デクノボー

ヤマシタ アキヒロ

第1話

 デクノボー



ガチャガチャと

歯車を二、三個はずして

できの悪いロボットのように

この世を歩いて来た


レーシングカーに憧れたこともあった

流線形のフォルム

しなやかなハンドリング

決して道をまちがうことのない

すぐれた操作性


鏡を見れば分かった

自分には似合わない

両耳についたミラーが

まず左右対称ではない


魔術師に憧れたこともあった

あざやかなトリック

人をそらさぬパフォーマンス

黒を白といいくるめる

優柔不断


やはり自分ではなかった

仕込んだ種を

得意気にバラしてしまう

舌先の甘さ


鷹揚なクジラに憧れたこともあった

大海をゆうゆうと泳ぐ

おおらかさと自信と

迷いのなさと傍若無人


自分とはかけ離れていた

すれちがう人々のネクタイや

帽子やまつ毛や唇の色に

たやすく心を奪われてしまう

意気地のなさ


はたまた寺院やレストラン

農村や象牙の塔

芸能人やギャンブラーにまで

羨望のまなざしを注いでみたが

彼らには彼らなりの

一貫性が必要だった


けっきょく自分はデクノボーにしかなれなかった

それ以外にありようがなかった


ガチャガチャと

歯車を二、三個はずして

できの悪いロボットのように

また明日を歩いていくのだろう

      

                (了)

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