第5話 

ーーーーー


「今日は、くん家で遊ぼうか?」


「了解!」


「じゃあ、時に集合な!」


「おう!」






ーーーーーー


ーーーーー


ーーーー


ーーー


ーー





「うっ、んぅぅ……」




懐かしい記憶が覚醒を促していたような気がした。




「さんが目を覚ましました!」




突然の女性の声が目覚めたての脳に響く。




「ここは?」




「さん、大丈夫ですか?」




「さん?おれの事ですか?」




「御自身の御名前に心当たりはないですか?」




「いえ、少し懐かしい響きがして。」




「そうですか、具合はいかがですか?」




「そうですね、今のところ特に問題無いみたいです。」




「それは良かったです。」




「ご迷惑お掛けして申し訳ありません。」




暫し、問診のような問答を繰り返した。


周りは、穏やかな会話とは違い、


バタバタと慌ただしく、


まるで、野戦病院かのようだと、


冴えない知識がイメージさせた。




「何かあったんですか?」




「近年稀にみる酷暑日が続いていて、


貴方のように脱水症状で搬送される方が、


後を絶たなくて。」




「えっ!」




「重篤な状態な方ばかりで、


亡くなられる方も少なくないの。」




「そうなんですか?」




「こんな異常気象は、


例年とは桁違いで怖くなってくるわ」




「地球環境も物理的に


そんなに急激に悪化するようなことは


ないとは思うのですが」




「何にしても、


ひとりでもたくさんの人の命を、


繋ぎ止められればいいのだけれど」




「そう…ですね」






自分自身に置かれた


状況を確認するように


看護師の言葉を咀嚼するように


頭の中で整理を始めていた






―あれは夢?いつものような?


それにしては生々しい感覚が今も残ってるような


そんな違和感が拭えないな―






今までの生活のなかでも


様々な夢を


寝ているときにみてはいた自身のを省みて


明晰夢以上の


現実感に戸惑いを覚えていた






「…さん」「……さん?」「意識はありますか?」




「んぁ?申し訳ないです


考え事をしていて」




「無理もないですよ、


丸2日意識が戻らなかったから」




「2日間も?!!」




「そうですよぉ


もう、このまま目を覚まさないのかとさえ


医師と話して


視野にいれなきゃならないところでしたから」




「そう……なんですね」




「でもよかったです


意識が戻ってくださって


本当に亡くなられる方が多いから」




「そう………ですよね


辛いことが多いのは哀しいですからね…」






そんな会話の最中


妙な頭痛が思考を遮る






―――


………けて


……助けて


…か助けて


誰か助けて


――――






慟哭のような叫びが


頭の中に響く






「いっつ…」




「どうしました?さん?」




「いえ、ちょっと頭痛が」




「大丈夫ですか?


耐えられないくらいですか?」




「そんな事はないですよ」






今までにない


幻聴とは思えないほど


明確な音が脳を揺らす






―何なんだいったい


自分はおかしくなったのか?―






「……さん」「……さん?」




「はいっ?」




「やっぱりどこか痛むんじゃ?」




「いえ大丈夫です!」




「本当ですか?」




「本当、ダイジョブ、ダイジョブW」




「それならいいんですけど


辛かったらちゃんと呼んでくださいね」




「お心遣いありがとうございます!」






看護師さんの気遣いは


今までの荒んだ日常だった日々が嘘のように


昏睡状態の時にみていたような


世界の延長に思えて


現ではなく夢の中なのかとさえ感じた




自分は


仕事の一貫とはいえ


優しい言葉を掛けてもらえるような


生き方はしてこなかったはずで


必要の無い存在のように思って


死んだように生きていた


ただ社会の歯車で替えのきく


小さな小さな取るに足らない部品だとさえ


考えてしまうほどだった






ーーーーー


ーーーー


ーーー


それは


とある書店バイトの日々での記憶だった




「これはどういう事かな?」




防犯カメラの映像を見せながら


店長の立場の人からそう問い詰められた




自分は何を問われていたのか


理解が追い付かなかった




「何でこんなことしてるの?」




少しずつ店長の言いたいことが伝わってきた


自分は何かを疑われているらしい




「黙ってないで何とか言ったらどうなの?


口が聞けないの?」




捲し立てるように矢継ぎ早に問われ




「こういうことするなら


辞めてもらうしかないんだけど?」




その言葉か放たれた時に脳は理解したみたいで




「わかりました


いままでありがとうございました」




そう一言告げて足早にその場を去った




その時の胸中は複雑だったと思う


よかれと思い整理整頓していた様子を


防犯カメラで確認すると


物を漁って盗ろうと見えるんだと


今にして思う


それでも当時はアルバイトの立場で


容易に切る事の出来る立ち位置ではあったが


こんな形で人は全容も知ろうとせず


見方を押し付けて否定するのだと


自分の中の何かが欠けた気がした…


ーーー


ーー







目が覚めたのは


夕闇が帳を降ろすような


黄昏時だった


頬を伝う


その何かはどこにあるのか


彷徨うように頭を巡らせる




そんな時だった


頭に響くノイズ混じりの痛みが走ったのは




ー…けてー


ー……か、…けてー


ー「「誰か、助けて!!!」」ー




脳に直接叫ばれているような


強い慟哭にも似た悲痛な感情の奔流に抗えず


昏倒するように意識がさらわれた…


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