第一章 第六話 旅はあっという間
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草原流刑。
それはサイハテの草原地帯にて常に吹く風により、草花が曲線を描く方向に、流刑者が歩かされるものである。
草原流刑の由来は、『草原流刑者の姿がまるで海流に流されているように見える様』から名付けられたものであるとする。
サイハテの平原とするところに、風は吹き、その景色は美しい。しかし、その風が吹く道に人の営みつくるべからず。災いのみが通るにゆえに。
『世界伝承語録』 より抜粋
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異世界ジュメール:南東海原
王歴3245年300日 6時20分
知らない景色が見えては、また離れていく。
その中で、私はラザリーのことをしばらく考えた後、これからのことに意識が向く。
思えば、南大陸の最西にあるローゼリエット帝国から東大陸の最東にあるサイハテなんて私からすると果てしない旅だ。
きっと船旅は長期間になるだろう。
そう考えると、外の景色をいちいち見るのにも意味を感じなくなり、何だか眠くなる。
そうしてウトウトしていると、気付けば帝国内の港にきていた。その後、小さな帝国魔術船に乗せられ、今は南大陸から東大陸にむかっているらしい。
加えて、この魔術船は特殊な魔術により異様な速度の出る船で、ローゼリエット帝国にも数隻しかなく、使われること自体珍しいらしい。
だが、『草原流刑とされる者は海原にて最速の方法にて移送されるべし』との伝承から、今回は使用に至った、らしい……それもこれも送還兵の雑談を盗み聞きしただけの内容で本当かどうかは分からないが、よくしゃべる送還兵の話ではそうだ。
海原に出て、もう一時間ほどだろうか?正確な時間はわからないが、この速度となると陸からはもうかなり離れていることだろう。
次に乗せられた船でも部屋にはまた窓が一つだけある。
しかし、こんな海原ではあったところで水平線しか見えないのであまり楽しめたものではない。
『船の揺れは激しいと思っていたがそれほどではないな』、そんなことを思っていると、なにやら聞き覚えのない音色が聞こえてきた。
激しい足音が周りを囲む。外にいる送還兵もなんだか焦っているようだ。
……異様な音色だ。音は大きいだけでなく、広がりのある音で、竜の咆哮と教会の鐘の音色が混じったような音だった。
だが、不思議と恐怖はまったく感じなかった。
「……これが時の鐘の音だったりしてな。もしそうだったら……私の言っていたことは正しかった、そうだろ、ラザリー?……ハハ」
そう小さく呟くと、またやることない時間が続く。
その時の鐘と思われる音は数分続くと鳴るのをやめ、私はまた寝ることにした。
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異世界ジュメール:南東海原
王歴3245年300日 14時20分
「おい、目を開けろ」
突然起こされ、目が半開く。
「……なんでしょうか?」
小休憩ならば、寝かせてほしい。
「サイハテに到着した。いつでも移動できるように準備しとけ」
……信じがたいが、もう到着したようだ。一般の船を乗り継いでいくと、最短でも一月はかかるときいていたが、魔術船は一日の間で着いたというのか?
あっという間じゃないか。
帝国の許可により、昔見た地図ではサイハテは東大陸の海沿いにあった。
加えて、帝国ならば経路も最短で選べ、かなり早く着くだろうとは思っていたが、これほどに早く着くとは思わなかった。
私はゆっくり立ち上がると、送還兵はすぐに入ってきて、また陸路を進むために馬車に乗るよう命令する。
その命令に従い、乗せられた馬車に乗り、室内を見渡すと囚人用馬車と思われるもので、窓はない。
窓なしの馬車に落胆していると、馬車は動き出した。
馬車に関しても特殊な馬車なのか、結構早い速度で動き出したような気がするが、外は見えないので風が強いだけで、速度はそれほどでもないのかもしれない。
私は見る場所もないまま、何もない室内を見渡すことで時間が過ぎていった。
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異世界ジュメール:東大陸
サイハテ 平原地帯
王歴3245年300日 15時50分
馬車が止まると、鍵を開ける音がする。
勢いよく馬車の扉が開き、送還兵が入ってくる。
「降りろ」
指示に従い降りようすると、長く馬車の中にいたらしく、眩しい。
ゆっくり馬車から降りると、平原が広がる景色がどこまでも広がっていた。
私は大きな欠伸をしていると、送還兵が並びはじめ、すぐに流刑の通達がなされるのだと想像がついた。
「今より、貴様を草原流刑とする。刑は事前に伝えた通りである。荷物を持ち風が吹く方向に歩き続けろ!!」
送還兵の一人が叫ぶ。
私がうなづく。
「返事は!?」
送還兵はまた大きい声で叫ぶ。
「……はい!!」
私は嫌々叫ぶと、手錠を外された。
それから、私の杖を含む荷物が投げ捨てられる。
私はその荷物を背負い、次に右手で杖を持つ。そして指示どおり、私は風が吹く方向へ曲がる草原の上をゆっくりと歩きはじめた。
少し間を置いた後、後ろでパカパカという馬の足音が遠くで聞こえた気がした。
二、三十分程歩いた後、後ろを軽く振り返ると、そこには、夕暮れには少し遠い空と、晴天の下に果てしない平原が広がっていた。
警戒魔法と呼ばれる、危険や殺意を検知する魔術を使い、その術を身にまとう。
その後、歩いていた方向の右手側をよく見ると森が見えたので、『もう送還兵もいないことだしいいだろう』と思い、風の方向など気にせずその森を目指した。
終焉のジュメール 馬の骨 @2732029
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