第21話 新たなる旅へ
勝利の後、合体ロボは解体し、ルンドストロム領から来た箱も返して魔物の襲撃に備えることにした。城は元に戻ったが、調度品や生活用品がぐちゃぐちゃになってしまったため、城内は大わらわだ。
「いいえ、私はヴァルムロディ様について行きますわ!」
「ならん、ならん、ならん!!」
そんな慌ただしさの中、国王親子はほとんど喧嘩のような状態だった。
イェシカが魔王討伐の旅に出ると言いだし、国王は頑として受け入れなかった。
「お兄様も旅立たれますわ。私だってお役に立てるんです!」
「なにい? マクシミリアンもだと? 絶対に許さん! 城の防衛はどうするのだ!」
今回は勝利したとはいえ、今後も別の魔物が襲ってくるだろう。そのときに戦うにはマクシミリアン抜きでは不可能と考えるべきだろう。
「イェシカ、私はこの城に残る。この城は私が守らなければならない」
「えぇ、お兄様は魔王を倒しに行かれないのですか?」
――お兄様とヴァルムロディ様のいちゃラブを見たかったのに!
「それでいいんですの、ヴァルムロディ様?」
「私も殿下と共に戦えればこれほど心強いことはありませんが、まずはこの国あってのことです。王子殿下の決断は正しいと考えます」
「なによもう! こんな時はかしこまっちゃって!」
兄がついて行かないなら自分が行く意味もない。だけど、彼とならきっと自分はもっと成長できる気がするし、もっと成長したい。何より彼と離れたくない気持ちが大きい。ただその気持ちがなんなのか理解できるほどイェシカは人間関係に通じていなかった。
「すまない、ロディ」
「何を言っている。王家の者が国を守らないでどうする」
マクシミリアンとイェシカは城門まで出てヴァルムロディを見送った。
「ああ、必要になったらこの城を使ってもいいからな。お前の元へ飛んでいくだろう」
「人類の勝利のためだ。遠慮なく使わせてもらうぜ」
「しかし、その乗り物にその兜は似合ってるな」
ヴァルムロディはバイクに変形したレットヴィーサにまたがっている。そこに白のヘルメットはなんとも言えず収まりがよい。
「転んでも兜のおかげでケガはなしだ」
「ははは、そうだな」
見送る二人の後ろにいた母、アルベルティーナも声をかける。
「ありがとう、ヴァルムロディさん。みんなを守ってくれて」
「いえ、助けられたのは私の方です」
「そう言えばね、お城が動いて荷物がぐちゃぐちゃになったとき、私のパンツが一枚なくなっちゃったんだけど、あなたは知らないわよね」
う!
それはジャケットの内ポケットを温めている。
「じゃあな、また会おう!」
ヴァルムロディはさっと指二本を立てて別れの挨拶をして去った。
パンツのことをごまかすように。
結局、イェシカは見送りに来たというのに何一つ言葉をかけないままだった。
小さくなってゆくヴァルムロディの背中を見つめながら涙を流していた。
「またすぐに会えるさ。そのときには自分の気持ちを言葉にできるといいな」
そう言ってマクシミリアンは妹の頭をなでた。
――本当は自分も旅に出たかった。
だが、それは無理だった。
城を守るためというのはもちろん一つの理由だが、すべてをかなぐり捨ててでも旅に出るという選択だってできなくはなかった。
でもやめた。
自分は彼の能力について行けない。むしろ足手まといになってしまうだろう。
彼は天才だ。
ゴーレムと戦っているとき――背後から『合体炎』を浴びせられようとしたあのとき、なぜ無事でいられたのか。
放たれた炎は間違いなく合体ロボに直撃しようとしていた。
それを≪完全防御≫で防ぐことができたから無事だったのだ。
自分は攻撃に気づいていなかったのに?
そう、≪完全防御≫を発動したのはヴァルムロディだった。
何度か使っているのを見ている間に覚えてしまっていたのだ。
そして、ゴーレムと戦っている最中に背後からの攻撃を察知して防いで見せたのだ。
彼はそのことについて何も言わなかった。
おそらく自分のプライドを傷つけないためだ。
自分はそのことに気づいてないふりをするのが友情なのだと思った。
だが、どうしようもないほどの劣等感を覚える。
一緒に旅をしながら自分の惨めさを味わってゆくのは耐えがたいことではないか。
だから一緒に行かなかった。
――彼は天才過ぎる。
そこには大きな希望があると共に、彼の孤高さを示すものでもあった。
言い知れぬ不安を覚えずにはいられない。
そして、もはや姿の見えなくなった無二の友との再会を心に誓うのだった。
「必ずまた会おう、ロディ!」
そして、戻ってきたときにはちゃんと、母上のパンツを返すんだぞ。
マクシミリアンはしっかりパンツをしまう所を見ていたのだった。
※コンテスト応募中のため、続きは6/14以降に掲載します。
合体勇者ロボ ヴァルムヴィーサ ヴォルフガング・ニポー @handsomizer
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