屋根

インターホンが鳴った。

画面を見ると、作業服の男が立っていた。


「はい」


「隣の家の屋根工事をしてる者ですが、たまたまおたくの屋根が一部壊れているのを見つけたんですよ。良かったら点検しましょうか?」


「え……屋根が……ですか?」


「ええ。実際登ってみないとわかりませんが、剥がれてきてるんじゃないかと。最近大雨やら雪やら多いじゃないですか。気候が変わってきて、屋根も傷みやすいんですよ。点検だけならお金は入りませんから、いかがですか?」


「そうですか……屋根は気づきませんでした。あの、もう少し詳しくお話聞きたいので、玄関開けますね」


家主は鍵を開け、作業服の男を招き入れた。

この男は悪徳業者だ。

実際は壊れていない屋根に上がり、自ら壊す。

そしてその写真を撮り、家主に見せて不安にさせる。

修理を請け負った後、なんだかんだと理由をつけて高額な修理費を請求するのだ。



「私、こういう者で……」


男は持っていた会社のチラシを渡そうとした。


ゴツン


男は突然こめかみを殴られて、靴箱に向かって倒れた。

倒れた男に向かって、家主の男はさらに金槌を振りかざした。


ガツンガツンゴツンゴツン


躊躇いなく思い切り振りかざされる金槌で、男の頭はめちゃめちゃになった。



「あなた……大丈夫なの……?」


奥の部屋から家主の妻が震えながら出てきた。


「まさか、屋根を突き破るくらい大きくなってるなんて知らなかったんだよ……」


家主も返り血を浴びたまま震えていた。


「どうしましょう……これから……」


妻は、うっ、と呻いて顔を覆った。


「まだバレたわけじゃない。コレは、アイツの餌にすればいいから大丈夫だ」


手が血で滑り、金槌が作業服の男の投げ出された足に当たって落ちた。


大丈夫、大丈夫だ……


家主の男は、自分にまじないをかけるように何度もそうつぶやいた。

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影遊ビ 千織@山羊座文学 @katokaikou

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