教室の落書き(別視点)



卒業前の教室の大掃除。

殺風景になった教室の壁に、小さな小さな落書き。

本当なら若気の至りとか、黒歴史とか言われても仕方がないもので、こっそり消しても良かったはずのもの。


それでも俺がずっと消さなかった教室の壁の落書き。

相合い傘で男女の名前がかいてある。

俺の名前と、彼女の名前。

「長谷川謙也、麻倉唯」って。


「もう、卒業なんだな」


大掃除で教室が殺風景になると、俺は呟く。

楽しそうに話をしながら大掃除をしているクラスメイトを見ながら、その中の1人の女子を目で追いかけた。


麻倉唯は俺の彼女だった。

もう、過去の話だが。


大好きで大切で一緒にいて誰よりも居心地が良かった。

でも、俺は唯をふった。


「部活が中心だから、お前とは付き合えない。」と言って。


でも、それは嘘だ。

自分にも、相手にも言い訳するための口実だ。

部活は本当に大切だったし、大会にも真剣だったし、部活が大切なのは嘘じゃない。

でも、別れたいなんて思ってはいなかった。

本当は今でも唯が好きだ。


俺は唯が大好きだった。

優しくて可愛くて、小さくて、ふわふわした笑顔が俺を癒してくれた。


でも、離れるしかなかった。

唯の安全のために。


俺と付き合ったせいで、唯は虐めにあってたんだ。


クラスメイトはみんな明るくて、行事事には熱心でそんなはずないと思っていた。

実際、クラスメイトはみんな仲良くて仲間はずれはいなかった。

しかし、SNSでの匿名での中傷があまりにも酷かった。

恐らく、他クラスや別の学年の誰かがあることないこと書いていたらしい。



「ねぇ謙也、私達の付き合ってる証拠残そうよ。」


「ふっ、唯は可愛いこと考えるんだな。」



落書きした三日後、俺は唯をふった。

俺が、証拠を残したかった。

唯が好きだったことを、愛していたことを。


放課後、教室に落書きをみながら黄昏れる唯がいた。


「好き。」


そういう唯の目は、涙で溢れていた。


「唯」


呼ぶと涙をねぐいながら俺の名前を呼ぶ。

俺が涙を拭ってあげたい。

その資格が俺にあるならば。


「ね、唯。俺がもう一度この落書きみたいになりたいって言ったら怒る?」


俺は、唯の隣にしゃがんで壁の落書きを指でなぞる。


「俺、唯と別れて後悔してる。」


自分勝手なことを言っているのはわかっている。

こんなこと、許されないってわかってる。

だけど諦められない。

別れて唯を守ったつもりでいたけれど、そんなもの自己満だ。俺は今度こそ手離したくない。



「俺と付き合ってください。」


「・・・・・はい。」



唯の返事に俺は目頭が熱くなった。

今度こそ絶対に守る。

絶対に手放さない。



教室の落書きは俺の愛の証拠。





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教室の落書き 大路まりさ @tksknyttrp

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