第5話

「葵……」


 にこやかな笑顔を俺に向ける幼馴染に少し安心する。葵は大丈夫だろ、親との付き合いもあるし、何より幼馴染だ。それだけで十分だろ?


「なーに、疲れた顔して。テスト出来なかったの?」


「違うよ、むしろ出来たし。それより何か用?」


「あ、そうそう。愛子さんが急に呼び出されたから家開けるって言われて、連絡来てない?」


「あ~ちょっと待って」


 俺はポケットに入れてあったスマホを確認する。そこには愛子からのメールが届いていた。内容は今しがた葵が言った内容と同じだった。結構前に来てたな……


「それで愛子さんに提案してうちでご飯食べないかって。食べるでしょ?」


「そうだな」


 家のもの適当に食べてもいいけどどうせなら人と食べるの方がいい。今一人になると色々思い出しそうで滅入る。

 俺はその申し出を快諾して葵の家へとお邪魔する。家に入るとすでにご飯は出来ているらしくいい匂いがする。リビングへと向かうと葵の母親がご飯を作っていた。


「お邪魔します」


「あらゆーちゃん、いらっしゃい。もうすぐ出来るから待ってて」


 葵のお母さんに挨拶をする。何して待っていようかと部屋を見渡すとテレビからニュースが流れている。全国ニュースが終わって地方局のニュースに切り替わる。やれ殺人が起きただの変質者が出ただの普通のニュースだ。わけわからん世界だが現実と変わらない部分もあるようだ。


 俺は考える。二人の異常な性癖を持つ女と関係を持っていたであろう雄介の正体。しかも加虐趣味と被虐趣味という両極端に位置する性癖に雄介が対応していたという事実、どういう神経してれば両立出来るんだ。未だに思い出すと震えが止まらない。

 思った以上にショックを受けているようだ。俺はノーマルだったのかな。


「お母さん、出来た~? これ運んでおくね」


 制服から着替えた葵がリビングへと入ってくる。もこもこのショートパンツを履いて今にも折れそうな細い足を露わにしながらペタペタとスリッパを鳴らして歩いている。

 儚い……心が落ち着くのを感じる。これは俺が感じているだけなのか、雄介に引っ張られているのか分からない。


「雄介も手伝ってよ」


「あぁ、悪い。そうだよな」


 家にお邪魔になっているのにご飯が出来るまで座って待つだけって偉そうだな。お世話になる立場なのに。


 俺は葵と共に料理を机に運ぶ。


「ありがと」


 満点の笑顔の葵、俺も笑顔で返す。


「二人は相変わらず仲良しね~」


「えへへ、そうだよ~。雄介とはずっと一緒だからね」


 へぇ、まるでプロポーズじゃん。まぁ? 葵ならそうなってもいいかもって思ってる。特に非の打ちどころのない幼馴染だし、今のところはね。俺はまだ少し警戒している。雄介はどうも少しおかしいのだ、そんな男の交友関係には注意するのは当然だろう。


 料理が並べられ、3人とも席につく。


「「「いただきます」」」


 目の前にはハンバーグと野菜の付け合わせ。豆腐の入った味噌汁とほかほかの白米、机の中央にはサラダと茄子の漬け物が置いてある。俺はハンバーグから手を付ける。

 うん、おいしい。やっぱ手料理っていいな。おいしいとかは置いておいても温もりというものがある。人と食べているというのもあるかな、それも立派な調味料だ。


「ゆーちゃんは相変わらずおいしそうに食べるわね~、作り甲斐があるわ」


 葵の母親に褒められながらモグモグとご飯を食べていく。


「ほんとおいしいです」


 ほんと、おいしい。お母ちゃんの料理って感じがする。そりゃそうだが。


 その後も黙々と食事を続け、当たり障りのない会話をしてご飯を食べ終えた。食べ終わった食器をシンクにへと運んでから家に帰ろうかと思った。


「雄介、ちょっと部屋来てよ」


 部屋から出ようとする俺を葵が呼び止めた。その表情はカラっとしているようで少し思案顔でもあった。よくわかんねぇな。

 断る理由もなかったので言われるがままに葵の後ろについて部屋に向かう。少し不健康かもしれないほど細い体を眺める。抱き心地はよくないかもな。


「あ、飲み物取ってくるから先に入ってて」


 そう言って葵はリビングへと戻っていった。俺は先に部屋に入っておもむろに床に座って待つ。小さな丸テーブルにピンク色に染まった部屋は男が考えるような女子の部屋って感じがする。まぁ可愛いんだけど。


「お待たせ~」


 両手にコップを持った葵が帰ってきた。テーブルにコップを置くと扉の鍵を閉める。……お前も閉めるのか、大丈夫だ。葵は華奢だしそもそもそんな雰囲気もない、大丈夫だ下には親もいる。


 俺が俯いて唸っていると後ろに葵が回り込んでいた。まずい、今の俺は無防備だ!


 俺は急いで立ち上がろうとするがそれよりも早く葵が抱き着いてきた。やばい!


 ……何もない。首を絞められることも体を極められることもない。


「……どうした?」


「んー? なんか雄介が疲れてそうだったから元気注入」


 葵の優しい抱擁に俺は少し涙した。辛かったのか、俺は?

 ただただ葵の温もりを感じる。胸がないからふにふにとした感触はないが、肩の上に顎を乗せてスリスリと俺の頬に頭を擦り付けてくるのがくすぐったくてこそばゆい。

 あぁ、癒されるなぁ。


 どれくらい堪能していただろうか。とても幸せな時間が流れた。


「ん~ちょっと疲れたぁ」


 膝立ちでいた葵は俺から体を離して背伸びをする。


「元気出た?」


 うん、出たと思う。でもちょっと名残惜しいな。もっと一緒にいたい。


「キャッ」


 俺は立ち上がって葵を抱きしめながらベットへと押し倒す。

 我慢できないかも。


「ちょっと……雄介? お母さん下にいるよ?」


「ちょっとだけだから、いいだろ?」


「うん……」


 いいのか? やっぱり葵とも関係持ってたんだ雄介。あんなことがあったのに女を求めてしまうのは俺のさがなのか、雄介のものなのか分からなかった。ただ現実は色を好んでいるということだけだ。


 抱きしめた葵は細すぎて骨が当たって痛いとかはなくて、少し角ばっているけどスベスベとした肌触りとシャンプーのいい香りがした。俺は押し倒して葵の下にある腕を彼女の頭に持ってきて顔を近づける。

 そしてそっと唇を奪うとビクンと葵の体が反応した。ソフトな感触で心が満たされるキスだった。何度か唇を擦り合わせて快楽に身を任せる。


「ん?」


 何か下腹部で硬いものが俺に当たっている。葵の携帯か?

 少し震えているそれをどかそうと下半身に手を移動する。そしてそれを掴む。


「あんっ……」


 葵から艶やかな吐息が漏れる。


 ん?


 俺はもう一度それを掴む。


「ひぅ!」


 んん?

 まさか……


 俺はそれの正体を確かめるように弄る。くねくねと動く葵、俺は体を起こしてそれを確認する。


 そこにはズボンから隆起した何かがビクビクと動いていた。



 チンポやんけ……




 はぁっ? はぁあああああああああああああ???????




 あの、あのさぁ!! 俺をいじめて楽しいか!?

 なんで! なんでそうなるのさ! どうみても女の子でしょうが!!

 ここっ、ここまで来てそりゃないよ! 


「どうしたの? 雄介」


 俺が固まっていると葵が心配そうに見上げてくる。


「あ、ああ何でもないよ。元気になったし今日はもう帰るわ」


「そう、じゃあまた今度ね」


 あっさりと引き下がってくれるあたり葵はいい子だ。

 だが彼女、いや彼なんだよなぁ……


「はぁ……」


 俺はまともな女(男)がいないこの現状に絶望した。

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