敗して十日目。
五日後に迎える満月を過ぎるまでに調伏できなければ、もう、虎を諦めなければならないのだ。
約束したのに。
地面に倒れ込んだ影使いは、地面に僅かにできた己の影にそっと触れた。
すれば、いや、触れずとも、視線を感じる。
虎の視線だ。
その獰猛で静謐な視線から聞こえてくる。
早く調伏しろ情けないと叱咤する虎の声が。
いや、その虎の声はただの願望で。
もしかしたらもう見限られているのかもしれない。
そう考えただけで身震いがする。
まだ調伏できる年齢ではなかった幼い頃に約束したのに。
「ちょちょいのちょいで調伏するって、約束したのにこの有様、か。はは。は」
幼い頃に聞こえるはずもない虎の声を耳にして才能があると過信した結果が、この様である。
見限られて当然か。
迎えの者の声が聞こえては、緩やかに意識を手放した。
声が聞こえた。
これは、願望が創り出した虎の声、か。
それとも、本物の。
早く調伏しろ莫迦者めが。
早く調伏して、靄ではなく、早く姿を見たい、影の中だけではなく影の外でも会いたいと煩い口をさっさと封じろ。
「あらまあ。また泣いておられる。本当に幼い頃と変わらず泣き虫だなあ」
送り迎えの任に就いている影使いの幼馴染は、しゃがみ込んでは影使いを背負い車へと歩き出したのであった。
(2024.5.16)
泣き虫な影使いと手影絵の虎 藤泉都理 @fujitori
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