第25話決闘

断っても面倒くさいことになりそうなのでとりあえず決闘を受けることにした。というかこいつの名前ジークフリートって完全に名前負けしている気がするがまあいい。


メッセージにYesと返すと、半球状の領域が現れ、僕と相手以外のプレイヤーがその場から弾き出される。これが決闘のフィールドか。それほど広い訳ではないが、これだけあれば戦うには十分だろう。


刀を抜き、中段に構えて決闘の開始を告げるカウントダウンを見つめる。


「俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる」


馬鹿にしたつもりはないが、まあいい。相手も剣を抜き、カウントが5をきる。3、2、1 スタート。


最初から突っ込んでくると思っていたため僕はその場から動かず様子見をしていたのだが、


「さあ、かかってこいよ雑魚が!」


相手も動かずに僕を挑発してくる。別に挑発に乗っかって僕から仕掛けてもいいのだが急に絡まれて僕も多少イライラしていたため挑発し返すことにした。


「いやいや、何を言ってるんだお前は。僕は素人相手に先手を譲らないほど落ちぶれてないぞ」


「ッ! 舐めやがって!」


自分から煽ってきたくせに自分が煽られらることには耐性がないのか切れながらこちらに切り掛かってくる。というか先手を譲られることを舐めてると考えるのがもはや素人の発想だ。後手が有利になることなんて普通にあるし、何なら僕自身は後手の方が得意だ。


βテスターだけあってステータスは高いのかなかなかの速度だが、重心はぶれているし、フェイントも何もないただ力任せに振るっているだけの攻撃に対処することなんて容易い。


斜め切り掛かってくる攻撃を刀身を使って斜め後ろに受け流し、相手の重心を前に崩させる。ある程度鍛錬していたり勘が良かったりする奴は受け流されたことにすぐに気づくのだがこいつはそんなことはなく、


「へっ?」


情け無い声を出して前につんのめる。この程度の実力でよく最前線にいたなんてイキれたなと思いながら、無防備な首に刀を振るう。ボス戦で僕のステータスも相当上がったのか、死点打ちの効果も相まって相手の体力を僅か一刀で削り切る。


『【ジークフリート】との決闘に勝利しました』


システムメッセージが僕の勝利を告げる。いつの間にか集まっていた観衆は僕の勝利に沸いている。


先輩が観衆を押し退けながら僕の元へ歩いてくる。


「お疲れ」


「シエルさん、これからはああいうのやめて下さいよ。あんなこと言ったら決闘申し込んでくるって分かった上で言ったでしょ」


「別に、どうせ勝つんだからいいじゃない。それにこういうのは一度容赦なく叩きのめしておかないと似たようなのがウジャウジャ湧くから」


言ってしまえば奴は見せしめね。と呟く先輩を見て、少し、ゾクっとした。やはり、配信者として人気になる過程でああいうめんどくさい人がたくさんいたのかと思うと、大変な世界だなと改めて感じてしまう。


決闘も終わったので当初の予定通り料理道具を揃えに行こうとすると、リスポーンした男が観衆にどけと叫びながらこちらに向かってくる。


「おい、さっきの決闘はなしだ」


おいおい、あんだけ多くの人が見てたっていうのによくこんなこと言い出せるなこいつ。


「なぜですか? もういいでしょう。面倒くさいので僕たちにもう関わらないでください」


怒りを通り越して呆れながらそう言うと、


「うるせえ!! お前がチートを使ってるからだ。そうじゃなきゃ、この俺が負けるわけがねえ!!」


「だから、チートなんて使ってないですって」


ああもう、まじで面倒くさいなと思っていると、先輩が


「これ以上騒ぐなら運営に報告する」 


相手に最後通告をする。


「シエルさん! こいつチート使ってるんですよ。そんなクソ野郎じゃなくて俺と一緒に行きましょうよ」


「ん、もういい。運営に報告する」


その最後通告を無視して騒ぐ男を尻目に先輩がGMコールをする。すると、空中から妖精のような姿の少女がゆっくり降りてくる。


「はいはーい、プレイヤー対応用AIのシルクちゃんだよー。どうしたのかなー?」


「ん、この男がネージュがチートを使ってるだの何だのいちゃもんをつけてきて迷惑してる」


「ふむふむ、なるほどね。ネージュっていうのは君の隣にいる男の子のことだよね。じゃ、ちょっと調べるねー。……うん、チートを使ってる様子はないねー」


今の一瞬で調べられるのか、最近のAIは優秀だな。しかし、そのシルクの判定に納得がいかない男が


「おい、チート使ってないわけがないだろうが。ちゃんと調べろよ。このくそAI」


と文句を言う。


「んー、君のログを見せてもらったけど、多方面に迷惑かけてるみたいだねー。これ以上他のプレイヤーに迷惑をかける様なら二度とこのゲームにログインできないようにするけどどうするー?」


しかしその文句を無視してシルクがそう脅すとさすがにゲームに入れなくなるのは嫌なのか、


「っち! 分かったよ」


男は舌打ちをしてその場を去っていくのだった。


「対処してくれてありがとう」


「いえいえー、これが仕事なのでー。それじゃまたねー」


仕事を終えたシルクも続いて消えていった。







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リアルチートと天才ゲームプレイヤーが行くVRMMO配信録 @Ciel1024

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