子供が出来たらする話或いは父親の妄言

@tobotoboporoporo

猫のお殿様

「まだ届かないのかのぉ」 


猫のお殿様は今日届くソファが待ちきれません。

仲のよい友達がプレゼントとして送ってくれたソファが届く日なのです。


「まだ朝ですから、気が早いのでは?」

お付きの猫がたしなめますがそれでも殿様の尻尾は止まりません。


ソファを送るといわれたその日からお殿様の気持ちはそわそわそわそわ落ち着きません。

いたずらに時間だけが過ぎていきます。


「そろそろお殿様へご飯をお出しせねば」

お昼も過ぎお付きが準備を始めたところ

「殿様殿様!大きな箱が届きましたがいかがしましょう」

「はよ持って来い!」


家臣の猫たちがだいじに箱を運んできます。

箱が開くと中から大きなソファが現れました。

何十匹もの猫が乗れるほど大きく、座れる位幅のある手すり、生地は程良く固くふんわりとした素晴らしいソファでした。


「素晴らしい逸品じゃ」

我慢できずソファに飛び乗り丸まったお殿様は呟きます。 

「良いものを頂きましたな」 

「うむ、お返しはまたたびを送らねばな」

丸まった体を伸ばしあくびをしながら、両手をソファにくっつけます。


「爪を研いでしまうので?」

そう言われたお殿様はハッとします。屋敷だけでなくすべての家の畳や柱はもう傷だらけ、国中探しても爪痕のない家具はこのソファだけです。

「このソファは傷つけてはならぬ」

いそいそ爪をしまいながら家臣たちに命じます。

皆がうなずきます。お殿様の命令は絶対です。


「傷つけられてはたまらぬからな、今夜からわしはここで寝る」

そう言うとソファを家臣たちに運ばせます。

家臣たちは爪をたてぬよう気をつけながら寝室に運びました。

「では殿様、ソファも届きましたので今日の仕事をしていただきます」

「こんなにあるのかのぅ」

「午前中ずっと働いてませんでしたから」



「ソファに傷がぁぁっー!」

夜のお屋敷に殿様の悲鳴が響きました。

仕事を終わらせ、歯も磨いたお殿様が寝ようとすると爪研ぎの跡が痛々しく残ったソファがそこにはありました。


「誰がやったのじゃぁ?」

運んだ猫たちが疑われますが、首を横に振

ります。

犯人が見つからないまま時間だけが過ぎていきます。


「ごめんなさい、僕がやったの」

突然そう言ったのは親子で屋敷で働く子猫でした。

「なんてことをしたんだ!」

隣に立つ父親猫が叱ります。


「なぜこんなことをしたのじゃ」

「綺麗なソファで触っていたら我慢できなくなっちゃって、大切なものだったのにごめんなさい」

理由を聞いたお殿様は少し考えます。


「やってしまったものは仕方ない、もう勝手に誰かのものを傷つけてはいけないぞ」

お殿様は子猫にそう告げると集めた家臣たちを見ます。

「せっかく大きなソファをもらったのじゃ、これからみなで使うとするかの」

そう告げたお殿様は我慢できんとソファに飛び乗り爪を立て引っ掻きます。

気持ちよさそうなお殿様につられ家臣たちも次々ソファに飛び乗り爪を立てます。

リラックスしてソファで眠りにつく家臣や子猫たちを眺めながらお殿様は満足げに鳴いたあとぐっすりと眠りにつきました。

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