第4話 帰還報告とロイルの料理
街道に出た私たちはその後、無事に街へとたどり着くとダリは門の詰所で報告を済ませる。
「よう、どうだった? 必要な素材は手に入ったか?」
詰所では報告書を受けつける係の者がそう私に聞いてくる。
「あ、はい。一応ですが必要なものは手に入ったと思います。ただ……」
「お? どうした? まさかダリに何かされたとか無いだろうな?」
「おいおい、待ってくれ。俺が嬢ちゃん相手にそんな事をするはずが無いだろう。そんな話が妻にちょっとでも伝わったら俺は帰る家を失う事になるぞ」
「はっはっは、冗談だ冗談。それよりも本当に何かあったのか?」
係の男性は先ほどの冗談混じりの表情でなく、真剣な表情でそう確認をしてきた。
「えっと、ダリさんからも報告が上がると思いますが、湖畔までの道程では殆ど獣と遭遇しませんでした」
「それは本当か?」
男性はダリの方を見て確認をする。
「ああ、本当だ。角ウサギ一匹さえも遭遇しなかった。そして湖畔で異様に育った大蛙に襲われた」
「大蛙? まあ確かに湖畔では数は少ないが目撃情報は上がっているが異様に育った個体だと?」
「ああ、普通の大蛙はせいぜいが体長五十センチ程度だが、アイツは目測で二メートル近くあったぞ」
「はぁ!? 二メートルだって? そんな個体の目撃情報は聞いたことないぞ」
男性の声が大きくなった事により周りに居た他の者達が集まってくる。
「なんだなんだ? 化け物クラスの大蛙だって? それでそいつはどうした? まだ湖畔に居るのか?」
「いや、確認出来たのは一匹だけでソイツは倒して来たから大丈夫だ。そして大量の肉がある」
「なんだと!? 俺たちの分け前はあるんだろうな?」
肉と言われて男達は目の色を変えてダリに迫る。
「無くはないが、倒したのは俺だ。それ相応の対価は貰うぞ」
「ちっ、仕方ねぇな。今日の飲み代でチャラにしてくれよ」
「ばかやろう。そんなに飲めるか! あと、最上部位は俺が貰うからな」
ダリとその同僚達は本当に楽しそうに仕事上がりの事を話す。
「嬢ちゃんも一緒に行くか?」
ダリは私も肉パーティーに誘ってくれるが私は「いえ、工房にはロイルも居ますし、私も多少なりとも確保していますので」と自前の魔導鞄をポンポンと叩いて笑いかけた。
「そうか。まあ、嬢ちゃんが来たらうちの若いもんがうるさくてゆっくり食べてられないだろうからな。また何かあったら言ってくれ、出来る事ならまた協力させてもらうから」
「ありがとうございます。その時は宜しくお願いしますね」
私はそう言ってお辞儀をすると詰め所を出て工房へと歩いて帰った。
◇◇◇
「ただいまー」
工房のドアを開けるとそう言いながら自らの部屋に向かう。
「あ、サクラお嬢様。おかえりなさいませ。本日の採取状況はいかがでしたか?」
「うん。一応だけど必要な素材は手に入れたわ。それよりも……」
私はそう言ってロイルを連れて厨房へと向かう。
「サクラお嬢様、厨房で何をされるのですか?」
いきなり厨房に連れて来られたロイルは首を傾げながら私にそう問いかけてきた。
「んふふ。実は素材の採取中に出た大蛙を護衛のダリさんが仕留めてくれたんだけど、解体をして素材をとった後のお肉を二人で分けたの。それで私も魔導鞄に入るだけ持って帰って来たから調理して一緒に食べない?」
「大蛙の肉ですか。それはまた貴重なものを手に入れられましたね。大蛙は警戒心も強いのでなかなか捕まえられないので肉もそれほど流通してませんから」
「でしょ? 焼いても良いし揚げても美味しいって聞いたけどどうしよっか?」
「そうですね、唐揚げが良いかと思います。直ぐに準備をしますのでお待ちください」
ロイルはそう言うとお肉を持って厨房へと向かいながら私に声をかけた。
「すみませんがサクラお嬢様はこのお肉をぶつ切りにしておいてもらえますか?」
ロイルはまな板の上にお肉を置くと包丁を添えて数個ほど見本を切ってから私に包丁を手渡した。
「私は衣ようのパン粉と油の準備をしますので切り分けたらそこの容器に入れておいてください」
ロイルは私にそう指示をするとテキパキと自分のことをこなし始める。
私は渡された包丁を手に言われたとおりにお肉をぶつ切りにしていった。
◇◇◇
「――あとはこれを油で揚げれば完成です」
私がゆっくりと切り分けている間にロイルはその他の準備を終えており切り終わったものから次々に油に投下していった。
――じゅわっ。
油の中で弾けるような音が響いてふつふつと細かい泡が衣のついたお肉の周りに纏わりついていく。
「いい感じに揚がりそうですね」
「本当。早く食べてみたいわね」
唐揚げ自体は当然ながらふたりとも食べた事はあるが大蛙の唐揚げは初めてだったのでどんな味になるのか楽しみでじっと揚がるのをみて笑みがこぼれる。
やがて衣の色がキツネ色に染まり良く揚がったのを確認したロイルはさっと油切りの上に出来たばかりの唐揚げを並べていった。
「さっそく試食をしてみましょうか」
どうみてもアツアツの状態だったが食欲と好奇心には勝てずに私は唐揚げをひとつフォークに突き刺してから一口かじる。
「熱っ! でも美味しい!」
当然ながら熱い油の洗礼を受けた私だったが予想を越えたジューシーさに思わず声が出ていた。
「――これは売れるわね」
思わずこぼれたその言葉にロイルが苦笑いをしながら「食堂でも開店しますか?」と冗談を言う。
「あはは。まず、食材がまともに仕入れられないわよ。大蛙なんて私じゃとても倒せないから毎回ギルドに発注してたら高いものになるわよ」
私は初めての味に笑みを浮かべながらそう返したのだった。
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