第12話 僕らは秘密のメモリーを消去する


 ――やはり間に合わなかったのか?


 僕が密かに覚悟を決めた、その時だった。僕らの手前で見えない壁にせき止められるように止まった塊から球体が現れ、『星っち』だった赤い輝きに呑みこまれてゆくのが見えた。


 ――これでもう……大丈夫。しばらく僕の「仲間」はこの星には……来ない。


 敵をすべて呑みこみ終えた「侵略者」は別れを告げるようにぶるりと震えると、地面の中へと消えていった。


「……行っちゃったみたいね」


 杏沙はぐったりしている少女を揺り起こすと、ぼそりと言った。


「……あっ、お姉さん」


 少女がそう言った時、僕の携帯アラームが「ピピッ」と言うタイムリミット音を鳴らした。


「――ふう、なんとか45分以内に侵略を阻止できたようだ」


「さあ、もうお祭りも終わりよ。お家に帰りましょう」


「うん」


 少女を見送った後、杏沙は「さあ、私たちもゴドノフ博士のところに戻らなくちゃ」と言った。


「結局、帽子は無くなっちゃったけどね」


「いいんじゃない?今日の博士のコーディネートには最初から合ってなかったんだし」


 杏沙は遠慮のない口調で言うと、呆れている僕を無視して身を翻した。


                ※


 僕は杏沙に頼みこんで、駅前通りを歩く杏沙の姿をほんの五分ほど動画に収めることに成功した。


「真咲君はいつも完成した私の動画ファイルを送ってくれるけど正直、私、自分の動画なん一度しか見ないのよ。それも見たいわけじゃなくて、何が映っているかを確認するためよ」


「うん。別に構わないよ」


 僕はそう言いつつ実は内心、してやったりとほくそ笑んでいた。なぜならこの騒動の間、僕はことあるごとに動画を回してちょっとした杏沙の仕草を断片的に撮影していたのだ。


 ――編集であれを挟みこめば、素敵なクリップになるぞ。

 

 動画編集アプリを立ち上げ、意気込んでビュアーを覗きこんだ僕は思わず「何だこれ」と落胆の声を上げた。騒動の最中に隠し撮りした杏沙の映像がきれいさっぱり消えていたのだ。


「そりゃないよ」


 僕は唯一残った、本人は一度しか見ないであろう映像を見つめて大きなため息をついた。


               〈FIN〉



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アップデート・イフ~ひとりぼっちの侵略者~ 五速 梁 @run_doc

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