ふかふか家族計画
縦縞ヨリ
ふかふか家族計画
カピバラのぬいぐるみにキャベツを買うのが日課だ。
飼っているのは体調十五センチくらいの丸いのが一匹。元はゲーセンで取ってきたもので、夫がこねくり回してたらちょっとずつ動くようになった。
見た目が実物に寄ったりすることは無く、綿の詰まったぬいぐるみとして日々悠々とすごしている。
夫はぬいぐるみを動かしてごっこ遊びをするのが上手かった。手を離してもちょっとの間動くくらいに。
彼の手にかかれば大抵のぬいぐるみはほぼ命を得たような動きをしたし、デフォルメされたクマのぬいぐるみが踊るのをショート動画にしたらバズった。
「
しかし、長時間動いた個体はカピバラだけだ。
何故かなんとなく命みたいな物を得たカピバラは、今日もシャクシャクとキャベツを齧り、満足するとよく眠り、食べると少し大きくなるが、眠るといつの間にか元のサイズに戻っている。
ちなみに結構な量を食べる。
喋ったり甘えたりという事はしないが、手の温もりに満足して寛いでいることはある。
ずっと食べさせているから分からないが、何もあげなかったら普通のぬいぐるみに戻ったりするんだろうか。
私は生来子供も動物も苦手だが、この子を見ていると、妙にムズムズする。
「付喪神とかそういう事なの? 」
私は聞いてみた。夫はこの事象に言及せず、カピさんキャベツ食べてて可愛い、くらいの話しかしない。
今もゲームをしていて振り返ることも無い。
「さあ、いいじゃん可愛いし」
今もぷうぷうと鼻息を立てながら、目を閉じてふくふくとした身体で寝ている。
かわいい。この子が飢えるなんて、決してあってはならないと強く感じる。庇護欲と言う奴か。キャベツを握りしめる。
あと最近、何故か子供が物凄く欲しい。この愛らしいぬいぐるみが母性を誘発させているのだろうか。三十路を過ぎて、少し焦りもあるのか。
「……あのさ」
話し掛けても振り返らないこの人は、何時でもなんだか意味深で、それでいてたまに魔法使いみたいだ。
ふかふかのカピバラを撫でて、私は言った。
「……子供作らん?」
夫がコントローラーを置いた。くるっと振り返る。
「やっとその気になったか、そう来なくっちゃ」
ああ、そう言えば、子供はまだいいって私がずっと言ってたんだったか。
ん?もしかして嵌められたかな?
「ちなみにカピさんはお前のお腹に入るのに
「え!? カピさんって私の子なの……!? 」
終
ふかふか家族計画 縦縞ヨリ @sayoritatejima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます