第25話 彼女の瞳に映る、モノ。
おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと
そんな二人のなり初めなどは、さておいて。
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1 すげない彼女
二人の家の2階にはミヤコダさんの部屋があって、ミヤコダさん専用のシングルベッドがある。このベッドは、二人で寝るには狭いというだけでなく、ミヤコダさんがカヌキさんに悪さを働くとギシギシ軋む大きな音がする。ミヤコダさんはその音に興奮するけれど、カヌキさんはベッドが壊れるんじゃないかと不安になってしまうので、このベッドで二人で寝ることは少ない。
ミヤコダさんだけが一人で寝る時は、それぞれに宿題やレポートなどがあって、二人の生活時間帯がずれる時。
或いは、どちらかが体調不良の時だ。
「やぁだぁ、一人にしないでぇ」
「子供ですか、いい年して」
「っうー、ぃたい」
「ほーら、大人しく寝て下さい」
カヌキさんがミヤコダさんを寝かしつけようとする。
ミヤコダさんの額の上、目の上、首の後ろにテキパキと冷たいタオルを置く。
ミヤコダさんは、眼精疲労から来るひどい頭痛で完全にグロッキーだった。微熱もある。
「風邪じゃないし、大丈夫だってば」
「いいから寝てなさいって」
「じゃ、優しく看病して」
「風邪じゃあるまいし、大人しく寝てれれば治るでしょ」
不毛な言い合いが続く。
一人になりたくなくて甘えてるミヤコダさんと、一人で大人しく寝て早く治してほしいカヌキさんとの間のバトルだ。
「じゃ、私もうバイトに行きますから」
「ああああぁぁぁ…」
2 怯える彼女
夜になって、カヌキさんは帰ってきた。2階の様子を覗くとミヤコダさんの部屋は真っ暗だった。寝ているんだろうと思ってカヌキさんはホッとする。しばらく大人しくしていれば、体調は良くなるだろう。
「……深弥、お帰り」
「起きてたんですか? 調子はどう?」
「うん、少しね、楽になった」
「何か食べる?」
ミヤコダさんは緩やかに首を振った。
「ぬるめのお茶、淹れてくれる?」
了解、とカヌキさんは1階のキッチンに降りる。
「眩しいと目が痛いのよね」
ベッドの上のミヤコダさんは、猫の目の模様のアイマスクを着けていて、カヌキさんにお湯飲みを手渡されて気を付けながら、口に付けた。カヌキさんは、アイマスクで間抜けな雰囲気、でも猫目が意外に似合うミヤコダさんを見ながら、目と頭が痛いと玄関でうずくまっていた今朝の白い顔を思い出して、だいぶ元気になったと安心した。
「ねえ、深弥」
呼ばれて顔を上げるカヌキさんだったが、ミヤコダさんがそんな自分の仕草が見えていないことを思い出して、何?と返事をした。
「うちってね、代々巫女の家系だって話したっけ」
「いいえ、聞いたことありません」
「そうか、わたし言ってなかったのか」
「それがどうかしたんですか?」
「うん、あのね、こうやって目を使えない時って、ご先祖の力が戻ってくるの」
「……え?」
「深弥、文太ちゃんの前にも、イブって名前のワンちゃん飼ってた?」
「……えっ?」
「ひいおじいちゃん、お髭伸ばしてた?」
「……ぅえ?」
「あとね、ダメだよ、変なもの連れてきちゃ」
「ええええええ?!」
3 離れない彼女
ホラー映画が大好きなカヌキさんだが、リアルなホラーはからきし苦手で、実は、超が付く怖がり・ビビりである。もちろん、霊感は皆無だ。
「何、何言ってんの、か、かかか、架乃?」
「何って、見えるのよ。それだけ」
猫目のアイマスクの下で、唇が綺麗に弧を描く。
いつもなら、惚れ直すくらいのミヤコダさんの綺麗な笑顔だが、今のカヌキさんは、それどころではない。
「ななな、何が見えるンでしゅか?」
「イブちゃん、ひいおじいちゃん、それと……」
「そそそそ、それと?」
ミヤコダさんは答えずに、ただニッコリと微笑んだ。猫目のアイマスクが不気味で可愛い。
「言わない方が、い・い・か・な」
「やだあああああああああああ!!!」
滅多に聞けない、カヌキさんの大絶叫であった。
カヌキさんは、もう、ミヤコダさんから離れなかった。
いや、離れられなくなった。
いかに狭かろうと、
いかにベッドがギシギシ軋もうと、
カヌキさんは、ミヤコダさんの部屋のシングルベッドで、ミヤコダさんにすがりついて震え、まんじりとせず、一夜を過ごすことになった。
一方、ミヤコダさんは、カヌキさんという特効薬を腕の中に抱え込んだ。おかげで頭痛もやわらいで、ゆっくりとした眠りを手に入れた。
4 彼女の瞳に映るモノ
「当分、一人で寝て下さい。こっちの部屋には入らないで下さいね」
こっちの部屋とは、カヌキさんの居間兼視聴覚室兼寝室だ。ミヤコダさんは居間への侵入禁止となった。しかも、無期限禁止だ。ミヤコダさん大ピンチである。
なぜ、そうなったのか。
理由は明らかだ。
ミヤコダさんの眼精疲労による頭痛などの体調不良は本当だった。
が、都田家には巫女の先祖なんていない。カヌキさんに構ってほしかったカヌキさんの大嘘であったことはすぐにバレた。イブと曽祖父の話は、カヌキさんのお母さんがミヤコダさんに教えてくれた情報に過ぎない。当然、何かが憑いている、なんて分かるわけもなく。
「深弥あぁ、ごめんなさいぃぃ、許してぇえ」
ガラス戸の向こうでミヤコダさんがさめざめと泣く声がする。
絶賛激怒中のカヌキさんは、それを無視して、何の映画を見ようかと、リモコンを手に取った。
子供の頃に失明し、角膜手術をして見えるようになったら、見えない筈のものまで見えてしまうという、アジアのホラー映画を選択する
見えるモノ
見えないモノ
見てはいけないモノ
どれも映画の中ならば、いくらでも見えて構わない。
カヌキさんは、ソファーに一人悠々と座って、再生を開始しようとした。
が、再生する前に台所の方をチラリと振り返った。すると、境界線であるガラス戸の隙間から、ミヤコダさんの潤んだ目が覗いているのが見えた。
まったく仕方ないな、というようにカヌキさんの頬が緩む。
「一緒に観る?」
カヌキさんの瞳に映ったのは
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ネタにした映画
『the EYE 【アイ】』(2002)
こんちは、うびぞおです。
今回は、鋏池 穏美 様から『the EYE 【アイ】』というリクエストをいただき、ネタにしました。リクエストありがとうございます。感謝感謝!
しかし、何が困ったかというと、実は、観ていない!のです。ただ、監督のパン兄弟は有名ですし、ジェシカ・アルバ主演でハリウッド版リメイクもされているので、存在は何となく知っている映画でした。ネットであらすじを調べることもできますし。
というわけで、観てもいないのに、「⚪︎⚪︎しちゃったら、見えない筈のものが見えちゃって怖い」っていう話を作ればいいじゃん!と思い立つうびぞおでした。
あんまりシリアスな目の病気にはしたくなくて、思い付いたのが眼精疲労でした。うびぞおの場合、眼精疲労が来ると目の奥から頭にかけて痛くて痛くて、目が開けられないので、もう寝るしかないんですが、おとなしくしていれば一晩で治る程度です(個人差はあると思います)。最近は健康的な生活なのであんまりそういうこともなくなりました。偉い。
カヌキさんとミヤコダさんのどっちが目を使えないことにしようかと考えると、目を酷使しているのはカヌキさんの方だけど、話の筋的には、まあ、ミヤコダさんだろうなと。そこまで考えてしまえば、あとはノリと勢いでばーっと書いてしまいました。
ネタになった映画を知らないので映画の感想は書けませんので、ちょっと違う話。
この映画は、タイとシンガポールの合作だそうです。うびぞおは大体、邦画かハリウッド系のアメリカ映画しか観ませんが、たまに、アジア、スペイン、カナダ、北欧の映画を観ることがあります。サブスクだと自分の興味ある映画ばかりに偏りそうですが、うびぞおは主にBS、W⚪︎W⚪︎Wで映画を見ているので、番組表と睨めっこして面白そうなものを適当にチョイスすることで、普段観ないお国の映画を観ることがあります。当然、当たりハズレがありますが、予想外の当たりに出会えることもあります。特に、ホラー映画は本当にピンキリです。いわばギャンブルですが、それが楽しい。
お国が違うと、俳優さんは知らないし、言語も聞き慣れませんが、見慣れない風景や生活シーンが興味深い。あと、起承転結の入り方が微妙に違うので、シナリオも何だか変な感じ、構成に違和感がします。その辺もよく知らない国の映画を観るときの醍醐味だったりします。
機会があったら、『the EYE 【アイ】』を必ず観ようと思います。その時には、また新たに短編を描きたくなるかもしれません。
さて、前回も書きましたが、まもなくカクヨムコン10なので、今回の第25話を持って、この『とまれ…』は3ヶ月くらいお休みさせていただきます。毎週読んでくださった方、本当にごめんなさい。でも、カクヨムコン10が終わったら再開する気満々なので、その時はまたよろしくお願いします。フォローしてない人はフォローしてね(←図々しい)。
なんにせよ、今回も読んでくださってありがとうございました。
よろしければ、またいずれ、この似非映画エッセイを読みに来てください。
うびぞお
とまれ彼女は映画を語る うびぞお @ubiubiubi
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