『死』に魅せられた者の異世界記録 〜死後と輪廻について〜
@numeronias
第一話 真理と可愛さ。
私は、幼い頃から全てを1人で終わらせた。
誰にも助けを求めず。
誰にも関わらず。
誰かに手を差し伸べられても、それを突き飛ばして。
気づけば私は、『そうあること』こそが私の生き方であると思い始めていた。
私は、ふと疑問に思った。
死んだら、どうなるのか。
何も無くなるのか。
天国へ行くのか。
はたまた地獄へ堕ちるのか。
それとも輪廻転生を繰り返すのか。
いつも考えているような、そんなどうでも良い疑問のはずだった。
それでも、そんな思考を否定するかのように私は、それに対して強い興味を持ち始めた。
最終的な結論は、『確かめれば良い』だった。
そう。死なない限りわからないのだ。
ならば、死んで確かめれば良い。
元々私は、この世に執着など無かった。
夢や希望など無かった。絶望も同じくだ。
どこかで夢に憧れていたのかもしれない。
だから。どうしても心から抱くことのできなかった『夢』を、『今』をこうして感じていられるだけで私は満足だ。
死ぬ前に思うことはただひとつ。
この胸に抱く、恋焦がれていた『死』への渇望と執着を、忘れないこと。
ただ、それだけを願って。
私は、死んだ。
私の心が綺麗だったのか、私の想いが届いたのかは知らないが………
私は死後を知った。
知ることができた。
ついに。願いが叶ったのだ。
「あぁ、初恋を叶えるとこんなにも嬉しいのか」などと馬鹿げたことを思いながら、私は辺りを見渡す。
「ーーーーー!」
「ーーーーーー!?」
辺りが騒がしい。
若い女性の声と、低く重い男の声。
恐らく父親であろう男は、非常に美しかった。
純白に包まれている母は非常に可愛らしく、まさに『愛くるしい』という言葉が似合うような、それでいて大人の女性としての魅力を兼ね備えている…
あまり人と関わることのない私が、ここまで人に対して感想を抱くということはなかなか無い。自分でも驚いたほどだ。
上記のことからわかるように、私は転生した。記憶を持ってだ。
母親と父親を交互に見る。
両方とも金髪碧眼だ。
恐らくヨーロッパ辺りに転生したのだろうと思っていたが、よくよく考えれば違うことに気づく。理由は以下の三つだ。
1.部屋が豪華すぎること。
2.使用人らしき人が5、6人ほどいること。
それも一部屋に。
これだけなら、まぁまだ分からないが、三つ目で疑問は確信となった。
3.言語が、分からない。
私は、ドイツやイギリスなどのヨーロッパ文化に興味を持ち、旅行に行くためにひと通り学んだ。
しかし、私が今聞いている言語は、アルファベットの発音すらしていない。気がする。
考えられる可能性は二つ。
異世界にでも転生したか、時代が進んだか。
正直、前者だと思っている。
私は神というものに抵抗がなかった。
世の中の『唯物論者』と呼ばれている人々は「神がいる証拠を見せろ」と言っているが、それこそ「神がいない証拠を見せろ」と言ってやりたい。
「この世の戦争が」どうこう言われても、正論で返せる自信はある。
何故こうも見えないものを信じないのか。
いるかいないか分からないのだったら、居る前提で生き、善行を積んだ方が楽だろうに。
おっと、話を戻そうか。
結局何が言いたいかというと、私は『神』と呼ばれる存在を信仰してはいないが、興味はある。どんな宗教がどんな教えを説いているのかなど、疑問は尽きない。
ここまで言っておいてなんだが、私は神を信じているわけでは無い。
確かめようとしているのだ。
私は証拠を見ないと信じられない人間だ。
イエスが説いたように、神を疑わないなんてことはできない。
極論、中学2年生が「私は神だ」と言ったとしよう。あなた達は、それを信じるか?
恐らく…いや、絶対に信じない。
しかし、その学生は神ではなかったとしても、それに近い視点を持った人間かもしれない。ならば、それを確かめよう。
これが私の思考だ。
見向きもせずに否定するよりも、見て、聞いて、知って、感じて。その後に結論を出す。
そうした方が学びになるし、そうあるべきだと思っている。
…そろそろ話を戻そう。
私の悪い癖でね。すぐに話が逸れてしまう。
それで、異世界に転生したのだとしたら、真っ先に試したいことがある。
『魔法』だ。
魔法は、新たな死を見ることが出来る最高のツールであるかもしれない。
故に、私は魔法を学ぶことにした。
* * * * * * *
私が新たな生を受けて10年が経ち、変わったことといえば、弟が2人生まれたことと、この世界の言語を全て理解したことくらい。
あとは…
10歳になった私は、魔法を学びつつ、新たな事に興味を持ち始めた。
『人の感情』
今まで人と関わってこなかった私は、他人がどのような感情を抱いているのか興味を持った。
それは例えば、親が私たちに向ける期待と愛情や、弟が私に向ける感情。
それがどんなものか。
どんな感じなのか。
私は気になって仕方がなかった。
そんなことを考えていると、ふと扉越しに声をかけられる。
「テレジア様、夕食の時間です。」
私付きのメイド、ハンナ。
そして。
テレジア・アウグステンブルグ。
これが、今世の私の名前。
「分かった。今行くね。」
10歳の私は、非常に落ち着いた子供だった。他の10歳と比べてしまうと、どうしてもその子が劣っているように見えてしまう。
ああ、それと。
自分で言うのもなんだが、私はかなり可愛い。
親の血を受け継いだ金髪碧眼に、まだ幼く可愛らしい声。
恐らく世界で一番可愛い。
『世界で一番』で思い出したんだけど、この家の料理は本当に美味しい。
父親は仕事があるらしく、遅くまで帰ってこない。母親も生まれたばかりの弟(2人目)の世話で大変だろうと言うことで、私が弟(1人目)の世話を買って出た。
これは、2つの検証を兼ねている。
ひとつ目。育児を完璧にこなし、また、勉学、武術、魔法も共に完璧にやり遂げ、『神童』と呼ばれた時、親はどのような反応を示し、態度をするのか。そして、弟との対応の違いを検証する。
ふたつ目。親に世話をされた記憶がない場合、親よりも姉を大切にするのか。また、自分よりも優れ、親からの叱責から守ってくれた姉に対して、どのような反応と対応をするのか。
この2点だ。
そんな訳で…私は今、弟と一緒にご飯を食べている。
「おねーさま! おりょうり、おいしいですね!」
何故だろう。7歳の弟、エリアスの笑顔を見ていると、自然と頬が緩んでしまう。
「そうだね。」
私は、人生で1番の笑みでそれに応えていた。自然と声も嬉しそうになる。まるで他人事のようだが、弟の可愛さに私の自我が消えかけているのかもしれない。
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