第4話 〉let's go believe! Come on the Hero!

 俺はヒーローに憧れていたことはなかった。子供の頃、施設で育ち、親も兄弟もいない俺は、その施設で子供らが集められて娯楽として変身ヒーローの特撮映画やアニメを見ることはあっても、それに憧れたり、自分もなりたいとは思わなかった。チカラが手に入る。それだけの理由で俺はチェンジの道を選んだのだ。仕事として、俺はチェンジになった。正義の奴らもそうだ。その実態はクローン人間で、使命としてチェンジしているに過ぎない。クローン人間を一人の人間として認めない、なんて前時代的な考えはない。もちろん認めている。そこに人権はある。問題は生み出す人間にある。タイド博士とか言ったか。罪を問われるのであればそいつの方で、おそらくそいつがすべての黒幕で、悪よりも悪であろう。生きているとは限らないけど。たぶんもうこの世に生きてはいないだろうけど。



 俺は就職できる年になると、仕事を探し始めたが、しかし就職できない不良品のような子供だった。どれだけ勉強しても、どれだけ資格を手にしても、仕事にありつけなかった。そこで、裏ルートで紹介されたのが悪の秘密組織への就職であった。なぜそんなところを知っているのか、なぜそんなところを紹介したのか。その全ては秘密であり、俺も知らない。全てにおいて秘密は秘密として秘すことを条件に就職した。そしてその組織の野望として音楽を知った。それまでまったく、これっぽっちも知らなかった。音楽がどういうことなのか、何を指すのか、どういうものなのか、何も知らず、そして初めて知った。俺は音楽の良さにすぐにどっぷり嵌り、その素晴らしさに感銘を受け、衝撃と共に涙した。特にロックンロールが一番衝撃だった。どの音楽も筆舌に尽くしがたいが、ロックだけは次元が違うように感じた。ヒーローを歌う歌もあり、それを聞くなり俺は立ち上がって上司のクイーンエリザベスとプリンス・オブ・ウェールズと共にスタンディングオーベーションで拍手を送った。シーディーのプレイヤー再生機を三人で囲んで、それに対して拍手を送ったのである。傍から見ればなんとも滑稽な姿だろうが、しかし過去の時代の良き文明に出逢ったという、俺の人生における歴史的瞬間である。無理もない。はしゃいじゃうだろ、普通。たとえ悪でもな。



 その日も悪さを働き、無事に一仕事終えたところであった。私は目を疑った。なんと、人並みサイズの人型超合金耐熱鋼ロボットのようなモノが行く手を阻んでいるではないか。そして俺は知っている。あのようなものはたいてい五つくらいの各種乗り物に分かれていて、合体して一つのロボットになるのだということを。あの大きさだと、人間は乗れないから全てドローンとかの無人機か? 



「おい、そこのロボット。正義のチェンジだろ。なんだよ、それ。秘密兵器みたいなものを取り出してきたな」


「悪のチェンジよ。もう貴様らの勝手にはさせない。自由にはさせない。これ以上の悪事は許さない。同じチェンジであるからといって、見逃すわけには行かない。こちらも最大戦力で、迎え撃つ。来い、悪のチェンジ。ブレイズンよ」



 はぁ……。やれやれ。仕方ないやつだな。あまりこちらも戦力を見せびらかすようなことはしたくなかったんだが。そんな物で会敵されてはこちらもアレを出さざるを得ないではないか。



 俺は地面に手を付け、そしてそのまま引きずり出すように、引っ張るようにしてその機体を出現させた。


 

〉let's go believe! Come on the Hero!



 それはシャープで厳つい格好の、ダークで暗い紫や黒色を基調としたコンパクトサイズの合体ロボット。鎧のように、着こなすように、変身するように、装着するように乗りこなす。さて、最大戦力とやらを見せてもらおうか。



 抜刀。動け、俺の悪のロボット。悪の組織のロボット。この人力手動脳波感知タイプ、機械仕掛けの機械よ。唸り、軋み、振りかざして、敵を粉砕せよ。



 さあ、いくぞ。正義のチェンジ。

 

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チェンジ・ザ・ヒーロー 小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】 @takanashi_saima

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