第6話 いきなり魔王? 無茶じゃない?

 深淵の森での戦いで、強いモンスターを倒せば次元の裂け目が出来る事が分かった真依と梨花。2人は強敵を求めてギルドで情報を集める事に――。


「うーんうーん」


 真依は宿屋で寝込んでいる。どうやら前回の戦いで使ったマッチョキノコの反動らしい。限界を越えるほどムキムキになった彼女の身体への負担はやはり小さくなかったようだ。

 真依が何度目かの寝返りを打っていたところで、部屋のドアが開く。


「大丈夫ー?」

「梨花……。で、どうだった?」

「うん、この辺りで一番強いモンスターの情報は集めてきた」


 ギルドに寄っていた梨花は、いくつかの依頼の紙を真依に見せる。そこにはゲームとかでお馴染みの有名なモンスターの名前が並んでいた。

 サイクロプス、オーガ、ドラキュラ、サンドワーム。そして、ドラゴン……。一通り目を通した真依はポツリとつぶやく。


「うーん、どれもパッとしないねえ」

「ギルドにはこれ以上のモンスターの情報はなかったよ。他のギルドにはあるかもだけど。とりあえず片っ端から倒していく?」

「今日は動けんから、明日からかな」


 その日一日を回復に徹した彼女は翌日に復活。筋肉痛がなくなっただけでなく、身体が嘘みたいに軽くなっていた。宿屋を出た真依はギルドで梨花と合流。早速今日からのスケジュールのすり合わせを始めた。

 注文したサイダーを一口飲んで、真依は友達の顔を見る。


「なんか更に強くなった気がする」

「そりゃマッチョキノコだもん。当然だよ」

「でさ、思ったんだけど……魔王倒しちゃわない? それだと確実じゃん」

「え?」


 このトンデモ発言に梨花は目を丸くする。ただ、話の筋は通っていた。強い敵を倒して次元の裂け目を作り出すなら、最強の存在を倒せば確実に目的は達成されるだろう。

 ただ、そこには大きな問題が2つあった。そのひとつをお供マスコットのトリが訴える。


「いくら真依が強くなったとは言っても、流石に魔王は無茶すぎるホ」

「勝てないって言うの?」

「そもそも魔王の強さが分からないホ」

「私と梨花がいれば大丈夫だって」


 真依は謎の自信でトリを説得する。確信に満ちた顔を近付けられ、その圧に押された彼は沈黙した。強さの問題は戦ってみないと分からないので保留でもいいだろう。そして、もうひとつの問題を梨花が指摘する。


「て言うかさ、ギルドに魔王の情報なんてなかったよ。どこにいるのかも……」

「じゃあ、強いやつを締め上げて吐かせよう」

「!!」


 このマッチョな発言に梨花は目を白くする。真依さん、恐ろしい子っ。しかし他にいい方法も出て来なかったので、なし崩し的にその作戦で行く事になった。

 ギルドを出た2人は適当に強そうなモンスターを探す。そして、発見次第半殺しにしては問い詰めた。


「くっ! 早く殺せ!」

「あなたなら魔王の居場所を知ってるんじゃない? 教えてくれたら開放してあげる」

「魔王だと? そんなのはいねえ! 俺達は自由なんだ!」


 どれだけモンスターを締め上げても、返ってくる答えは全て同じ。確かに、この世界のモンスターは野生動物のようにみんな好き勝手に行動している。集まって国を形成している様子もない。国がなければ、王がいないのも道理。

 その事実に辿り着いた梨花は、肩を落としてため息を吐き出した。


「魔王、いないっぽいね」

「それじゃあ、帰れないじゃーん!」


 計画が白紙に戻った事で、真依は頬を膨らます。次元の裂け目を作るには普通のモンスターではダメなのだ。果たして、真依達が望む裂け目を作れるほどの桁違いに強いモンスターはこの世界にいるのだろうか?

 これからどうしたらいいか悩み始めたその時、突然どす黒い波動を2人はキャッチする。梨花はすぐに顔を素早く左右に動かした。


「何これ?」

「行ってみよう! 魔王が降臨したのかも!」


 その感覚を頼りに、真依達は波動の発生源に向かう。辿り着いた先にあったのは、巨大で立派な漆黒の城。そして、城の奥に進んだ先の部屋でふんぞり返っていたのは、如何にも魔王っぽい異形の大男だった。

 そいつを目にした途端、トリが正体を叫ぶ。


「お前はワンコ! 何故ここにホ?」

「え? あいつ犬なの?」

「違うホ! あいつは僕らの世界を侵略したマイナス世界の魔導帝国のボスホ!」


 そう、そこにいたのはトリ達の宿敵だったのだ。いきなりのラスボスとの邂逅に、流石の真依もゴクリとツバを飲み込む。

 一方、ワンコは突然現れた侵入者達に向かって冷たい視線を向けた。


「何故だと? 当然この世界を支配下に置くためだ。逆に、何故魔法少女がこんなところにいる!」

「はぁ? あんたの部下を倒したらこうなったんだー!」


 ワンコの無神経な一言に真依はキレる。先手必勝とばかりに、彼女は魔王に向けてステッキをかざした。


「フルチューンダイレクトボンバー!」


 杖にフルチャージされた魔法弾がワンコに向けて射出される。その膨大なエネルギー弾は微動だにしない魔王に直撃。直後に大爆発を起こした。


「やったかっ?!」

「それ禁句ホー!」


 トリがツッコミを入れる中、爆煙が晴れると無傷のワンコがそこに立っていた。


「嘘でしょ?」

「この私に魔法が効くと思うか? おめでたいヤツめ」


 その発言から推測すると、目の前の大男には魔法が通じないらしい。流石は魔導帝国のボスなだけはある。魔法が通じないと言う事は、魔法しか攻撃手段を持たない魔法少女では勝てないと言う事でもあった。

 しかし、それは少し前までの事。真依はすぐに梨花に目配せする。


「梨花、あれを!」

「ほいさ!」


 梨花は真依にある物を投げ渡した。そう、それはマッチョキノコ。邪魔が入らないように速攻で口の中に放り込んだ真依は、パワーアップしてマッチョスタイルになった。

 この突然の変化を初めた見た魔王は、流石にドン引きする。


「な、何だそれは。醜悪な姿になったな」

「この素晴らしい肉体美を馬鹿にするなーっ!」


 すっかりマッチョを気に入っていた真依は、感情を爆発させて殴りかかる。ワンコはその気迫に危機を感じたのか、今度は素早く移動して攻撃を避けた。

 空振りして壁に大穴を開けた彼女は、鬼の形相のまま振り返る。


「何避けてんだよ!」

「お前、性格も攻撃的になるのか」

「次は避けんじゃねーぞ!」


 真依はまたすぐに攻撃に転じる。この物理攻撃に対して、ワンコは杖をかざした。強烈な電撃が魔法少女を襲うものの、マッチョな彼女はそれを拳のひとふりで振り払う。


「それがどうしたよ!」

「何……だと……?」


 攻撃が弾き返された事で魔王は動揺するものの、真依の攻撃に対しては瞬間転移で回避。そして少し離れた所に出現して、今度は強大な爆炎魔法を連射した。


「中々楽しませてくれるではないか!」

「お前もなあ!」


 バトルジャンキーになった真依と魔王との戦いはほぼ互角で決着が付かない。膨大な魔力と多彩な魔法を使いこなす魔王と、筋肉でそれを弾き飛ばす舞依。エネルギー攻撃と物理攻撃。性質が正反対だからこそ、お互いに打ち消し合っていた。


「すごい戦いホ……」

「先に力が尽きた方が負けニョロね」


 お供マスコット達が感心する中、梨花もまたすっかり観客となっていた。


「真依ー頑張ってー!」

「梨花も参戦しろっての!」


 真依は高速で梨花の前に回り込むと、その口にマッチョキノコを押し込んだ。無理やりマッチョにされた彼女は、初めての筋肉の膨張にテンションを上げる。


「フオオオオ!」

「行くよ! 2人で倒そう!」

「筋肉が2人、だと……?」


 この急展開には、流石の魔王も動揺する。1人でも互角だったのにそれが2人だ。数の上で圧倒的に不利になり、彼の心から余裕が消えた。


「こうなったら、最終魔導奥義を」

「W魔法少女キーック!」

「ぐべらわああ!」


 マッチョな魔法少女2人のフルパワーキックの直撃を受け、魔王は大爆発! こうしてラストバトルは真依達の勝利となった。

 力を使い果たした彼女達のマッチョ化もこの時点で解ける。勝利を確認した2人は、手を叩き合って喜んだ。


「「やったー!」」

「2人共見るホ! 次元の裂け目ホ!」


 トリの報告に、2人は同じ方角に顔を向ける。これで元に世界に戻れる――はずだった。しかし、2人が目にしたのは意外な光景。

 何と、その裂け目はひとつではなく、7つも発生していたのだ。


「「ええーっ!」」


 想定外の状況に魔法少女達は困惑する。真衣はそれらを順番に指さした。


「どこに入っても行き先は同じなのかな?」

「そうとも言い切れないよ?」

「この中のどれかが元の世界に通じているって事?」


 予定外の事態になった場合は最悪を考える事、それが梨花の性分だ。7つの裂け目を前にした彼女は、指を顎に乗せて考え始める。


「ラッキー7になるか、アンラッキー7になるか……」

「確率は7分の1……っ!」

「て言うかほぼアンラッキー7じゃん。やめとく?」


 違った裂け目を選んだら、また別の異世界に飛ぶ可能性が高い。慎重派の梨花はリスクを考えて撤退を提案する。しかし、このチャンスを逃せばもう二度と次元の裂け目に遭遇しない可能性もまた高かった。

 真依は、発生している裂け目が徐々に小さくなっている事に気付く。


「悩んでいる内に消えちゃうよ! チャンスは今しかないんだって」

「でも……」

「こう言うのは直感!」

「ちょっとおおおー!」


 彼女は梨花を引っ張り、強引に裂け目のひとつに飛び込んだ。お供マスコット達もはぐれないようにすぐ後に続く。

 そうして、真依が直感で選んだ次元の裂け目を通り抜けた先にあったのは、2人が思い焦がれた舞鷹市の風景ではなかった。


「どこよここーっ!」

「やっぱりアンラッキー7だったーっ!」

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