−2℃。

木田りも

最終章。

小説。 −2℃。




 −2℃。明日の天気予報。

最高気温を示す温度を見て、あー、上着厚いの着なきゃなぁって思う。少し寒い。なんて思いながら夜、床につく。


 暇を持て余した表情で目を覚ます。

遠い遠い宇宙の夢を見た。二酸化炭素の暴風が吹き荒れる中、地下から出てきた僕たちは、重い防護服に身を包み、故郷を思いながら、帰ろうと歩み続けるように。遠い遠い宇宙には、何もないのだ。この地球から意識がどんどん上へ上へと離れていき、地球を見下ろす視点になった時、僕は、重力というものから解き放たれる。体が浮いて、足もどこかクネクネしてくる。宇宙に適応できなくて、流され、遠くに見える太陽から逃げようと、土星の環を目指し平泳ぎ。やがて、竜巻が吹き荒れる木星の強い重力に引き寄せられ、深淵へと誘い込まれる。途中、空間にはブラックホールがあって、今か今かと待ち望む深海のウツボのように睨みをきかせている。木星の竜巻に吸い寄せられ、僕たちは、辿り着く。そう。過酷な環境に。熱い。風が熱い。灼熱だ。太陽があんなにも遠いのに何故か灼熱。青い海王星と環がある土星が何故か近くに見える水金地火木土天海、水金地火木土天海。


 ベッドから、繋がる。この地球のベッドからそこまでつながっている。手段さえあればいくらでもたどり着ける。どれくらいの時間がかかるのだろうか。何光年も遠くにある場所。何光年の未来?光がたどり着くまでまだ。だから僕は、くしゃみするんだな。丸パクリ。へ。


 そこには未来図があった。いずれ訪れる終焉、いずれ来る滅亡。文字化け、バグった文字、ロボット、思想統制、1984。縺臉戀孌瀲奩臁サ匳。れんという読みを変換するとこんな漢字たちが出てくる。試してみて。こんな風に遊んでる未来。今と変わらない未来なんてずっと転がってるわけないのだ。どこかで、ほんの少し。転がってる石ころが1センチメートルズレてるだけで変わる人の死。夢、現実。うつつに残された自意識という過剰なもの。僕の本体はもうコールドスリープしてるのに、何を今更、未練を感じてるのだろうか。


 ハワイが年々少しずつ日本に近づいている。僕たちはいつのまにかハワイに辿り着く。夢の国。誰にとっての夢なのか。壊れた夢。眠たい。寝てみようか。ハワイを思って。いつか来るハワイを思って。おやすみ。世界。家紋家紋。


 きよーとぶきよー

しんせつ、ふしんせつ、

ぜん、ぎぜん、あく、ぎあく、逆。

あべこべ、純粋、不純。

美味しいワインに混入した1%の猛毒。

馬はひっくり返り、マントは真っ赤。

突進して、壁にぶつかって、訴訟が起こる。

生きてきた上で身につけてきた知恵、

その場で起きた理性の崩壊、信頼をだるま落とししてまで手に入れたかった1秒間の奇跡。

明日、今日よりも好きになれるのかな。

神のみぞ知る。神様なんていないのだ。

クソ喰らえ。いるんなら、僕はもうとっくに

億万長者になってなきゃおかしい。

僕を嫌いな奴らはクズだって世界に向けて発信しても炎上しないはずだ。ここにあるものが全部、歪んだ真実。だから、逃げないで記したんだ。どう?嫌いになったかい?ならば本望だ。ハワイは遠い。遠いな。もう沖縄で妥協しよう。僕に沖縄を下さい。


喜んで、殺されよう。世間の波に。

身近な集合体から弾け飛んで、孤独の海に溺れよう。あぁ、久しぶりにこんな小説を書いているからだろうか、楽しくてたまらないのだ。自分という概念の介入。あー楽しい。ずっと終わらないでほしい。だから、お願いだから、そのまま見捨てて、置いてって。部屋の隅っこに。でもご飯だけあーんして食べさせてね。約束。

忘れて。忘れて。忘れて。

3回言ったからアップデートしてね。

でもたまに思い出して。


でもたまに、思いだして。


でもたまに、思い……(通話の音が鳴る。)


 助けが来た。もう仲間外れにされた冥王星の氷の洞窟に取り残されていた10年前の老人。木星にいる僕は、横目にそれを見た。狼煙に気づかないそいつらは、まだ若い僕よりも老い先短い老人を選んだ。その老人は冥王星で何を見たのか。そっちの方がきっと価値があるのだ。

地球で記者会見を行った彼は、地球にいる地球から出たことのない人たちに向けてこう言い放った。


「そうか、そうか、つまり君らはそんなやつなんだな。」


 目を覚ました。夕方になっていた。

今日も特に生産性のあることをしないまま、終わっていく。夜ご飯を買いに行こうとイオンに向かう。人工的に作られたピンク色が景観を変えた。どこにいても分かる。これから、世界標準で勝負していくため。戦うためだ。良いだろう。夕焼けの中、自転車。夕焼けに追われながら、帰路を辿る。


 覚えてていいんですか?

覚えててくれますか?

頭の片隅に入れといて良いんですか?

こんなに遠慮深くてすみません。

いちいち謝ってすみません。

ネチネチネチネチすみません。

こういう思いを太陽系外縁天体まで投げ捨てるために、僕は宇宙まで来たんです。労力と、時間と、少しのお金をかけて。


手紙に書いて、少しの酸素を犠牲に僕は、外に放り投げた。その手紙は宇宙を漂っている。僕はスペースシャトルの中から眺めた。ゆらゆらとまるで後ろ髪を引くように、ただ、漂うばかり。あとは帰り道。ただいまって言うために。ただいまとおかえりが同じ人じゃないと困るんだ。だから、帰らないと。


 ジンギスカンを食べた。北海道の人はジンギスカンの残り汁を使ってご飯にかけたりなど、活用する。僕は、初めて残り汁でラーメンをゆがいてみた。あの、ほんとにすごい美味しかった。だから、またやろうと思うんだ。今度は余り物ではなくね。


何にも興味が持てないんです。どんな映画やどんな小説を見ても終着点が、変わらないからだと思う。いつもそこにあるから、記憶から消えないんです。消えてほしい記憶は消えずに、忘れたくない楽しい思い出は、容易く忘れるんです。ぼんやりとする僕です。はっきり存在するあなたです。いつからだろうかです。僕は、いつからだろうか。夢しか見なくなったのは。現実に引っ張る力が減っているのがわかるんです。超攻撃型、攻撃は最大の防御。ネチネチが始まったんです。潰してやれです。と、首をガクンってやられて、ネチネチはネチられたんです。なにこれです。


 (時が流れる。10年くらいかな。色んなことを忘れてしまうくらいに。あの時、生死がかかるくらい悩んでいたことがフィッシュorビーフレベルくらいになるまで)


僕は街を歩いていると、マイナス2℃を感じる。思えば、雪も深々と降り、身も心も寒い。歳も取ったから、身体も重たい。雪に足を取られ一歩踏み出す力が段々と弱まっていくのが分かる。


 空から、一通の手紙が前方に降ってきた。僕はそれを目指し、雪の中を駆けた。久々に走って脇腹が痛い。まあ、それは、それと、して。

僕は全ての痛みを犠牲に走り出した。辿り着いて、


「久しぶり。」って言った。








終わり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

−2℃。 木田りも @kidarimo777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ