26

「文句が多いなお前は。 ま、じゃあ第四世代の続きな。 入校式だったか?」


「馬鹿、違うよ。 入校して一週間、教官が第四世代を見限ってるって話し」


 シンエイもベッドに寝転がって、天井を見上げ、深呼吸をするように息を吐いた。


「そうだったな。 サイカの諜報員がその話しを持ってきてさ、食堂でもいよいよ愚痴を言いだす奴が出始めたわけだ。 さすがに食堂までは盗聴器の確認なんてしていないし、全学級で人が溢れかえってるから、怪しい奴も見付けづらい。 とんでもない事になり始めたと思った矢先、第三世代が第四世代を馬鹿にしているって、話を聞きつけた第四世代が時間を守らずに食堂に乱入してきた」


「それは第四世代の気持ちもわかるから、なんとも言えないよね。 僕でも乱入するよ」


「まあ、エイキは九坂に来て間もないからそう思うだろう、だけどな、ここにはここのルールが、規律がある。 決められた時間は守らないと駄目なんだ。 規律を破るって事は教官の顔に泥を塗るってことだ。 それを入校して間もない奴らが破ったら駄目だ。 それこそ俺らも教官の事も見下してる証拠になるからな。 エイキも教官の言う事は守れよ。 九坂にいるなら、教官が絶対だ。 それがここで生きるルールだからな」


 エイキはシンエイの真剣さに、仰向けに寝転がって脱力していたが、枕を抱きしめた。

 いくら上官命令が絶対であっても、戦場では監視されているわけではなく、指令の任務を達成できていれば、戦場では自由なのだ。

 エイキからしたら、九坂は四六時中、監視下にあるも同然になる。


「わかったよ。 軍でも上官命令は絶対だもんね、そりゃあそうか。 あとシンエイの真面目っぷりも理解したよ」


「うるせえ。 それでだ、本当の所、エイキが言ったように、諜報員から教官に見限られてるって話しを聞いただけで、俺らは教官本人たちから聞いたわけでもなければ、訓練中にそんな態度を取られたわけでもなかった。 でも教官にって所が耳について離れない。 だから第三世代の大半の奴が信じまってたんだよ」


「その状況なら、どうだろう。 僕は信じないかもね、僕は自分の見たものしか信じないから」


「それが正しいと思う。 前に言ったろ、諜報科は戦闘科を引っ掻き回すのが好きだって。 第四世代から見下されてたのは確かだけど、話しもしていないのに、わかり合えるはずないだろ。 それなのに喧嘩腰で食堂に乱入してきやがった。 機転の利く奴のおかげで、急いで十歳以下は部屋に戻したけどな。 これは守るって意味じゃなくてただ、食堂に人が多くて邪魔だったから。 結局は守ったことにもなったけどな」


 エイキは寝返りをうつと、枕を抱えたままシンエイの方に目を向けた。そろそろ話しが面白くなりそうな予感がしたからだ。


「僕らは基本的に同チームじゃないと守らないし、どうでもいいもんね。 逆に同チームってだけで、見捨てられない仲間意識ができるのが不思議だけどさ」


「俺はさっきお前を見捨てようとしてたけどな」


 シンエイは含み笑いがちに言う。もちろん見捨てるというのは最終手段でしかない。


「なんでだよ! 酷くない?」


「エイキが動かなければ見捨ててたって話だから、結局は丸く収まって良かっただろ」


 シンエイはエイキをちらりと見て、また天井に目線を戻してから、ゆっくりと目をつむった。

 エイキはシンエイをじっと見つめたまま寝転がっている。


「まあもういいよ。 はい、続き」


 エイキは不機嫌に言い放った。シンエイは壁の方に寝返りを打ち、三百十六の文字の下に書かれた数字を指でなぞった。


「俺たちは、揉めごとに関わり合いたくなかったから、隅の方で無視して昼飯を食っていた。 早く食って部屋に戻ろうってサイカと話してたんだ。 だが言い合いがヒートアップした。 はい、ここで第一の謎な、第四世代が食堂に来てから結構経つのに、なぜか教官が止めに来ない。 いよいよ不穏な空気になって、食うのやめて部屋に戻ろうって話になって、食器を戻しに行ったら、食堂の職員が誰一人として見当たらない。 これが第二の謎」


 エイキは枕を抱きしめ、神妙な面持ちでシンエイを見つめているが、シンエイは背を向けたままだ。


「ホラーなの? 僕、実はホラー苦手なんだけど、凄く怖いんだけど」


 突然のエイキの大声に、シンエイはちらりと背中越しにエイキを見たが、すぐに目線を外した。ホラーが苦手だなんて、それこそ冗談だろ。と言いたげに。

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骸を喰らいて花を咲かせん 藍染木蓮 一彦 @aizenkazu

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