第6話 斡旋ギルドからの依頼
初めての中級ポーション調薬に成功してから半年が経過し、季節は冬を迎えようとしていた。
「そろそろ寒くなって来たからアレの流行る季節になったわね」
「そうですね。そろそろギルドからも特殊ポーション納品の依頼がありそうですね」
――特殊ポーションとはある特定の病気の特効薬として作られるポーションで病原菌を特定してからでなければ作れない薬の事である。
「そうね。出来ることなら流行って欲しくはないわね」
私はそう言いながらも毎年のように流行る病気に対するポーション用の素材を大量に仕入れていた。
――コンコンコン。
不意にドアを叩く音がしてロイルが応対に向かう。
「ああ、斡旋ギルドの方ですね。何か御用でしょうか?」
私はロイルの身体で少しばかりしか見えない来客について予想はしていた。
「ギルドマスターがお呼びです。内容は今年も必要になりそうな流行り風邪用の特殊ポーション作成契約の話だと思います」
ギルドからの依頼であることを知った私はすぐさま返事を返す。
「ギルドへはいつ頃伺えば良いですか?」
「可能ならば本日午後からと言われておりました」
「分かりました。午後一番にギルドに顔を出すように準備しておきます」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
ギルドからの使いの者は軽く頭を下げると向きを変えて帰って行った。
「――噂をすればなんとやらね。仕事があるのはありがたいけど一度流行りだすと抑え込むのは難しいのよね。治癒魔法組は貴族や高所得者に取られて庶民には回ってこないし、ポーションだけで抑え込むのは限界があるからね」
流行り風邪が広がるとひと月は街全体が活気を無くすからその影響は無視出来ないのだ。
「何か必要なものはありますか?」
ロイルが温かい香茶を淹れてくれながらそう聞いてくる。
「そうね、今日のところは今年の流行り傾向と必要なポーションの数の確認だけだと思うから特に何かが必要とはならないんじゃないかな?」
「では、こちらが今工房にある素材の一覧となりますので足りなくなりそうなものはギルドに発注をかけておいた方が良いかと思います。おそらく風邪が流行りだしたら素材採取にも簡単には行けなくなる可能性がありますので」
ロイルはそう言って一枚の紙をテーブルの上に置いた。
「ありがとう、本当に助かるわ。あのクソ親父が残した遺産の中でロイルが一番ありがたい存在ね」
「その言葉は嬉しいですが、遺産だなんてお父様はまだ亡くなられてはおりませんよ?」
「死んだようなものでしょ? 全く音沙汰ないんだから。今更帰ってきても居場所なんてあるわけないでしょ」
私はため息をつきながらロイルの準備してくれた書類を鞄に入れて工房を出た。
◇◇◇
――からんからん
ギルドのドア鐘の音を聞きながら私は受付窓口へと向かうと用件を伝える。
「サクラさん。ギルドマスターがお待ちですのでギルドマスターの執務室へお願いします」
受付嬢は私を執務室に案内するとドアをノックして入室の許可をとった。
「おお、サクラ君。よく来てくれましたね」
部屋に入るとギルドマスターの席にひとりの壮年の男性が忙しそうに書類の処理を行っていた。
「少しだけ待ってくれ、これを片付けたら話に入るから。ヒマリ君、彼女に香茶を頼む」
「はい。わかりました」
ヒマリと呼ばれた彼女は私を面談用のソファに座らせてから香茶を淹れてくれる。
「ありがとうございます」
私が彼女にお礼を言ってから香茶を手を取るとゆっくりと口をつけた。
「やあ、待たせてしまってすまなかったね」
十分程度待ったところでようやくギルドマスターが仕事に区切りをつけて私の前のソファに座った。
「今日来て貰ったのはほかでもない『流行り風邪の治療ポーション』の作成依頼の件だ。毎年のことだから大体のことは分かっていると思うが風邪の症状は毎年同じではない。だからその年に流行った風邪の分析をしてからで無ければ有効な治療薬はほぼ出来ないと言える。そこで……だ」
ギルドマスターは簡単にそう説明をしてから本題に入る。
「まず、昨年流行った風邪に効くポーションを百本ほど準備をして欲しい。これは運が良ければそのまま使えるが、そうでなければ再度調薬し直さなければならないが今の時点ではそれが最良の策のはずだ」
「わかりました。作るのはどうにかしますが素材が不足してくると思われますのでこの紙に書かれた素材をギルドで取り寄せて頂けますか?」
私はロイルのまとめてくれた素材一覧の紙を提示しながらそうお願いをする。
「もちろんギルドとしても協力を惜しむつもりはない。直ぐに手配をしよう」
ギルドマスターは傍に居た職員に声をかけて紙に書かれた素材の買い取り依頼書の作成を指示した。
「今年は例年になく寒い冬になりそうだから流行り風邪も早いかもしれん。急がせてすまんが十日後の納品で頼む」
十日で百本となると毎日十本程作れば間に合う計算だ。
「出来るだけ期待に添えるように頑張ります」
私はそう言って依頼書にサインをした。
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