第13話 流行り風邪の猛威

「結局のところ新たなスキルは見つかったのですよね?」


 工房へ戻った私とロイルは香茶を飲みながら今日の鑑定について話をしていた。


「一応だけどあるのは間違いないみたいなのよね。それも鑑定スキルに分類するものみたいだけど試しにこの香茶のカップにスキルを使っても何も起きないのよね」


「お嬢様のスキルですのできっと錬金調薬に関連するものだとは思いますが、私も過去の資料をあたってみましたがそれらしいものは見つかりませんでした」


「まあ、あのスキル鑑定士も何かがきっかけとなって突然発現することになるだろうと言ってたからその時を期待して待つしかないんじゃないの?」


 意外だったが当の本人である私よりもロイルの方がはっきりしない状況に悔しがっていたのが可笑しかったが、ともかく何か別の可能性が私の中にあると分かっただけでなんとなく前を向いて歩いて行けると思うようになっていた。


 ◇◇◇


 それから一ヶ月が過ぎ、本格的な冬の到来を迎えて当初から危惧していた流行り風邪が流行の兆しを見せ始めた。


「ロイルー。ポーションっていくつ必要だったっけ?」


「明日までに十本ですね。もう半分出来ていますのであと五本程になります」


「わかった。それくらいなら余裕で出来そうね」


 流行り風邪が蔓延してきたことにより父の治癒院は連日大勢の患者が訪れ忙しい毎日を送っているとロイルから聞いた。私の方は昨年ほどではないが初期状態を抑えるとの事で相変わらずポーションの作成依頼が続いていた。


「今年の流行り風邪はたちが悪いと聞いていますのでお嬢様も気をつけてくださいね」


「私はあまり外に出ないからどちらかというとロイルの方が危ないんじゃないの? 毎日食事を作りにあの人の店にも行ってるんでしょ? 患者と接触してうつされないようにしてね」


 ロイルはもともと父が雇った従業員なので通える範囲に居れば食事のお世話をする程度には交流をすると言われていた。


 私はあまり関わりたくなくて全く治癒院へと行った事は無かったので患者などの話は彼女から聞くほか無かった。


「お嬢様から頂いたポーションも予防として定期的に飲んでいますし、他の患者とは接触をしないようにしていますのでご心配なく」


 ロイルはそう言って香茶のおかわりを淹れてくれた。


 ◇◇◇


 さらにひと月が過ぎ、いよいよ流行り風邪がピークを迎えたとギルドが発表した。


 街では外出する者も減り、街の機能も一部麻痺をする事態が続き皆はじっと嵐が過ぎ去るのを待っていたそんな時に事件は起こった。


「お嬢様! お父様が、お父様が病気に罹患りかんして倒れられました!」


 朝の支度をするためにベッドから起き上がろうとしていた矢先の事で私は慌てるロイルの話に頭がついていかなかった。


「父が倒れた? ちょっと待ってよ、治癒魔法士って病気に対する耐性を上げる魔法も習得しているのよね? それで罹患するとかどんな無茶な事をしたのよ?」


「連日の治療患者の増加に無理をなさっていたようで私の作った食事にも手をつける暇もないくらいに仕事をされていたみたいなのです」


「治癒魔法に取り憑かれたと思ったら今度は自分が倒れるまで人を救おうとするなんてほんっとに馬鹿みたい」


 先日、ギルドからの依頼に応えるためポーション作りで倒れた私が言うセリフではなかったが、父がやるとそれを否定したくなる自分にため息が出る。


「治癒魔法士って自分は治せないのよね?」


「はい。そもそも治癒魔法を発動させるには安定した魔力供給が必要なのですが、自らが罹患した場合は精神的なものや魔力供給の乱れで正常に魔法を発動させることが困難になるのです」


「となると別の地区から治癒魔法士をつれてくるか父の病気に合った特殊ポーションを私が作るか……ね」


「そうですが。それぞれに問題点がありますね。一つ目の他の地区から応援は期待出来ないですね。どこの地区も治癒魔法士は不足していて自らの地域の患者で溢れていますのでわざわざ往診はしてくれないでしょう」


「来てくれないなら、連れて行けばいいんじゃないの?」


「理屈はそうなのですが治癒魔法士の方々はお嬢様が言われたように病気に対する抵抗力が高くなっている関係で他人の治癒魔法も効きにくいと言われているようです。もっとも全く効果がないわけではありませんがこの患者の多い時期にわざわざ対応してくれる者はいないのです」


「なら、私が特効薬となる新型ポーションを作るしか無いって事じゃないの!」


 ロイルは申し訳なさそうな表情で私の叫びに対して頷いた。


「――今作っているポーションじゃあ効かないのよね?」


「それは難しいでしょう。新たな原因を特定してそれを調薬師が理解しなければ特効薬は作る事が出来ません」


「そうよね」


 ロイルの言葉は理解出来るけど、実際のところ私は自分で調べて新たな調薬レシピを完成させた経験は無い。


「とにかく今依頼を受けているポーションが完成したら特効薬の試験調薬をするからロイルは父の唾液検体を準備してきて頂戴」


「お嬢様はお会いにならないのですか?」


「今は……ね。さっさと特効薬を作ってドヤ顔であの人に提供して私の方が錬金調薬師として優秀だと認めさせたいのよ」


 思わず本音が出た私を見てロイルはため息をつきながら小さく呟いた。


「本当にかたくなですね。とっくにお父様はお嬢様の事は認めておられるのですけどね……」

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