第7話

 俺が雄介に転生してから1週間が経った。相変わらず学校ではなつみと京子を避けて過ごしていた。葵とは朝の登校は一緒に、愛子が家を空けているときはご飯をごちそうになったりもした。休日は家でゆっくり過ごした。日曜日は葵と一緒に買い物に行って、ご飯を食べた。


 問題もなく日々を過ごした俺は寝る前にウィンドウを見る。


――――――――――

7日目


葵  :好感度 +4

京子 :好感度 -99

なつみ:好感度 -10


――――――――――


 想像していた通りの数値になっていた。関係を断った2人の好感度は下がり友好的な関係を続けている葵は上がっている。しかし京子の-99は少し怖い。振り切れた数値に俺は嫌な予感がした。



 休日明けの月曜日の朝、二度寝が出来ないことを恨めしく思う。寝ぼけた頭を掻きながらベットから起き上がり準備をする。

 あくびをしながら家を出て葵と共に学校に向かう。


 校門には朝の挨拶をする生徒が見受けられた。その中に京子の姿は、なかった。


 休みかな? 少し気になったがいない人のことを考えてもしょうがないと頭を振る。平和な生活に一歩ずつ近づいているんだ。このままの生活を続けていこう。


「中村、ちょっといいか?」


「はい、なんですか?」


 帰りのホームルームが終わって帰ろうとしていた俺に担任の教師が声を掛けてきた。呼び出される理由に心当たりがないので素直に疑問だった。


「理由はちょっとここじゃ言えないからとりあえず来てくれ」


「はぁ……」


 歯切れの悪い担任の返答に俺は渋々従った。案内されたのは来賓の人が使う部屋だ。誰かと会うのか?


「入ってくれ」


 俺は担任に促されるまま部屋へと入った。

 中には40代くらいの女性と男性がソファに座っていてその対面に白髪の小太りのおじさんがいた。


「中村君、座って」


 白髪の男の指示に俺は従う。

 どこか殺伐とした空気が肌を刺すように感じられる。


 俺がソファに座ると、対面にいた男女が俺を睨みつける。え、怖いんですけど、俺何かしましたか?


「あの、なんで俺ここに呼ばれたんですか?」


 バン!


 俺の問いかけに対してテーブルと叩きつけるという行為で目の前の女性が返答してきた。


「なんでですって!? あ、あなたがうちの娘を、痛めつけて、嬲って、挙句の果てにゴミのように捨てたからでしょう!? どんな神経していればそんな能天気な顔でいられるのよ! 京子は、あなたのせいで自殺したのよ!?」


 いきなり意味不明なことを顔に唾が飛ぶくらいの声で叫ばれた。未だに女性の抗議の声は止まらない。

 俺はゆっくりとその言葉を脳に聞き入れ理解していく。


 京子が死んだ……?

 どうやらこの女性は京子の母親で、今朝部屋で冷たくなっている京子を発見したらしい。そして机の上には遺書のようなものがありその中に俺によってどれだけ傷つけられたかということが書かれていたらしい。体の傷も相まって俺によって壮絶ないじめがあったのではないかと訴えに来たようだった。


 学校側もいじめの事実は把握しておらずその対応のために俺を呼び出したようだ。世間体もあるしいじめ問題って特に厳しい目で見られるからな。


 しかし身に覚えがない、というか最近はずっと関わっていなかったしいじめが出来るわけがない。ちょっと前まではそういう関係だったかもしれないが本人も望んでいただろうしいじめではないだろ。

 もしかして無視をしたのがいけなかったのか? それがいじめと感じたのか?

 すでに京子はいないので答えを見つけることは出来ない。困ったものだと俺は頭を悩ます。


「っ、あああああああああああああ」


 女性が雄たけびを上げて俺に飛びかかってきた。それを制止するように担任と白髪のおっさんが止める。


「おまえがぁ! おまえさえいなければあああああ」


 狂乱した女性を大人二人が必死に抑えている。俺はあまりの剣幕に腰を抜かしていた。すると今まで黙っていた京子の父親と思われる男性がゆっくりとこちらに近づいてきた。


「君が、中村雄介君だね」


「は、はい」


 男の顔は生気が一切感じられなかった。恐怖を感じた俺はその場から後ずさりしたが、間合いを離さないように男が近づいてくる。


 男がおもむろに鞄に手を入れる。その中から鉛色をした光るものが見えた。

 包丁だ。


「君が、君が君が君が! 君がいなければ京子は今日も生きていたんだ! 君がいなくなれば京子も帰ってくるんだ! だから死んでくれ」


 男が取り出した包丁を俺に向かって振り降ろす。

 腰の抜けた俺は対した抵抗も出来ず、その凶刃が腹部へと突き刺さる。


「あぁああああああ!!」


 熱い熱い、痛い!

 なんなんだこれは、なんなんだよぉ!

 ちくしょう、痛い!


「がはっ」


 包丁が何度も何度も俺に突き刺さる。

 出血のショックからか痛みからか、俺には抵抗する力もなくなっていた。ようやくその攻撃が終わったのを目の端で見届けた。


 死ぬのか……

 訳わかんない世界に来て、訳わかんないまま終わりか。こんなBADENDなんてありかよ。正解はなんだったんだ……?

 ちゃんと向き合えばよかったのか?

 今度があれば、次こそはうまくやる……


 やるのに……なぁ……




















「雄介ー、遅刻するわよー」


 聞きなれた声が聞こえる。俺は身を起こす。


「腹が! あれ、痛くない。というかここは……自宅?」


 つい先刻俺は命を落としたはず。あの痛みが夢だなんて思えない。

 しかし今俺はここで息をしている。


 ジリリリリリ


 スマホのアラームが鳴った。それを止めようとスマホの画面を見る。

 画面には6月19日と表示されていた。

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普通のエロゲーの世界に転生したと思ったのに 蜂谷 @derutas

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