E3.「都市の掃除屋」Remember
「それでは、インタビューを始めます。」
人を食うというのは、本来は禁忌である。人に限定せずとも、あらゆる生物種において共食いと言うのは忌み嫌われて来ている。
ただ、そんな常識と言う物は、意味を失って来ているのが現実である。
その昔、バルヴェルツ一族と言う人喰いが、恐れられていた時代があった。人の肉こそ、上から賜りし褒美であると錯覚し、一族同士で子を成していったという。通行人や放浪者を拉致しては、都合のいい様に解体され、死骸は入念に砕いてから投棄する。
現代では技術発達の影響で、その様な手法での死体隠匿は通用しなくなっているが、当時はその様な技術が無かった上に、身元不明な人が被害者の大半を占めていた為、特定は困難を極めた。
しかし、某国にて兵士長を務める者が被害にあった事で、本格的な捜索が行われる様になった。関わりがあった人達に聞き込みをし、犯罪者として牢に入れられた者の力も使う。そうして一族の住処を見つけたが、それは想像を絶する物であった。
縄で吊し上げられた死体。殺人の道具として加工された骨、辺りに飛び散った血、人の形をしていない骸も多数あった。だが、その骸の中には、赤ん坊らしき姿もあり、しかもまだ動いていたという。
この凄惨な光景を目にした兵士の4割が、後に休職、退職する事になった。
幸い、奴等は大規模な遠征に向かっているらしく、そこに罠を貼る事で一族の確保に成功そのまま全員処刑する運びとなった。気がかりなのは、尋問の際に吐いた一族の数と、その時確保した一族の数が一致しなかった事である。
遠征中に死んだか、或いは逃げたかは不明だが、何れにせよ、これ以上の追跡は困難であるとして、この事件は幕を閉じた。
突然変異と言うのは、長い年月をかけて起きる物である。そもそもそれが適応できなければ自滅していくだけであったが、その中でも、人の体を成さない進化をしてしまったのが私なのだろう。 バルヴェルツ一族には、生き残りが何人かいた。遠い地にて、普通の生活を送ろうと試みていたのだ。そうして人喰いの血は段々と薄れていき、最早人と同じになったと思われたが、そうは行かないのが、運命という物なのだろう。
ごく普通の人生を送っていたと思っていたら、突然不幸が襲いかかる。親が強盗に殺されたと言うのが私だ。それだけなら、悲しいで済ませる事も出来るが、その遺体を見た私は、何を思ったかそれを貪りだした。
本来人が人を食う場合、人体には多大なリスクが降りかかる。死も現実的であるが、幸いな事に、私には何も影響が無かった。と言うより、影響が無いようにになってしまった。
突然変異だ。
そこから私は人を食う事でしか生きられなくなってしまった。年月を経る事に体は流動的になっていき、人の体を成す事も出来なくなっていった。何処からか見つけた防護服を身にまとい、それを隠そうとしたが、本質的には何も変わっていないと言うのは自明であった。
どれだけ人を殺して来たのだろうか。最早自身が誰なのかもわからない、何処にいるのかもわからなくなって来た頃に、時が来た。異能と呼ばれる力を持った者が閉じ込められるとされる地に、私は招待されたのだ。だが、それでいいのだ。
調べた限り、バルヴェルツ一族の血は私以外既に途絶えてると思われる。この呪いは私自らが封じ込めなければならない。
死体掃除を生業として生きていく事にした私の選択が正しいかはわからない。だが、それらしく生きられなければ、今も無く、意味もない。
私は何処にもいない。「NO WHERE」
私は今、此処にいる。「NOW HERE」
「シン・異能DA人工島」B.Side Edition Altanate @IPJ
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