第7話 マイナス魔法国の決戦
魔王を倒して出来た次元の穴に飛び込んだ真依達は、見た事もない謎の世界にやってきてしまった。想定外の展開に気が動転する2人。果たして、魔法少女達はここから元の世界に戻る事が出来るのだろうか――。
転移した場所は見た事もない深い森の中。舞鷹市にそんな場所はない。この時点で、真依の賭けは外れた事が分かる。当然、巻き込まれた梨花はご立腹だ。
「何で勝手に飛び込んだのよ!」
「次元の裂け目が消えかかってたんだよ! あのままじゃ折角魔王を倒したのに無駄になっちゃうじゃん」
「でもまだ穴は大きかった。考える時間はあったよ!」
梨花は真依の軽はずみな行動を責める。この状況に、すぐにトリが割って入った。
「今は揉めてる場合じゃないホ! まずはここがどう言う場所か……」
「……ここはマイナス世界ニョロ」
「ホ?!」
転移先に覚えがるのか、マスコット達が意味深な会話をし始める。にらみ合っていた真依と梨花もその話に耳を傾けた。
梨花は、自分のお供マスコットに視線を向ける。
「ナーロン、マイナス世界って?」
「裏側の世界ニョロ」
その言葉を聞いた真依はトリを抱き上げた。
「敵の本拠地?」
「それはまだ分からないホ。僕も来たのは初めてホ」
マスコット達の説明によると、トリ達の世界である魔法国を侵略してきたマイナス魔導国は自分達のマイナスエリアをどんどん拡大していたようだ。そして、完全に侵食されると自動的にマイナス魔導国の領地と化してしまうのだとか。
話を最後まで聞いた真依は、キラキラと目を輝かせる。
「よし! 探検しよう!」
「だから、軽はずみな行動は……」
「でもじっとしていても何も分からないよ。私達2人が力を合わせれば無敵でしょ。魔王だって楽勝で倒せたじゃん」
「はぁ……」
真依の強気発言に梨花は眉間を押さえる。そうしてステッキを出すと、おもむろに天にかざした。
「マジカル☆スルー!」
彼女が使ったのは、自分達が許可した人以外からは見えなくなる認識阻害魔法。この魔法を使ったと言う事はつまり、梨花も真依の話に乗ったと言う事だ。2人はうなずき合うと早速走り出す。
森を抜けると平野が広がっており、その向こうには町らしい建物が見える。と言う訳で、2人はその人里に向かった。
「良かったね、近くに町があって」
「真依、油断大敵だからね!」
「分かってるって~」
2人は軽口をたたき合いながら町に侵入する。そこは重苦しい雰囲気に包まれていて、一般住民の代わりに兵士達がゾロゾロと何かを探すように歩いていた。
この異様な雰囲気に、梨花は真依を引っ張って素早く物陰に隠れる。
「魔法効いてんでしょ? 何で隠れるのよ」
「この雰囲気はおかしいよ。念には念を入れないと」
「私は梨花の魔法を信じてるから!」
真依は梨花の忠告も聞かずに表通りに飛び出した。そして速攻で兵士に見つかる。
「何だお前は!」
「へ?」
この想定外の事態に動揺した真依はすぐに梨花達のもとに合流。兵士達が追いかけてきたので、その場から速攻で離脱した。
「何で効いてないのよ~。梨花のバカ~!」
「だから忠告したじゃないの~」
「ひ~ん!」
幸い町には狭い路地が多く、何とか2人は兵士の追跡をかわす事が出来た。しかし、土地勘はないのでこの場所から動けなくもなってしまう。
一応当面の危険は去ったと言う事で、真依はその場に座り込んだ。
「ふ~。怖かった~。これからどうする~?」
視線を向けられた梨花は指を顎に乗せる。
「もしかしたら、マイナス世界だから魔法が効かなかったのかも……」
「そう言う言い訳はいいからさ~」
「は? 元はと言えば真依が勝手に……」
「やっぱりそうニョロ!」
2人がまた口論を始めかけたところで、ナーロンが叫ぶ。またしてもの意味深発言に、真依達はゴクリとツバを飲み込んだ。
「何か分かったの?」
「真依、ここは……魔法国ホ!」
「え?」
「僕らの故郷ホ。帰ってきたんだホ」
折角戻ってきたと言うのに、トリの表情は沈んでいる。真依はそんな相棒を抱き上げた。
「ここ、マイナスの世界なんじゃないの?」
「侵食されてしまったんだホ。遅かったホ……」
「そんな……」
魔法少女の目的はトリ達の故郷を救う事。それが達成出来なかったと言う事実に、周囲はお通夜モードになる。誰も口を開けない中、何かに気付いたナーロンが目に光を取り戻した。
「いや、まだ希望は残っているニョロ! 兵士達は何かを探していたニョロよね? つまり、侵食はまだ完全ではないと言う事ニョロ!」
「そうかホ! じゃあまだ姫は無事……」
お供同士がまた勝手に話を進めていると、真依達の足元に魔法陣が出現してどこかに転移した。そこは民家の部屋の中。2人の目の前にはプリンセス衣装の少女がいた。状況的に言って、彼女がここに呼び寄せたようだ。
当然、マスコット達はこのプリンセスの正体を知っている。
「姫、よくご無事でホ!」
「お前ら、どこに行っとった?」
「えと、戦士を探しにホ?」
「言い訳すんなー!」
姫は何故かご立腹で、トリの言葉を聞こうともしない。この怒涛の展開には真依達も全くついていけなかった。
「みんな戦ってたんだぞ。お前ら2匹だけ逃げやがって」
姫の語る言葉が真実なら、彼女が怒るのも無理はない。真依は改めてトリの顔を見る。
「そうなの?」
「いや、あのままじゃ全滅してたホ! 戦士を見つけるのが正解だったホ!」
「それにもう魔王は倒したニョロ!」
トリの弁解にナーロンが援護射撃。しかし、姫の勢いは止まらない。
「それは嘘の魔王。マイナスで作った偽物じゃ。本物はこの国におるわ!」
「マジかホ……」
衝撃の事実を聞いたトリは固まる。逆に、真依はポンと手を叩いた。
「道理で手応えがないと思った~。雑魚だったもん、あの魔王」
「ところでこの2人は何じゃ?」
姫はやっとここで2人の魔法少女に意識を向け、そこから情報をすり合わせる。お互いに自己紹介をした後、姫は自分の服のポケットの中を弄った。
そうして、取り出した手のひらサイズのきれいな虹色の楕円形の宝石を真依に渡す。
「これは我が王室に伝わる魔王の力を弱めるアイテムじゃ。魔法少女専用のやつでな。お前らに託す。どうかこの国を救ってくれ」
「あっはい……」
こうして攻略アイテムを手に入れた真依達は、打倒魔王に向けて動き出した。ラスボスは姫が元いた城にいるらしく、そこまでは彼女の転移魔法で一気に飛ぶ。
2人が城への転移に成功すると、目の前の玉座に見覚えのある異形の大男が座っていた。そう、今度こそ本物の魔王だ。見た目は同じでも迫力が違う。
「来たか、伝説の魔法少女達よ」
「えっ、いきなり?」
この急展開には流石の真依も動揺する。焦りながらも、すぐに貰った宝玉を魔王に向けてかざした。
「これでも喰らえ~!」
宝玉は魔法少女の求めに応え、虹色の光を発光させる。その輝きはまるで浄化の炎のようでもあり、強い光は真依達の視界をも奪った。
「「わっまぶしっ!」」
光は一瞬で収まり、宝玉はボロボロと崩れ落ちる。視界が戻ってくると、そこにはピンピンしている魔王がいた。
「そんなものが効くと思ったか?」
魔法少女は相手の魔力を感じ取れる。目の前のラスボスが虚勢を張っている訳ではない事はすぐに分かった。
真依が彼にダメージを与えるには、最強魔法の『メガビックバン』を使うしかない。しかし、それは全ての力を一気に凝縮して撃ち出すもので、外せば負け確定。体力満タンの魔王に向けても確実に避けられるだろう。
「梨花、魔法で魔王の動きを止めて!」
「無理! あいつにファイナルウィップバインドが効く訳ない!」
「言い訳はいいから!」
無茶振りをされた梨花はため息を吐き出し、ステッキを振って拘束魔法を使う。発生した光のムチは、当たり前にように魔王に触れる前に消滅した。
「こんな児戯が通じると思ったか? 舐められたものだ」
「ほらやっぱり~!」
梨花は魔王の迫力に涙目になる。流石はラスボスだ。ここまでの経緯を踏まえ、真依は最後の手段に出る。
「もう、これしかないよね……。梨花も早く!」
「分かった!」
彼女が取り出したのはマッチョキノコ。2人の魔法少女は魔法を捨て、筋肉に賭けたのだ。真の魔王も流石にこの展開は読めていなかったらしく、偽物魔王と同じリアクションをする。
「な、何だそれは……。魔法少女が物理攻撃とか卑怯だぞ……」
「「問答無用ーっ!」」
結局、魔法少女Wキックによって魔王は倒され、マイナス領域は消滅していく。敵が完全に撤退したところで姫が現れた。
「流石は魔法少女じゃ!」
「姫? アイテム効かなかったんだけど」
「え? それはアレじゃあ。世界がマイナスだったからかのう」
彼女は視線を合わせずに真依達に説明する。上ずった声で喋っていたのもあって、2人には言い訳にしか聞こえなかった。
真依がジト目で姫を見ていると、彼女はポンと手を叩く。
「そうじゃ、褒美に元の世界に戻してやろう」
「えっ、本当?」
「我に任せい!」
こうして、姫の転移魔法で魔法少女2人は無事に舞鷹市に戻る事が出来た。ただし、転移前と同じ時間軸で。タイムラグがないのは良かったものの、深夜に戻ってきたのは問題だった。
真依は周囲を見渡して、ガクリと肩を下げる。
「やっぱこうなるかぁ~。早く帰ろ……」
彼女は気配を消しながら帰宅する。恐る恐る玄関のドアを開けると、そこには鬼の形相の母親が待っていた。
「こんな時間にどこ行ってたの!」
「ちょ、世界を救いに……?」
「はい? もっとマシな言い訳を言いな!」
「本当なのに~」
こってりと絞られた真依は、3ヶ月お小遣い禁止の罰を受ける。こうして普通の少女に戻った彼女は、また平穏な学生生活を送ったのだった。
(おしまい)
異世界魔法少女真依 にゃべ♪ @nyabech2016
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