僕の彼女はマーメイド!

崔 梨遙(再)

1話完結:2500字

 珍しく、僕は1人キャンプをしていた。海の側、砂浜の上に1人から2人用のテントを張った。食事はBBQ、1人で食べきれる量では無かったので、明日の朝の分を残した。


 そもそも、何故、こんなことをしているのか? 僕は40代の仕事人間、独身、アウトドアには興味が無かった。だが、最近、恋人だった29歳の杏子に別れを告げられたのだ。杏子はアウトドアが好きだった。アウトドア繋がりで新しい恋人が出来たとのこと。僕は、杏子の側から離れるしかなかった。


 まあ、29歳の杏子が40代の僕と付き合ってくれたことだけでもラッキーだったのだ。いい夢を見させてもらった。だが、フラれたショックのため1人で家にいても落ち着かない。そこで、思った。“アウトドアって、そんなに楽しいのか?”と。そこで、初アウトドアに挑戦してみたのだ。


 店で、初心者セットを買いそろえ、食材などを買い、1人BBQ。うん、つまらない。家でDVDを見たり小説を書いている方が楽しい。2、3泊する予定だったが明日には帰ると決めた。


 でも、夜の海は気に入った。


 僕が海を眺めていると、長い髪の女性らしいシルエットに気付いた。遠くない。ちょっと興味が湧いて近寄ってみた。人魚だった。上半身は美女、下半身は魚だった。


 人魚は僕を見ると、微笑んだ。白人か? 日本人離れした彫りの深い美人だった。


「う、うう……」


人魚が苦しみだした。僕は駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫」


 やがて、人魚は下半身まで人間になった。ぐわ!これではほとんど裸体ではないか! 僕は自分のテントの着がえを持って戻った。


「これでも着てくれ」


 人魚は服を着た。


「少し大きいのは我慢してくれ」

「ありがとう」

「君、人魚?」

「はい、人魚です。満月の日だけ人間になります」

「行く所、あるの?」

「無いです」

「僕の家に来る?」

「行きたいです」


 つい、人魚を家に誘ってしまった。僕はテントなどをしまって車に積み込み、朝を待たずに帰ることにした。人魚がお腹が空いたというので、BBQの残りを食べてもらった。


 家に着いたら、もう1度着替えてもらった。サイズが合わないのは仕方がないにしても、コーディネートくらいは考えてあげたかった。彼女は華奢だが背が高く脚が長かったので、僕の服でも思ったより変じゃなかった。彼女はナイスバディだった。


 店が開く時間になり、僕達はショッピングモールに行って、彼女の服を買った。買ったその場で着がえさせたら、海外モデルか? と思うような美人がそこにいた。


 食事を何にしようか? リクエストを聞いてみたら“ハンバーガー”というビックリな回答。ハンバーガーショップで食事をしながら、僕は初めて彼女の名前を聞いていないことに気付いた。


「僕は大輔、君は?」

「私はエイミーです」

「エイミーはこれからどうするの?」

「海に戻ります」

「ああ、そうか、そうだよね」

「大輔、私と離れたくないんでしょう?」

「なんでわかるの?」

「私達は、人間の心がわかります。大輔は私が好きなのですね」

「え! あ、そうか、バレてるんだ。うん、好きだよ。初めて会った時から」

「私も大輔が好きです。大輔から溢れて来る暖かい想いを感じていると幸せな気分になれます」

「そうか、でも、もうお別れなんだよね?」

「別れなくてすむ方法があります。でも、大輔にとっては命懸けです。それでもいいですか?」

「エイミーと一緒にいられるなら、何でもするよ」

「では、私と海へ行ってください」



「息苦しくないでしょう? 私と一緒なら息苦しくないはずです」

「確かに、全然、息苦しくない」

「あの洞窟が、私達の国の入口です」


「エイミー、遅かったわね! 何?その男は?」

「彼は大輔。私は彼と結婚します」

「まあ、エイミーも男を連れてくるようになったのね。でも、試練は必要よ」

「わかっています、大輔、頑張って!」


 エイミーは2メートルほどの階段を上っていった。エイミーの下には武装した女兵士が散らばる。


「何をするんだ?」

「エイミーを救い出しなさい」


 僕は、婆人魚から剣と盾を渡された。


「あんた、誰?」

「エイミーの母のリサ。人魚の国の女王。エイミーはこの国の第2王女なのよ。さあ、救いなさい。本気を出さないと、あなたが死ぬわよ」


 途端に乱戦が始まった。とはいえ、戦士達は女性だ! 女性を切る気にはなれない。僕は剣道をやっていた。僕は女戦士達を峰打ちで倒してエイミーを救った。


「大輔、あなたは女性を傷つけない人なんですね。自分は傷だらけなのに」

「これで、試練は終わりかな?」

「もう1つじゃ。エイミーこれを飲め」


 リサから渡された小瓶の液体を、エイミーは飲み干した。と思ったら、エイミーは倒れた。


「エイミー!」

「その崖の上に生えている薬草の汁を飲ませないと、エイミーが死ぬよ」

「畜生、なんなんだよ」


 僕は断崖絶壁をよじ上った。ちなみに、この人魚の国は陸地が半分、海が半分。不思議な所だった。崖は陸地の方にある。僕はよじ登った。10メートルくらい上らなければならない。何度も足を滑らせながら、ようやく薬草を掴んだ。と思ったら、僕は落ちた。仰向けに落ちた。衝撃で全身が痛い。


「婆さん、ほら、薬草だ。エイミーを助けてくれ」

「よくやった。大輔をエイミーの夫と認めよう。じゃが、何故、エイミーなのじゃ? エイミーは満月の日、月に1回しか人間になれないのじゃぞ」

「好きでもない女性と365日一緒にいるより、好きな女性と月に1回会う方がいいに決まってるだろ」



「大輔は気を失っている。今の内に惚れ薬を飲ませろ! 死ぬまでエイミーの虜になるぞ。そしてお前も飲めば、死ぬまで相思相愛なのじゃ」

「私は飲みませんし、飲ませません。薬など使わなくても、愛を見失ったりしません。私と大輔なら大丈夫です。薬に頼らない永遠の愛を誓えます」

「そうか、まあ、人魚の寿命は数百年。その内の数十年くらい、人間の男と暮らしても良いじゃろう」



 その日、風変わりなカップルが誕生したが、騒々しい都会の中、そのことに気付く者はいなかった。だが、数十年後、死ぬまで愛し合った、無償の愛と永遠の愛を貫いたカップルがいたという噂が流れた。その話を聞いたカップルは、自分達も永遠の愛を貫きたいと、願い、祈るのだった。







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僕の彼女はマーメイド! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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