最終話

 それから一年――。


 ぼくのおバカさんぶりは、ほんの少しだけでもマシになったかな?


 少なくとも、たいようフレアたんとも連絡をしていなかったし、ほかの誰かを口説くようなこともなくなった。


 ちきゅう的にはまだまだいろいろと問題が山積みだけど、にんげんたちもそれなりに手伝ってくれている。


 今日は、たいようフレアたんが、日常に戻る日。


 つまり、またしばらくは会えない日々がつづくことになる。


 今日は、そのつかの間の再会。あんなにかたくなだった彼女を説得してくれたのは、フレアたんのお母さまだった。


「ひさしぶり」


 ぼくが声をかけると、ちょっぴりどころかかなり大人になった、たいようフレアたんが、頬を染める。


「……ひさしぶり、ね」


 感動の再会だと思うのは、ぼくだけなのかな?


 いつだってゴスロリ風の衣装だったフレアたんが、普通のワンピースを着ている。


 あんまりジロジロ見るのは失礼だから、そっと目線をはずした。


「……たいしたヤツじゃなかったわ」

「え?」


 秒で振られたっ!?


「あ。ちがくて。コクテンくんのこと。たいしておもしろみもなかった。しかもあいつ、あたしのお母さまにラブだったし」


 弾むような明るい声。この声が大好きだってことを、どうして今まで忘れていられたのだろう?


「その、あなたは? 誰かとお付き合いしていたんでしょう? もう病気みたいなものだって、みんなが言ってたもん」


 みんな。懐かしいな。


 おれが懐かしさを噛みしめていたら、たいようフレアたんがうつむいてもじもじしはじめた。


「嘘。あなたが誰ともお付き合いしてないって、みんなが教えてくれたの。だから、わざと言ったの。今までのあなただったら、速攻で否定してくるだろうって思ったから」

「しかたないよ。ぼくは信用できないヤツだった。救いようのないおバカさんだった。けど、もう遅いよね。いつもきみを傷つけてしまってごめんなさい。これで、心置きなくお別れができる」


 大きなため息を吐き出した。そう、これは永遠の別れを意味する。


 たいようフレアたんは、更に素敵になったから、もっといいヤツに出会えるといいな。もし、悪いヤツだったら、ぼくがさとしてあげるのだけど。でも、出しゃばるのはよくないよね。いつもそれで失敗するんだ。


 そんなぼくの耳に、すすり泣く音が聞こえる。


 ああ。またたいようフレアたんを泣かせてしまった。


「なによっ!? 永遠の別れみたいな口きいて。あなたって本当におバカさんなんだからぁ。ちっとも成長してないじゃないっ!!」


 ぼくの胸を叩くフレアたんに、どんな言葉をかければいいのかわからない。戸惑いは、あふれる涙をとめてくれない。


「ごめん。ぼく、本当におバカさんなんだ。だからきみはもっと、もっともっと素敵なヤツと出会えるよ。だって、ぼくより酷いヤツなんて、いるわけないから」

「ちがう。ちがうよ」


 ほろほろと落ちる涙が、郷愁を誘う。一度、ぼくの胸にとどまったフレアたんの小さな拳が、ふいにぼくの後頭部をつかんだ。


「ちゅ」


 頬にあたる、柔らかい感触。熱くて心地良い。じゃなくて。


「フレアたん!? なにを?」

「まだわからないのっ!? あたしは、おバカさんでもちきゅうくんのことが大好きなの。いい!? 次に会う時までもっとマシなおバカさんになっていなければ、ほかの誰かと結婚しちゃうんだからねっ。これが最後通告なんだからねっ」

「フレアたん……。うん。ぼくもきみのことが好きだ。会えなかった間、ずっとさみしかった。だから、もっとマシなおバカさんになる」

「約束だよ?」

「約束」


 絡めあう小指がせつなくて。


 ねぇ、もうたいようフレアたんじゃなくて、たいようフレアさんって呼ぶべきじゃないかな?


「ちきゅうくんがマシなおバカさんになってなかったら、また暴れちゃうからね」


 それは、ちきゅう的に困るから。一歩ずつ前へと進めるようにしなくちゃな。


 おしまい




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たいようフレアたん、荒ぶる。 春川晴人 @haru-to

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