第二話 新たな出会いとやはり可愛い(?)
「おねーさま! ぼくといっしょに森へ行きませんか!?」
今日もエリアスは可愛い。
「仕方ないな…浅い所までだからね。…その前に、お母様に許可を取らなきゃ。」
最近、どうも私のブラコン味が増してきている気がするけど、果たしてどうなのか。
そう言えば、エリアスは頭がいいみたいだなぁなんて思いながら、屋敷の中を歩く。
10歳の歩幅では歩くのもだいぶ遅くなっている。それに、やはり10歳だからか口調も少し幼くなってきている気がする。
頭では正しい文法や言葉遣いをわかっていても、いざ口に出そうとすると、思い通りにいかなかったりする。
コンコンコン、と扉をノック。
「テレジアです。お母様。開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ。いいわよ。」
「はい。失礼します。…お母様、お話があって参りました。」
「あら。かしこまってどうしたの?」
「はい。…その、私とエリアスを森に行かせてください!」
「別にいいわよ? ああ、でも、ハンナは連れて行きなさいね。それと、深い所には行かないこと。それが守れるなら、いってらっしゃい。」
「分かりました。ありがとうございます、お母様。エリアスにもしっかりと伝えておきます。」
我ながら、10歳の少女がこうも礼儀正しくしていると言うのは異様な光景だろう。
「ええ。そうしてちょうだい。それと、頑張ってね。」
「はい。お母様。失礼しました。」
と言い、扉を閉める。
部屋の外では、すでにハンナがエリアスを連れて立っていた。
ハンナは私の方をチラッと見ると、
「では、行きましょうか。」
と言い、私たちを連れて森へと向かった。
* * * * * * *
私たちが向かっている場所はシュターク森林と呼ばれ、私たちがいるハインツ帝国の南端に位置する。
アウグステンブルグ家は、その少し北側にある。
「おねーさま、あれはなんですか?」
エリアスが目をキラキラとさせながら色々なことを知りたがっている様は、やはりかわいい。
「あれは福寿草。花言葉は『永久の幸福』。少し摘んで帰ろうか。」
「へー! そうなんですね! へへ、また知識が深まりました!」
色とりどりの花々と相まって、エリアスがより可愛く見える。いや、元から可愛いけど。可愛いけど。
というか、最近…いや、生まれてこの方、人と関わっていないが、私は大丈夫だろうか。
10歳ともなると、皆が婚約する相手を決めたり、将来の夢を持ったりするものだが、私はこれといった夢を持っていない。恋愛など論外だ。
『何処かに都合のいい男でもいないものか…』
なんてクズな考えを振り払おうとするが、どうしてもその必要性が見出せない。
私はエリアスと出会うまで、人を愛したことがなかった。
そもそも、『愛情』と言うものが分からなかったから。
どんなものが愛なのか。
優しくすれば愛なのか。
『好き』と言う気持ちが愛なのか。
じゃあ私はアサリの酒蒸しを愛しているのか。
考えてみると、どれも違う気がした。
人が言うには、愛には種類があるらしい。
家族愛や兄弟愛。与える愛に許す愛。そのどれもが、かつての私には分からなかった。
しかし、いざ『弟』を愛してみると、なかなかどうして、言葉として形容し難いものだった。
それと同時に、頭の中を一抹の不安がよぎる。
——私が感じる
ただ自分の知識欲を満たし、幸福だと思っているだけではないのか。
愛により自分の欲を満たしているのなら、それは愛と言えるのか。
……また、課題が増えてしまった。
課題といえばだ。
今年の4月から帝都の学園に入学する事になった。
エリアスとは離れてしまうが、色々と学べることもあるだろうし、3年すればエリアスも入学する。
まあ、大丈夫だろうと考えていた。
それが、大きく裏切られる事になるとは知らずに。
その後も、色々な花を集めたりして家に帰った。
花は私の部屋に飾っている。
エリアスは生花の才能もあるかもしれない。
* * * * * * *
この人生でやりたい事が多すぎるため、私はいくつかルールを定めた。
・私の秘密がバレてはいけない。
・せっかく貴族のもとに生まれたのだから、権力は惜しみなく使うが、表立って行使してはならない。
・拷問、人体実験は18歳から。
・学園では常に成績一位を維持し続け、『神童』と呼ばれるようになる。
・魔法の練習は1人でやること。また、大規模なものは使用しない。
・以上の事に、弟には関与させない。
・婚約者はかわいい人。
・弟には常に優しくし、傷つけるものは殺す。
とりあえずはこんなところだ。
しばらくは『死』への研究はお預けだが、入学後1ヶ月ほどで武闘祭が開催される為、そこでは出来るだろう。
テーマは『死が目前に迫っている者の反応と状態』とかだろうか。
そんな事を考えながら、新たな環境を楽しみにしていた。
していたのだが…
どうしてこうなった。
入学式の新一年生代表挨拶で喋る事になった。
全校生徒の前で、だ。
元々コミュ力など無いし、10歳の体では滑舌もあまり良くない。
不安しかないが、決まってしまったことは仕方がない。
なんとかやり遂げられるといいが。
そんな訳で迎えた一年生挨拶。
一礼をし、壇上に立つ。
そしてまた一礼。
「ご来賓の皆さま、先生方、先輩方、おはようございます。この度新一年生代表に選ばれました、テレジア・アウグステンブルグです。私はこの学園でやりたい事が沢山あります。それはきっと、他の一年生たちも同じだと思います。
しかし、生きられる時間には限りがあるうえに、学園で過ごせる時間はさらに短いです。
ですから、この学園では有意義な時間を過ごして行きたいと思っていますし、そうであるべきだと思っています。なので、私達一年生は先輩方の背中を見て、また、先輩方と接することで人生の大切な一部を有意義に過ごせると信じています。
どうか、ご指導よろしくお願いいたします。」
何とか噛まずに言えた…
深く礼をすると、拍手に包まれる。
悪くないなと思いながら壇上を下り、席へと戻る。
すると、隣にいる子…なんだったか。恐らくヴュルテンベルク家のご令嬢が凄い形相でこちらを睨みつける。
恐らく嫉妬でもしているのだろう。
一瞬目をやり、またすぐ逸らす。
それが余計気に障ったのか知らないが、体が纏う怒気がもっと凄くなったように思える。
ヴュンテンベルク侯爵家はそこそこ高い経済力を持っているため、自分から喧嘩を売りに行くのはあまりよくない。
しかし、アウグステンブルグ公爵家は皇帝より『執行権』を授かった三大公家のうちのひとつであるため、それに手を出すご令嬢はおそらく馬鹿なのだろう。
※執行権とはそれを持つ者の独断で刑を執行する事が出来る権利であるため、お父様が「お前死刑な」と言えば、その場で首を刎ねられるのだ。
また、
そんなこんなで入学式も終わり、クラスでは皆がいち早くグループを作り始める。その中心となるのは…私とあのご令嬢だった。
貼り付けスマイルでとりあえず乗り切り、学園生活の説明を受けた後、寮へ案内された。
寮は非常に大きく、一年生はどうやら同性で4人一部屋らしい。
部屋に入ると既に他2人がいて………裸で、抱き…あっ、て……?
「へぇ? 入学早々お熱いねえ。」
気づけば口を開いていた。
思えば、この瞬間に私の中の嗜虐心が芽生えたのかも知れない。
「e。」
「あっ! いや、これはその…!」
固まる子としどろもどろになっている子。可愛いなと思いながらも問い詰める。
この世界、恋愛観については私が生きていた頃の地球よりも進んでいるらしい。そのため、同性婚を認める家も増えてきてはいるが、それでもやはり反対派はいるものだ。
「はぁ、君たちさあ…私は別に気にしないけど、親は了承してるの?」
「えっと、その…まだ、許されてなくて……」
「ていうか、ダメって言われた。」
「ふーん。どうやって断られたの?」
「時代がどうこうって…」
「まあ頑張ってよ。応援してるからさ。」
そう言えば、口調に関して何も言っていなかったね。
学園に入学するにあたって、かわいい婚約者を見つけたい。って事で、若干男っぽくしてみたってだけ。
「まあ、これから一年よろしくね。」
うん。今見たことは水に流そう。
「ん。よろしくね」
「よろしくー!」
「そう言えば、もう1人来てないね。何してるんだろ。
…とりあえずは服着よっか。」
「エミリーなら、また迷ってるんでしょ。」
「ありえる」
服を着ながらそう受け答えする彼女らは、どうやら『エミリー・ドーナ子爵令嬢』と知り合いなようだ。
ん?何故名前を知っているかって?
ベッドに書いてあるんだよ。後、机にも。
恐らく大人しめの…「e。」と言って固まっていた方が『ラウラ・ブルノン子爵令嬢』。
もう1人のしどろもどろちゃんが『ノア・ビルマスク伯爵令嬢』だろう。
2人とは数分話すうちに打ち解けて行き、名前で呼び合うくらいの仲にまでなっていた。
すると、ガチャリと扉が開き、恐らくエミリー・ドーナ子爵令嬢と思われる子が入ってきて…
「ごめんね〜! 遅くなって…っ……」
倒れた。
「えぇ!? ちょっとエミリー! 大丈夫!?」
必死に起こすリアと、少し離れてみている私とラウラ。
「ん……あぁ、夢じゃなかった…あたし、ここで死ぬんだ…」
彼女の身に何があったのだろうと思い、落ちつかせ話すのを促す。
「ふう。リアとラウラ、まずあなた達はこの方が誰かわかる?」
「ああ、そう言えば………e。」
また固まってしまった…
一体全体何を見たのか。
「ちょっとラウラ! 何をおどろいてん…の……」
リアまで固まり、
そして。
「「「すみませんでした!」」」
何故か3人に土下座されていた。
「テレジア・アウグステンブルグ様と知らず、ご無礼を働いた事、どうか!どうかお許しください!」
「えぇ…そう言われても困るんだけど…」
後から思えば、言い方が悪かった。
処刑されるとでも思ったのか、かなりの気迫で迫ってくる。
『死が目前に迫っている者の反応と状態』
確かにそうかもしれないが、何か違うがする。
『死』に魅せられた者の異世界記録 〜死後と輪廻について〜 @numeronias
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