オチャメな魔族とレモンサブレー

フィステリアタナカ

オチャメな魔族とレモンサブレー

「ジン。何の設計図描いているんだ? この前言っていた、テンシャか?」


 オレの名前はロン。修道士モンクでシャロー王国に住んでいる。王様をしているジンが机に向かって何かを描いていたので背後から声をかけた。


「自転車の設計図だよ」

「ああそうそう、自転車だったな。人力で動くヤツだよな?」


 そう言って、設計図を覗き込む。


「前輪の上の籠は竹で作るのか?」

「ううん。竹じゃなくて金網で作ろうかなって思っているんだ。でもこの加工をできる人いるかな?」

「ジン、根詰めてないか?」

「そうだね、ちょっと休憩しよう。レモンサブレーがあるから、ロンも食べる?」

「ああ。せっかくだからタンちゃんも誘おうか」


 オレは懐から黒い板状のモノリスを取り出し、オレの眷属であるポンコツ魔族のタンヤオに電話をかける。


「――出ねぇ。あっ、もしもしタンちゃん。今すぐ来てくれ。何? 魔王様に怒られて、罰として廊下掃除をしているだと? 何で怒られたんだ? テストの点数が11点で課題プリントもやってこなかっただと? そりゃ仕方ないな、レモンサブレーはこっちで食べておくから」


「ふぉふぉふぉ。待たせたな」


 タンちゃんは甘い物が好きで、召喚するときにはいつも適当なお菓子で釣っている。


ぬし。メロンサブレーはどこじゃ?」


(タンちゃん。オレはメロンサブレーって言ってないぞ)


「タンちゃん。メロンサブレーは無いな」

「ん? そうなのか? なら、わらわはキウイサブレーが食べたいぞよ」


(キウイはない。レモンならある)


「どこかにサブレーキーウィは無いのかのう?」


(キーウィは鳥の名前だな。ちなみに神が言うにはニュージーランドっていう国の国鳥らしい)


「それにサブレーキツネも食べたいのじゃ!」


(鳥類から哺乳類に進化した。随分と賢くなったなタンちゃん)


「サブレー九尾の狐もじゃ!」


(ほう。「キ」で縛るのか――次はどうなる?)


「そうじゃ! 一番強いサブレーキ〇タマがいいのじゃ!」


(タンちゃん流石だな。キ〇タマって発想はオレにはできないな――っていうか一番強いならサブレーキングでいいんじゃね?)


「ロンさ、食堂に先に行っていて。レモンサブレー取ってくるから」


(ジン、お前な。この国の王様なんだから、使用人を使え)


「王。わらわも一緒にモンテカルロを取りに行くぞよ」


(タンちゃん、モンしか合っていない。それにお前が行くとややこしくなる)


「タンちゃん、ここはジンに任せて、先に食堂に行こうぜ――あっ」

「ん? 主、どうしたのじゃ? まさか妃とスライムと女エルフを呼ぶつもりじゃ――」

「おっ。タンちゃん、今日は勘が冴えているね」

「ふぉふぉふぉ。わらわは万能なのじゃ! お菓子の取り分が少なくなるから、呼んでほしくないのじゃ!」


 オレは使用人に頼み、みんなに食堂に来るよう伝える。しばらくして、いつものメンバーが揃ったので、ジンから受け取ったレモンサブレーの箱を開けた。


「主、わらわが配るのじゃ」


 そういってタンちゃんはみんなに1枚ずつ配った。


「なあ」

「ん? 主、どうしたのじゃ?」

「何でお前だけ、たくさんサブレーがあるんだ?」

「ふぉふぉふぉ。わらわは11点取ったのじゃ! だから11枚取ったのじゃ!」


(ほう。この箱には12枚入りって書いてあるぞ。数が数えられないんだな)


「バカ。どう考えても2枚ずつだろ」

「ふぉふぉふぉ。ふぉふぉふぉ。ふぉふぉふぉ」


 オレは呆れ、首をすくめると、タンちゃんの背後に誰かが現れ、ジンが言った。


「タンヤオ後ろ見て」

「ん? どうしたのじゃ王?」


 振り向いたタンちゃんはビクッとして、声を震わせた。


「ま、ま、魔王様。こ、これは誤解なのじゃ! わらわはサボっていないのじゃ! 主が呼ぶから命令に従ったのじゃ!」


 タンちゃんが邪魔で魔王の姿がよく見えなかったが、タンちゃんは腕を掴まれて、どこかへと消えていった。


(まったく。しょうがないヤツだな)


「じゃ、タンちゃんの分の2枚はジャンケンで勝ったヤツものってことで」


 そう言ってジャンケンをしようと提案するが、みんな食べずにタンちゃんの為に取っておこうと言うので、オレは12枚のレモンサブレーを箱の中に戻した。


(みんなタンちゃんに甘いな。まっ、そんなヤツらだから好きなんだがな)

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