第一三話 シナリオを壊した結果が、コレだ
ルドミラはまず、皇帝ゴームの暗殺に成功したことを報告してきた。
この結果として、ゴームの弟であるセヴリスが皇位を継承。
引いては新政権における最初の仕事として、アルデミアの里との和平交渉を任されたと、ルドミラはそのように締めくくった。
さて。
俺からしてみれば、疑うようなところのない言葉、だったわけだが。
里の主要メンバーは少しばかりの警戒心を見せていた。
まぁ、無理もない話だ。
相手方の言葉はこちらにとって、あまりにも都合が良すぎるしな。
一応、このような展開になる可能性があるということは事前に伝えておいたのだけど、それでも皆、半信半疑という状態だった。
とはいえ。
遙々やって来た使者へ、「疑わしいから帰れ」などと言えるわけもない。
よってこちらも使者を返すことになった。
選ばれたのは里長であるシャーロット、護衛として同行するイリア、そして俺だ。
当初、俺が帝都へ向かうことを主要メンバー達は反対した。
もし万が一、この身に何かがあったなら、里はそれこそ壊滅の危機となる。
シャーロットとイリアについては最悪、代わりとなる者が居る一方で、俺にはそんな存在、この世のどこにも居ない。
……正直、そこまで高く買ってもらえていることに、喜びを覚えた。
けれども。
これは傲慢な考え、かもしれないのだが……
相手方は、俺の知識を欲しているんじゃないかと思う。
となれば俺が帝都へ向かい、相手方にとって生かしておくに足るメリットを提示した方が、話は良い形で纏まるのではないか。
そういうわけで。
俺も二人に同行して、今、帝都の内部を歩いている。
「どうですか、カズマ殿。我が帝都の街並は」
案内人であるルドミラの問いに、俺はよく言葉を選んで、受け答えた。
「とても活気に満ちていて……えもいわれぬ力強さを感じますね」
ウソは言ってない。
事実、帝都は膨大な人々で溢れかえり、潮騒のような声で満ちている。
それはアルデミアの里にはないものだ。
しかし。
「ふふ。遠慮は必要ありませんよ。どうか、忌憚なき意見をお願いいたします」
こう言われたなら、少しばかりは本音を出す必要がある。
無論、先ほどと同様、言葉は慎重に選びつつ、
「そうですね…………今回のお話が上手くいったなら、帝都の方々は今よりもさらに豊かな生活が出来るのではないかと、そのように愚考しております」
「……えぇ。私もそのように願っておりますよ」
実際問題。
帝都の文明レベルはアルデミアのそれとまったく変わらないように見えた。
やはり学問が発展していないせいか、建造物の形にしても、人々の装いにしても、古代レベルの域を出ない。
アルデミアと比較して優れている部分があるとしたなら、圧倒的な物量ぐらいなものだろうか。
……だからこそ、惜しい。
きっとこの中には、俺なんか目じゃないぐらいの頭脳を持つ天才達が、たくさん居るだろうに。
彼等がこちらの知識を得たなら、帝都は勝手に発展していくだろう。
……まぁ、やり過ぎると「用済み」とされ、後ろから刺されかねないので、ほどほどにするつもりだけど。
さておき。
我々は帝都の中央へと赴き、宮殿へと入った。
木造式の広々とした内観。
とはいえ、やはりただ広いというだけで特別な工夫はない。
我々はそんな宮殿内を進み……会議室へと通された。
円卓には既に帝国を治める主要メンバーが就いていて、皆一斉にこちらへと視線を送ってくる。
「……どうも、初めまして。アルデミアの里に籍を置いております。杉田和馬と申します」
まずは自己紹介。
それから。
「余が新皇帝、セヴリス・アルヴァトーレ・ガルデノンである。……と、まぁ、偉ぶるのは苦手なので、ここは崩した態度を取らせていただきますね」
彼の印象を一言で表すなら、超有能そうな美少年といったところか。
ゴームは無能の豚って感じの見た目だったのだが、こっちはもう見事なまでに真逆である。
実際、原作主人公のゼロスもセヴリスを見た瞬間、「こいつとなら上手くやっていけるだろう」と確信を抱いてたんだよな。
そんな彼の隣にはルドミラが立ち、
「改めて、自己紹介を。宰相を務めております、ルドミラ・フォルン・ド・シュバインと申します」
ここは原作と違うな。
まぁ、ゼロスという恋人が居なければ、彼女はそっちの道に進んでいたということだろう。
「では、アルデミアの皆様方。まずは我等一同、此度の戦役に対するお詫びをいたしたく存じます」
ここからの会話は完全なる予定調和。
アルデミアへの侵略は先代皇帝ゴームによる暴挙であり、自分達にはそのような意図など微塵もなかったと釈明。
……もしも犠牲者が出ていたなら、かなり紛糾していたかもしれないが、幸運にも里の人間の中で命を落とした者は居なかったため、特に問題もなく話が進行していく。
「先ほども述べました通り、此度の一戦は先代皇帝が暴走した結果であり、もはや我々に戦を続行する意図はございません。ゆえに――」
ルドミラは提案する。
ここで手打ちとし、同盟を結び直そう、と。
それも以前までの内容ではない。
かつてアルデミアの里は採掘した魔石の大半を献上することで、独立を認められてきた。
即ち、実質的な属領扱いだったというわけだ。
しかし今回の同盟は、完全な対等関係。
これにはシャーロットも驚いた様子で、
「……ずいぶんと、譲歩なさいましたわね」
「こちらの誠意と受け取ってくだされば、幸いです」
これにイリアは誰にも聞かれない程度の声で呟いた。
「あなたを恐れているのでしょうね、カズマ」
まぁ、十中八九、そういうことになるんだろうな。
ともあれ。
話はトントン拍子で進んでいき、なんの問題もないまま、全てが完了。
あとはもう里へ帰還するのみ、ということになったわけだが。
……なぜだろう。
やりきったという達成感が、どうにも湧いてこない。
「どうしたのです、カズマ?」
「あぁ、いや……」
答えに窮していると、ルドミラが会話に入り込んできて、
「我が国は貴方の存在を必要としております。どうか何卒、お力添えをお願いいたしますわ、カズマ殿」
魅惑的な微笑み、だが……俺は知ってるんだよな、この表情が仮面だということを。
本当のルドミラはとんでもないジャジャ馬娘だ。それこそゼロスが手を焼くほどの。
まぁ、そんな一面を見せるような関係ではないので、この接し方が正解なのだけど。
……しかし、そうだな。
俺がどうにも、スッキリとしない理由は。
「宰相様。少々、不躾な質問となるのですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ。どうか、ご遠慮などなさいませぬよう」
「ありがとうごいます。では――」
問い尋ねる。
心の中に広がるモヤの正体を。
ハッキリと、言語へ変えて。
「――――ゴームの死体は、しっかりと検めたのですか?」
~~~~あとがき&お願い~~~~
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完全に詰んだ状態のゲーム世界で、凡庸かつ最弱な俺が無双し、ハーレムを築く方法。それは……趣味で蓄えた『理数系知識』でした。 下等妙人 @katou555
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