2-3

「スターチさん、まずいです。敵艦の主砲の装填が、まもなく完了しそうです」

「なに⁉」


 今まで砲撃を放っていたのは、四つの副砲。

 それらよりも一回り大きな主砲、その砲口に巨大な魔法陣が構築されていた。



「これはかなり大型ですね。極太の雷撃光線がきます。

これはさすがに、直撃すれば船がスタンするだけで済みませんね。船体は大破、当然、我々は魔素宇宙のもくずです」


「まじかよ。でもまあ、それも避けちまえばなんてことはねえ」

「いえ、それが……」


 カタタタ、とキー操作をして、敵艦の魔力反応をさぐるルティ。

 そして手元のミニモニターに表示された数値を見て、表情を曇らせる。



「どうやら探知系の魔法も組み込まれているようです。

直線するだけの光線じゃありません、こちらの動きを読んで追尾してくる、ホーミング性能つきの雷撃光線ですよ。これは避けられません」


「なんだと⁉」


「これだけの魔法砲撃は、詠唱に相当の時間がかかりますが。……なるほど、副砲を連発させながら、主砲の詠唱時間を稼いでいたわけですね」



 そのとき、また通信機器が鳴った。

 ルティが船長の顔をうかがうと、再び肩をすくめる仕草。



『さあ、これが最後の勧告だ。これで貴様らも、ついに死は免れまい。命が惜しくば、今すぐ降伏しろ』


 音響装置から聞こえるのは、やはり威圧的な低い声。

 バーティック号の艦長、グリフ・フォン・レッドゾムだ。



 ついに主砲が装填完了しようとしている今、もはや小型船が生き残る可能性はなくなった。

 ここであらためて最後の勧告を投げかけてくる。バーティック号艦長のレッドゾム、やはり慈悲深い男である。



 しかし、こちらもやはり横風な男スターチ。

 この期に及んでもまだ強気に言葉を返す。


「うるっせえ、この赤ハゲ‼ 生っちょろい勧告なんかしてんじゃねえ‼ 男なら、さっさと撃ってこいや!」


 めちゃくちゃなことを言って、通信をブツ切りする。



「そんなこと言って、どうするんですか、スターチさん。もう逃げられませんよ。

今までの副砲とちがって、追尾してくるし、当たったら木っ端微塵ですし」


「どうにかして防げないか?」


「……雷撃光線は、物体に接触すれば雷撃を炸裂させるものですから……なにか障害物があれば、それを盾にして直撃を免れますが。

でも無理ですよ。こんな開けっ広げな魔素宇宙の空間で、盾にできるようなモノはなにも……」


「メテオはどうだ。光線を隕石にぶち当ててやれば、雷撃はそこで炸裂する。直撃は免れるぞ。ちょうど、さっきメテオ群があっただろ」


「たしかに直撃は免れますが……。メテオ自体、膨大な魔力を含んだ宇宙の岩石ですよ、光線があたれば爆発します。

メテオ爆発に巻き込まれれば、それこそ木っ端微塵ですよ」


 メテオは盾にはなり得ない。

 それ自体が爆弾だからだ。



「んなこたァ分かってんだよ。だったらその爆発に巻き込まれないよう、遠くに逃げておけばいいだろ。

メテオのそばを通って追尾光線を当てさせる。そんでもって、メテオ爆発に巻き込まれないように距離をとっておく。簡単だ」


 と、スターチは平然と言うが……。



「簡単だなんて、何を言いますか。雷撃光線をメテオに当てながら、且つメテオ爆発に巻き込まれないように距離を取るなんて……。

そのためには、この船の最高速度でメテオ群に突っ込んで、岩石ひしめく中を全速でくぐり抜けないと間に合いませんよ」


「ああ。分かってるよ」


「その間、メテオに翼を掠めでもしたら、その時点で爆発が起こります。

そんなの、地雷原のうえを猛ダッシュするようなものです。スターチさん、死ぬ気ですか?」


「死ぬ気かって? 何言ってんだよ、ルティ。このまま何もしなけりゃあ、主砲にぶち抜かれて死ぬんだろうが。

どのみち死ぬなら、生き残る可能性がある道を選ぶに決まってんだろ」



 と言うが、そもそもお情けの降伏勧告を蹴って、生き残る道をみずから絶ったのは、他ならぬスターチなのだが。


 もちろんルティも、そのことを咎めるつもりはない。

 彼の性格は充分理解している。ともに裏稼業の運び屋として、数年来の付き合いだ。



「っていうか迷ってる暇はねえよ。急がねえと逃げ切れねえ」


「ええ。じきに主砲の魔法詠唱が完了します。装填できれば、すぐにでも撃ってくるでしょう」


「じゃあ行くぜ、エンジン全開で、メテオ群に突っ込むぜ」


「了解です、船長」


 諦観ていかんか、それとも気乗りしたのか。

 ルティはクスッと笑みを漏らしながら、頷いた。

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スペースオペラ・ファンタジー ~竜は宇宙で啼いている~ 頂ユウキ @enrigi_947

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