教室の落書き
大路まりさ
教室の落書き
今日は、卒業前の大掃除。
教室の壁に貼ってあったクラスの紙などがはがされて全部剥がされてあっという間に殺風景になった。
クラスに人達は忙しそうに机を運んだり、教室の荷物を運んでいる。
卒業前の慌ただしい光景も、クラスメイトの笑い声も、もうすぐ聞けなくなると思うと寂しくなってくる。
私はふと壁をみた。
たまたま私の所属していたクラスは、みんな明るくて行事事には積極的だった。
壁にはクラスメイトが作ったものも沢山はられていた。
それも今は懐かしい。
壁の隅をよく見ると、そこには私が何ヶ月か前に書いた落書きがあった。
相合い傘の可愛い落書きだ。
「長谷川謙也、麻倉唯・・・・・かぁ。」
私は小さな声で呟いた。
それは、その当時私と謙也が付き合っていた時に書いた物だった。
付き合っていた。過去形だ。今は、別れている。
私が謙也にフラれてしまった。
「部活が中心だから、お前とは付き合えない。」と。
その時、私は渋々了解した。
彼が部活動に一生懸命だったことは知っていたし、私は彼が部活をしている姿が好きだった。
大会や試合に向けても熱心に取り組んでいて、付き合っていたとは言ってもほとんど恋人らしい時間は少なかった。
彼は他クラスや他の学年の女の子からの注目もされてて、優しくてかっこよかった。
それでも、私は彼が好きだった。大好きだった。
でも言えない。
未練がましい女の子に見られたくなかった。
掃除を終えて、ホームルームが終わると、私は少しだけ教室に残った。
卒業式ギリギリに荷物を持ち帰るのは大変だ。
今日持ち帰れそうなものだけ持ち帰るつもりで、ロッカーの整頓をした。
荷物をまとめて教室を出る前、誰もいない教室で私は最後に隅にある落書きを見た。
そしてその相合傘の落書きをそっと触れた。
「好き。」
小さな声で呟いた。
私は本当は諦められなかった。
本当は別れたくなかった。
でも、彼に嫌われたくなかった。
最後までいい子だと思いたかった。
自然と涙が流れる。
駄目だよ。泣くな、自分。
「唯」
後ろから聞こえた低い声。
「・・・・謙也」
振り返ると、少年が立っていた。
私は慌てて顔を擦る。
「ね、唯。俺がもう一度この落書きみたいになりたいって言ったら怒る?」
そういって、私の隣に来て、壁の落書きを指でなぞる。
「俺、唯と別れて後悔してる。」
その言葉に私はまた瞳が潤んだ。
「俺と付き合ってください。」
「・・・・・はい。」
教室の落書きは消さずに残そう。
終
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