第6話

 失意の俺は自宅へと帰った。愛子はまだ帰っておらず家の中は真っ暗だ。

 俺が玄関から家に入ると知らない女の子と目が合った。


「……」


 お互い無言で見つめあうと、女の子はこちらを無視して階段を登って行った。

 泥棒? ではないな。部屋着だったし。


 というかこれ以上俺に女を寄らせないでくれ。壊れちゃうよ?


 問題なさそうだからいいか、今日はもう疲れた。


「ふっー」


 制服を脱いで自室でため息を吐く。

 情報を整理しよう。雄介は高校に通うごく普通の学生では……ない。異常性癖を持った色狂いだ。今のところ関係があるのは3人、限度を超えた被虐趣味な京子、加減を知らない加虐趣味のなつみ、とても可愛い男の娘の葵。


 ……前者の二人には関わらなければいいだろう。京子は学年が違うからいいとしてなつみはちょっと怖いなぁ、うん逃げよう。さすがに人目があるとこではしなさそうだし放課後は下校する生徒に紛れてすぐ帰る。


 葵は、幼馴染として何の問題もないし今まで通りでいいか。よし、濃い1日だったがまだ初日だ。何もわかっていなかったのだからしょうがない、ここからだ。


「寝るか」


 俺はベットに横になって天井を見つめる。

 すると目の前にゲームのウィンドウのようなものが現れた。


 なんだこれは?


「好感度……?」


――――――――――

初日


葵  :好感度 -1

京子 :好感度 -1

なつみ:好感度 -1


――――――――――


「全部-1だ」


 これが何を意味するのか現時点では分からないが、今日の行動によってこれが決定しているのだとすれば少し納得する。俺は今日3人との関係をすべて拒否したからな。しかしこのゲームみたいなもの、もしかしてこれがゲーム転生とかいうやつか?


「内容としてはエロゲーだろこれ、ギャルゲーにしては内容が過激すぎる」


 ただそれなら納得する。常識的には考えられない状況もエロゲというならあり得なくない。複数人と関係を持つのは普通のことだ。問題はこの世界がどういったものかということだ。


 好感度しかパラメーターがなくセーブやロードはない。やり直しが出来ないのなら致命的なミスを犯すと取り返しのつかないことになりそうだ。

 まぁかといってどうしろって話だが。


 こういうのは誰かを攻略するんじゃなくて友情エンドを目指せばいいだろう。葵と仲良くなってでも体の関係にはならないでおく、それでいい。

 どうやらすでに雄介は全員と体の関係を持っているようだが俺はそんなつもりはないし今後もない。


「しかしエロゲーか、青春やり直しかと思ったんだけどなぁ」


 俺は目の前に浮かぶウィンドウを右手で払う。俺がそう思ったからか右手の動作のおかげかウィンドウは消え去った。そのまま俺は眠りについた。




 朝、カーテンの隙間から朝陽が差し込む。アラームがなる前に目が覚めた俺はスマホを見る。今日の日付は6月20日火曜日、2日目のスタートといったところだ。


「よしっ、いくか」


 俺は昨日のことを思い出し今後の予定を定める。名付けて「避けて避けて避けまくる」だ。安直なネーミングだがこれが一番いいと思う。葵とだけ仲良くして2人にはそっとフェードアウトしていってもらおう。


 俺が身支度を整え部屋を出ると左にある扉がすっと閉じた。多分の昨日会った女の子がいるのだろう、妹かもしれないがこちらに接触しようとしてこないのでとりあえずは放置しておく。メニュー画面にも3人以外の情報はなかったしな。これ以上増やしたくない。


 今日も今日とておいしい朝食を平らげ、家に来た葵と共に学校に向かう。昨日のことを引きずっていないか心配だったがそんなことはなさそうに普通に会話をして登校した。葵との関係は良好にいけそうだ。


「葵、悪いんだけどもうああいうのはやめにしないか?」


「えっ……急にどうしたの。私のこと嫌いになったの?」


 悲しそうな顔をした葵が返事をした。上目遣いで言われると非常に可愛らしい。


 だが男だ。


 俺は心を鬼にする。


「あぁ、ああいうのは俺たちがするのはおかしいよ。これからも一緒にいたいしさ。だったら普通の関係でいたい」


「でも、雄介から始めたのに……」


 そうなの!? それは素直にごめん。


「だ、だから俺もこのままじゃまずいなって思ってさ、変なことに誘って悪かったよ。だからもう今後はナシで」


「……うん、分かった……」


 若干不服そうな葵の言葉を俺は受け取った。

 だがこれでいい。葵は素直だしいい奴だと思うからそういう変な関係は持ちたくない。


 話をしているとあっという間に校門へと着いた。門の近くでは複数の生徒が朝の挨拶を行っていた。その中に京子の姿があった。

 京子は俺を見つけると嬉しそうにこちらを見てきた。俺はそれを無視して通り過ぎようとする。目を合わせないで足早に校門を潜り抜けた俺はしばらくしてから振り返る。


 そこには捨てられた犬のような目でこちらを見ている京子が佇んでいた。


 少し胸が痛かった。



 下駄箱で葵と別れて教室へと入る。昨日のうちに座席表と名前を覚え顔と名前を一致させたのでクラスメイトの名前も把握した。俺は適当におはようをしながら自分の席に座った。


 なつみは……俺のことを見ていない。他の女子と談笑している。昨日のことで興味を失ってくれるといいんだが。急に殴りかかってきたりしてこなくてよかった。


 思っていたような波乱は起きずテストも終わり、無事1日が終わり放課後になった。そして帰りのホームルームを終えると俺は鞄をもって急いで教室を出る。後ろから何か気配を感じるが振り返るようなことはしない。

 階段を下って下駄箱についた。


「雄介」


「京子……さん」


「余所余所しいな、京子と呼んでくれよ」


 目の前に来た京子を無視しきれずに俺は返事をした。京子はお姉さまのような態度をとっているがその目は少し潤んでいた。


「ちょっと時間あるかい?」


「いや、ないんで。失礼します」


「待って!」


 俺は京子の脇をすり抜ける。すれ違いざまに京子が俺の腕を掴んで呼び止める。

 何故だか無性にイラついた。


「離せっ」


 乱暴に振り回した腕が京子に当たり、彼女は倒れてしまう。


「あっ、ごめ――」


 さすがの俺もまずいことをしたと思ったが、謝罪の言葉は途中で止まってしまった。何故なら京子は嬉しそうに己の体を抱きしめ、笑っていた。


「……あぁ、もっと、もっとだ」


 身震いしながら顔を紅潮させている京子に俺はドン引きした。


 俺は逃げるようにその場から立ち去った。





 寝る前にウィンドウを出す。


――――――――――

2日目


葵  :好感度 -1

京子 :好感度 ±0

なつみ:好感度 -1


――――――――――


 京子の好感度が変わっている。なんかよくなってるけどあの接触のせいか?

 なんかちょろい気もするがあんまり気にするのもよそう。これが高い方がいいのか低い方がいいのかすら分かんないし。


 結局ゲームっぽいだけで特別な力とかはなかったようで残念だ。明日も同じように過ごすとしよう。

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